第719話 夕也兄ぃ

 ☆麻美視点☆


 今日は夕也兄ぃがお泊まりする事になった。

 ただ、亜美姉にはしっかりと釘を刺されたので、夕也兄ぃには手を出す事はしない。

 私はとても律儀なのだ。 約束は守るよ。

 というわけでお風呂上がりの現在、夕也兄ぃと一緒にゲーム三昧の真っ最中だ。


「おりゃ! おりゃ!」

「うおぅ?!」


 夕也兄ぃと格闘ゲームで対戦中。 画面の中では画面端で亀みたいに固まっている夕也兄ぃのキャラに対して、私の操るキャラが投げや中段攻撃で崩してコンボを叩き込んでいる。


「ぐぬー、強いな麻美ちゃん」

「うむ。 ゲーセンとかでもやってるからね」


 ゲームは私の土俵だし、さすがに夕也兄ぃに負けるわけにはいかない。

 夕也兄ぃは「もう一回やるぞ!」とムキになって再挑戦してくるも、全て返り討ちに合わせてやったよー。

 対戦系のゲームでは夕也兄ぃが負けてばかりで可哀想なので、途中からは協力ゲームを遊ぶ。

 お互いに息を合わせてキャラクターを操作してゴールを目指すのだ。


「麻美ちゃん、もうちょっとこっちだ」

「む、難しい! 微調整が難しいぞー」


 2人でワイワイ言いながら協力プレイをするも、中々息が合わずにあっさりゲームオーバーになってしまう。

 私と夕也兄ぃは相性があまり良くないのだろうか?


「しかし、麻美ちゃんは来年受験だろ? 勉強の方は大丈夫か?」

「亜美姉にも心配されたけど大丈夫だよー! 何だかんだ言ってやる時間作ってしっかりやってるんだよ」


 本当だよ。 私はメリハリを付けてやりたいタイプで、遊ぶ時はひたすら遊び、勉強する時は集中して勉強する。 ちゃんとやれているのだ。

 他人から見たら遊んでばっかりに見えるみたいだけど……。


「そうか。 そうだよな。 麻美ちゃん昔から成績は良いもんなぁ。 隠れてちゃんとやってんだよな」

「その通り! 今日は遊び倒す日だー!」

「いやいや、いくら明日休みとはいえなぁ」

「まあ疲れたら寝るー」

「ははは。 しょうがないな。 付き合ってやるか」


 夕也兄ぃは苦笑いしながらも私と遊んでくれると言ってくれる。 昔からこういう人なんだよね。

 優しいというか甘いというか。 そんな夕也兄ぃが大好きなわけだけどー。


「よーし、ネットサーフィンするぞー」

「ネットサーフィン? 何見るんだ?」

「んー? 私のファンサイトとか?」

「あるのか?」

「あるよー。 作家のアサミの方だけどねー」


 夕也兄ぃと会話しながらカタカタとキーボードを叩き、私のファンサイトを開く。


「公式ファンサイトって書いてあるぞ」

「うむー。 私と編集さんが許可したー」


 ファンサイトでは主に私のファン達が、私の作品を読んであーだこーだと感想を言い合ったり、次の作品を首を長くして待っている人がいたり様々だ。

 中には強烈な批判をする人もいるけど、そういう厳しい意見も真摯に受け止めている。

 そして、私はたまに覗きに来ては掲示板に宣伝を書き込んだり、普通に会話に混ざったりしている。


「こんばんわー! アサミでーす! っと」

「普通に書き込むんだな……特定とかされないのか?」

「今のとこ平気っぽいー」


 私が書き込むと、ファン達が一斉に書き込む。


「祭りになってるぞ」

「なはは」


 掲示板では「アサミ様が降臨なされた!」や「新作はまだですか?!」など、ものすごい勢いで書き込みが増えていく。


「すげぇ! 麻美ちゃんマジで人気作家なんだな」

「えへんっ! 将来有望な作家だぞー! 捕まえておいた方が良いんじゃないのかね?」


 と、そこまで言って思い出す。 夕也兄ぃの彼女も将来有望な作家だったー!


「亜美姉には勝てないー……」

「忙しい子だな麻美ちゃんは……」

「むぅ」


 私だってスペックは高い方だと自負しているけど、亜美姉という人はそんな私の遥か上をいく超人みたいな人だ。 勉強もお料理も恋愛も小説も、どれを取っても足元にも及ばない。 唯一勝ってると言えるものは夕也兄ぃへの想いだけ。


「おーい」

「んにゃ」


 ちょっと思い詰めていると夕也兄ぃがほっぺた引っ張ってきた。


「いふぁいー」

「何を急に鬱になってんだよ? 楽しく遊ぶんだろ」

「う、うんー」

「ふむ。 俺はな、麻美ちゃんの事ちゃんと好きだぞ?」

「ふぇっ?」


 夕也兄ぃは今、私の事好きだって言った?

 しばらく呆けたような顔で夕也兄ぃを見つめながら色々と考える。

 夕也兄ぃはこういう事をさらっと言うから困る。

 きっと他意は無いんだろうけど……。

 今回もどうせ妹みたいな存在としてとかそんな感じなんだろう。


「はぁ、夕也兄ぃ……またまたそんな事を言ってー。 どうせ妹みたいなものだーとか言うんでしょ?」

「いや、それは違うぞ。 妹扱いはしないって前に約束したろ」


 たしかにそういう話をした。 あれは私が夕也兄ぃに告白して、初めてをあげた日だった。 あれから夕也兄ぃはちゃんと私を女の子として見てくれるようになった。 もう妹扱いはではないみたいだ。


「女として好きだって事ー?」

「おう。 ただ、そのな? だからと言って恋人にしてやるとかそういう事は言えないけどよ」

「むぅー。 やっぱり亜美姉の壁は強いー」

「悪いな」

「しかーし! 私は簡単には諦めないのだ! 夕也兄ぃの事が大好きだからー」

「ははは。 それは麻美ちゃんの自由だからな。 俺から止めろとは言わないさ」


 夕也兄ぃは優しくそう言いながら微笑んだ。

 やっぱり優しくて甘い。 夕也兄ぃも亜美姉もだ。

 でも、これだけチャンスがあっても奪えない程、2人の仲は強固に結ばれている。

 諦めない限りチャンスはある……と、そう思って頑張るしかない。

 ただ、今日のところは亜美姉との約束もある事だから夕也兄ぃには手を出さないぞー。


「ふむ! この話は今日は終わり! ネットサーフィン続けるぞー」

「おう」


 ファンサイトでファンにファンサしながら時間を潰したり、亜美姉の事を検索して遊んだりした。

 そうして3時ぐらいまで夕也兄ぃと駄弁りながら過ごし、さすがにお互い疲れたという事で寝る事に。

 同じ部屋で寝るのを提案するも、さすがにそれは良くないと諭されて諦める。

 亜美姉との約束、夕也兄ぃを困らせる事はしない。


「じゃあ俺は奈々美の部屋で寝るからよ。 おやすみ」

「あまり物色したらお姉ちゃんに半殺しにされちゃうよ」

「物色なんてしねーよ……」

「なはは。 おやすみー、また明日ー」


 夕也兄ぃは手を振りながら部屋を出て行った。


「ふむー。 寝るかー」


 今日は一日夕也兄ぃと一緒にいれて幸せであった。

 夕也兄ぃが私の事どう思っているのかも確認出来たし、割りかし良い一日を過ごせたと思う。

 朝になったらお姉ちゃん達が帰ってきてまた賑やかになり、楽しい毎日が待っている。

 なはは、何だかんだ言って私も皆と賑やかにワイワイするのが好きだ。


「明日は午前中は勉強して、お姉ちゃんが帰ってきたら大会の話を聞こー……。 話によると亜美姉に勝ったらしいし楽しみだー……ふわぁ、眠たいー」


 夕也兄ぃと一緒ではしゃぎ過ぎたか、お疲れモードな私は、目を閉じるとすぐに眠りにつくのだった。

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