第721話 新拠点!

 ☆夕也視点☆


 奈央ちゃんからの新拠点完成サプライズから1週間。

 俺達はその新拠点を拝む為、駅前に集まっていた。


「後は遥だけね?」

「バイトだから仕方ないねぇ」


 来ていないのはバイトで遅れている遥ちゃんだけ。

 せっかくだから全員揃って行きたいという事で、遥ちゃん到着まで待つ事にした。


「私、何度か外観は見たんですけど、めっちゃデカイですよ」


 近くに住んでいる渚ちゃんは、何度か見たらしい。

 駐輪場だった土地だから、そりゃデカイだろうな。


「楽しみだねぇ!」

「あははは! 楽しみだー」


 亜美と麻美ちゃんは先日からずっとこの調子だ。

 特に麻美ちゃんはテンションがかなり高く、姉の奈々美は呆れて口が開いている。 亜美も亜美で新しい物が見れるとはしゃいでいる。 子供か?


 ちなみに紗希ちゃんは今頃、京都のパソコン前で待機中だろう。 彼女はしばらくは京都から出られないそうだから、実際に新拠点に来れるようになるのは夏季休講ぐらいになりそうだ。


「おーい、すまんすまーん」


 少し待っていると、走りながら遥ちゃんがやって来た。 バイトが終わったその足でやって来たようだ。

 そんなに慌てなくても良いだろうに。


「来たわね。 ちょっと休む?」

「いや、大丈夫だ。 それに着いたら休めるだろ?」

「それもそうね。 じゃあ行きましょうか」


 遥ちゃんが到着して全員揃ったので新拠点へと向かう。

 新拠点の場所は駅前広場から少し離れた場所にある。

 それは路地へ入り小さな公園を越えた先に建っていた。

 話に聞いていた以上に立派なその建物を見た俺達は、しばらくの間その圧巻の佇まいに圧倒されていた。

 まず目に入るのは広い庭。 池やベンチ、桜の木やひまわり畑にイチョウなど、季節ごとに楽しめそうな植物が植えられている。


「す、凄い……」

「やっぱりとんでもないわね」

「きゃはは! さすが奈央はやる事はスケールでかいわねー!」


 奈央ちゃんが持っているスマホからは紗希ちゃんの声が聞こえてくる。 ビデオ通話機能を通してこの情景を見ているのだろう。


「これが僕達の新しい拠点なんですね」


 春人はさすがに慣れているのか平然としている。

 さて、庭の先にはこれまたドデカイ建物が建っている。 どことなく西條邸に似た造りになっているようだ。


「これまた立派だな、おい」


 語彙力が無くなるのも無理はない。 あまりにも立派過ぎるのだ。

 いつもならはしゃぎ回る麻美ちゃんですら黙り込む程である。


「さ、入るわよ」


 奈央ちゃんが先陣を切り建物の方へ向かう。

 俺達は俺達で、口をあんぐりさせながら顔を見合わせつつ、奈央ちゃんの後へついていくのであった。


 中に入るとまずはとんでもない広さの玄関が出迎えてくれる。 高そうな絵画や花瓶等が飾ってある。

 

「ここ玄関でしょ? 私の部屋ぐらい広いんだけど……」


 と、奈々美がこれまた呆れたように言う。 たしかに俺達の部屋並みに広い玄関だ。

 信じられん。


「ほらほら、上りなさい」


 玄関から上がった所には、人数分のスリッパが並んでいて、更には名前まで刺繍されている。

 何という準備の良さだ。

 それぞれのスリッパを履いて玄関から上がると、少し歩いた所に扉がある。


「こっちはたしかお手洗いと浴室やなかったでしたっけ?」

「お風呂見るー!」

「じゃあお風呂見ましょうか」


 麻美ちゃんが見たいというので、まずは風呂を拝見。 話によると6人ぐらい入れるらしい。

 どれどれ?


「これが脱衣所よ」

「だ、脱衣所からして広い……」


 さすがに一気に6人は入れる浴室があるだけあり、脱衣所もそれに見合う広さをしている。

 6人分の衣服を置いておけるロッカーが備え付けてあり、更には全身鏡や洗面スペース。 ドライヤーなんかも完備。 至れり尽くせりだ。

 個人ロッカーも置いてあり、マイ洗面用具も持って来て置けるようになっている。


「はぅ……充実してるね」

「そうね」

「ふふふのふー。 次は浴室を見ましょ」


 皆の反応を見て大満足の奈央ちゃんは、かなりご機嫌になりながら浴室の扉を開けた。


「オープン!」


 両開きのドアを両手で押して開け放つと、そこには広い浴室が待っていた。

 床や壁や浴槽は大理石か何かで出来ており、それだけで高級感が溢れている。


「こ、この広さは掃除が大変かも」

「まあ、定期的に皆で集まって掃除するのは必須でしょうね」

「自分達が使うんだもんね。 自分達でやらなきゃ」


 と、ハウスキーパーに丸投げというわけではないらしい。 中々大変だろうが、それだけの価値のある拠点だ。

 さて、浴槽の方は6人が入れるというだけありかなりの広さがある。 余裕を見て6人ということなんだろうか、無理すれば10人ぐらいは浸かれそうだ。

 そしてシャワー等の洗浄設備も6人分付いている。

 これなら洗髪などの順番待ちが発生することもないだろう。


「これ見てこれー!」


 と、何やら発見した麻美ちゃんが指差す方向を見ると、巨大なモニターが現れた。


「良く見つけたわね? テレビですわよー」

「よ、浴室にテレビー?!」

「これで気になる番組の気になるシーンも見逃すことはないわよー」


 そこまでして見たい番組があるかは別だが、中々ぶっとんだ浴室である事はわかった。

 亜美達は実際に浴槽の中に入って座ってみたりして、その広さを確認していた。


「ささ、次の部屋に行きましょ」


 そういえばまだ玄関入って最初の部屋だった事を思い出す。

 俺達は奈央ちゃんに続き脱衣所を抜けて、玄関から伸びる通路へ戻ってきた。

 浴室の反対側にはこれまた扉があり、そこを開けるとダイニングキッチンとなっていた。

 4人ぐらいが調理出来そうなスペースと、俺達全員分の食事を乗せても余裕がありそうなテーブル。


「これは凄いよ! こんなキッチンでお料理作りたいねぇ!」


 亜美はスタスタと調理スペースへと移動していき、棚の中やコンロをキョロキョロ見ている。

 スマホからは紗希ちゃんも見ており、同じように早く腕を振るいたいと言っていた。


「冷蔵庫、コンロ、換気システムや湯沸かし器まで、全て西條グループ最新のモデルよ。 説明書は棚の中に一通り入っていますから、時間のある時にでも読んでおいてね」

「らじゃだよ」

「りょ! あー、早くそっちに戻りたいー」


 京都にいる紗希ちゃんは早くもうずうずしてきたようだ。

 ダイニングキッチンを出て通路を進むと、2階へ上がるためのスロープがあった。

 更に通路は左右に分かれており、左側は皆がくつろげるリビング、右側は体を動かせるようなトレーニングルームになっているとの事。

 何でもあるな。


「階段じゃなくてスロープなのね」

「ええ。 以前に亜美ちゃんが足を怪我したこともあったし何かと不便そうだったから、何かそういうことがあった時でも使いやすいように、出来るだけバリアフリー構造にしたのよ」

「配慮が行き届いてるな」

「匠の技だな」


 スロープを上がると、そこは俺達1人1人の為の個人部屋フロアとなっていた。 部屋割りはまだ決まっていないとの事だが、内装はどの部屋も同じらしいので好きな部屋を取って構わないらしい。

 部屋はカードキー式で、対応した部屋のカードでないと外からは開け閉めできないようになっている。

 各部屋にはテレビや空調、パソコン、ブルーレイレコーダーにクローゼットに金庫まであり、かなり充実した個室となっている。


「す、凄い」

「一通り設備は整ってますけど、必要な家具やベッドなんかは私に言ってね。 それぞれ好きなメーカーや思い描く内装なんかもあるだろうから、あえてそこは触らないようにしてあるわよ」

「お、おお……家具代も出るのか?」

「まあ、限度はあるけど」


 そ、そこまでしてもらえるのか……。 もはや仲間だからとかそういうのを超越してないか?

 奈央ちゃんはどれだけ皆の事を好きなんだろうか?


 部屋を全て見終えた俺達は、今日は一旦解散する事にした。 それぞれ拠点の鍵を受け取り、後日好き好きにやってきては部屋の内装なんかを少しずつ弄ることにする。

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