第708話 初めての真剣勝負

 ☆奈々美視点☆


 東日本インカレ決勝……の前に行われた三位決定戦のお話をしておきますか。

 三決は希望のいる青葉丘教育大学と、遥のいる羽山体育大学で行われた。

 試合の方はチーム力の高い羽山有利かに思われたが、希望の鉄壁の守備の前に羽山の攻撃陣が沈黙。

 遥が唯一対抗していたが残念ながら及ばず。

 希望達青葉丘教育大学が三位に決定した。

 これで希望は、練習試合で私達七星と、今日、遥達羽山体育大学に勝利したことになる。

 何気に強いわね。


 そんな三決も終わり休憩を挟んだ後、いよいよ決勝戦の始まりとなる。

 私達の七星大学と亜美と奈央がいる白山大学の試合だ。


 私達は先にコートへやって来て軽くアップを開始する。

 少し遅れてやって来た白山大学はベンチに座りストレッチをしたりしているわ。

 あ、亜美が手を振ってる。

 仕方ないので手を振り返しておく。


「仲良いのね」

「あ、はい。 亜美とは物心ついた時からいつも一緒なんです。 親友とかそんな感じで……」

「良いわねそういうのー。 今日戦いにくいんじゃない?」


 と先輩に訊かれたが、私は首を横に振りそれを否定する。


「むしろ、早く戦いたくてウズウズしてます。 何せ今までずっと同じチームでプレーしてきたもんですから、別々のチームに別れて真剣勝負した事が無いんで。 初めてあの子と勝敗を賭けた真剣勝負が出来ると思うと、ワクワクするんですよ」

「勝てるようにサポートさせていただきます」


 と、先輩が笑いながらそう言った。

 アップを終えて白山大学にコートを譲りベンチに腰掛ける。

 亜美との初めての真剣勝負か。

 今まであの子とは色々やってきたっけ。 お遊びで色々と勝負したりはするけど、そういう時はお互い本気でやるわけじゃないから、勝ったり負けたりを繰り返している。

 だけど、あの子と本気と勝負すれば何をやっても私の勝ち目はほとんどないだろう。

 それだけあの子と私のスペックの差は大きいと思っている。

 小さな頃から何をやらせてもすぐ人並み以上にこなしてしまう親友。

 何をやっても完璧で、よく親からも比較されたりしたわ。 私はずっと不公平だと思ってきた。

 何でこんなに違うんだろうと何度も思った。

 何かでこの子に勝ちたいと思ってきた。

 でも、中々真剣勝負をするという機会に恵まれないまま今日まで過ごしてきた。


 そして今日、ついに真剣勝負をする日が巡ってきた。

 私と亜美の大好きな、このバレーボールで。


 お互いアップを終えてコートに集まる。

 亜美と奈央は当然のようにスタメンにいる。


「やほ」

「やほほ。 やっとね」

「初めての真剣勝負だねぇ。 今考えると、どうして今までしてこなかったのか不思議で仕方ないよ」

「ずっと一緒だったのにね」

「本当だよ」


 お互い笑い合いながら言葉を交わす。

 そしてネットの下から手を出して握手を交わす。


「良い試合にしましょ」

「うん」


 手を離してポジションにつき、試合開始の合図を待つ。


 ピーッ!


「まず一本! 入れてこー!」


 試合開始。 サーブは私達から。


 パァンッ!


 綺麗なジャンプサーブが飛んでいくが、それは亜美に拾われる。

 体勢も崩れていない事から、このまま攻撃にも参加してくる可能性が高い。


「にしても、腹立つくらい綺麗なレセプションね」


 リベロでもやってけそうね。


「ナイスレシーブ」


 奈央が定位置でトスの構えに入る。

 亜美は体勢を整えて助走の準備に入っているわ。

 切り替えが早い。


「亜美ちゃん、まずは挨拶がわりに一発!」

「らじゃだよ!」


 奈央は亜美にトスを上げた。 亜美の得意な高い高いトスね。

 そのトスに合わせて跳ぶ亜美の高さは、本気で跳べば世界最高にまでなる。

 私達レベルのブロックでは……。


「てやっ!」


 パァンッ!


 触ることすらままならない。


 ピッ!


 あっさりとスパイクを決められてしまい、開幕0ー1スタートとなった。

 すぐに取り戻すわよ。


「ナイスサーブ!」


 今度は白山のセッターからサーブが飛んでくる。

 先輩達に任せて私は攻撃に集中するわよ。


「はいっ!」


 難しいフローターサーブだったけど、リベロの先輩が上手く上げている。

 ナイスだわ。


「藍沢さん! 挨拶返してあげて!」

「はいっ!」


 私に上がったトスに対して助走を開始する。

 ブロックには亜美も来ているわ。


「打ち抜く!」

「止める!」


 空中で視線を合わせる。

 亜美のブロックは高さは高い。 けど、遥程上手いわけじゃないわ。


「はっ!」


 パァンッ!


 亜美のブロックを物ともせずに突き破り、私もスパイクを決める。


「あいたた……やっぱり凄いパワーだよ……」


 亜美は手の平にフーフーと息を吹きかけながらそう呟いた。

 私と亜美、両エースがそれぞれ一本ずつ決めての開幕となったわね。

 希望や遥みたいな鉄壁の守備を誇る相手がいない分、私も打ちやすくて助かる。

 でもそれは亜美にも言えることかしらね。


「さあ、ここ取りましょう!」

「おー!」


 こちら側のサーブだけど、これはリベロに拾われる。

 さて、次こそは止めてやるわよ……。


「げっ」


 亜美がもう助走に入ってる?! このタイミングでの助走って事はつまり。

 等と考えているうちに亜美は既にジャンプに入って腕を振っていた。


「高速連携?!」


 パァンッ!


 ブロックに跳ぶ間もなく速攻を決められてしまう。

 そうだった。 奈央がいるって事は当然それもあるんだったわね。 失念していたわ。


「ふっふっふ。 私達の多彩な攻撃に対応でしますかしら?」

「ちょいとばかりキツイわね」


 あれまで出されると、中々手の打ちようが無い。

 ただでさえ不可侵の高さから攻撃が振ってくるってのに、テンポまでやりたい放題じゃあね。


「何か突破口が見つかれば……」


 その後はまた私が決めて、また亜美が決めてとお互いの攻撃が止まらない展開が続く。

 そしてローテーションで私がサーブに入るタイミングがやってきた。

 現在3-3の同点。


 私も亜美も後衛に下がってはいるが、お互いバックアタックもあるため攻撃力はそこまで下がりはしない。

 亜美に攻撃させずに点を取るには……。


「サービスエースが有効ね」


 ここは狙っていく。 ボールをトスしてランニングジャンプ。 最高打点で思い切りボールを叩く。


 パァンッ!


 手応えあり。 私の放ったサーブは、ミドルブロッカーの選手の少し左側へ飛んでいく。

 レシーブの体勢を取り、手を伸ばしボールを上げようとする。


 パァンッ!


 手首でレシーブしていたようだが、ボールの勢いを殺しきれずにそのまま後方へ飛んでいった。


 ピッ!


「よーし!」

「ナイスエース!」

「さっすが藍沢さん!」


 サービスエースで1点をもぎ取る。

 サーブならいける。 今のを見た感じあのミドルブロッカーはあまりレシーブが上手くない。

 もう一本いっときますか。


「ふぅ……」


 息を整えながらルーティーンを行い、もう一度ミドルブロッカー周辺を狙ってサーブ。


 パァンッ!


「ちょいと長いかしら?!」


 アウトの予感!


「アウト!」


 ピッ!


 相手もアウトと見てボールを避けたが、審判はインの判定。

 ギリギリオンラインだったようだ。


「よっし! よしよし! ラッキーラッキー!」


 打った瞬間はアウトだと思ったが、どうやら運も味方しているらしい。

 このままいくわよ!

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