第694話 偵察

 ☆希望視点☆


 さてさて、今日は決勝トーナメント一回戦の8試合が行われます。

 この体育館はかなり大きな体育館で、バレーボールのコートがなんと4面あるのです。

 各コートは別の部屋に区切られているので、偵察するには部屋間の移動をしなければなりません。

 私達青葉丘教育大学は、同じブロックであり勝ち上がりが濃厚な白山大学……亜美ちゃんと奈央ちゃんのいる大学を偵察する事にしました。

 奈々美ちゃんのいる七星大学も気にはなるけど、あちらは逆の山にいるチームだから決勝戦までは当たらない。 まだ慌てて偵察する事はないという事です。


「さて、白山さんはどんなチームかしらね」

「雪村さんは清水さんと西條さんについては詳しいんでしょ?」


 キャプテンの末広先輩に訊かれたので頷いておく。


「亜美ちゃ……清水さんは全てのプレーが超一流のオールラウンダーですよぅ。 出来ない事はないんじゃないでしょうか。 西條さんのトスのセンスは神懸かり的で、相手ブロックの裏を掻いたりするのも上手いです。 ボールコントロールも凄くて、アタッカーの打ちやすい所にピンポイントでトスを運んできます」

「聞いただけでも化け物っぷりがわかるわね……」


 本当に化け物みたいなスペックだよぅ。


「まあ、雪村さんも大概化け物じみてるけど」

「はぅ?! そんな事ないですぅ」


 私は両手をブンブンしながら否定する。

 私は亜美ちゃんや奈央ちゃんに比べたら全然普通レベルの人間だと思うのです。 はい。


「自覚無しなのね……」


 先輩方に呆れられてしまったのでした。

 んー?


 それはそうと、そろそろAコートで試合が始まるよ。

 両チームが姿を現し、それぞれがアップを始める。

 亜美ちゃん達白山の対戦相手は東東京の大学。

 私達が予選で倒した相手です。

 亜美ちゃん達なら問題無く勝てるだろう。


 あ、亜美ちゃんと奈央ちゃんがこちらに気付いた。

 亜美ちゃんは笑顔で手を振っている。

 私も振り返すよぅ。


「やっぱり仲良いのね?」

「はい。 月ノ木メンバーは皆仲良しですよ。 清水亜美ちゃんは私の義理のお姉ちゃんなんで特に仲良しです」

「義理の? 何だか複雑そうね」

「そんな事は無いと思うんですけど」


 たしかに昔は色々と大変な事はあったけど、今は家族4人仲良しである事を先輩に話しているうちに試合の方が始まりそうです。


「始まりますね」

「おっと、偵察偵察」


 と、試合の方に目を向ける。

 すると、後ろから声を掛けられた。


「おっすー。 希望ちゃんも偵察かい」


 聞き慣れた声に振り返ると、そこには羽山体育大学の遥ちゃんが立っていた。

 他の羽山の選手がいない事から、遥ちゃん単独での偵察のようです。


「遥ちゃんも?」

「まあね。 始まったとこかい?」

「うん」


 試合の方は今始まったばかりであり、亜美ちゃんがいきなりスパイクを決めています。


「羽山体育大学の蒼井さん……月ノ木レジェンドのMBミドルブロッカーね」


 うちのキャプテンが遥ちゃんに反応する。


「いやいや、私なんか他の5人に比べたら全然普通ですよ」

「月ノ木出身の皆って自分達が凄い選手だって自覚はないのね……」


 と、キャプテンは苦笑いしていた。


「遥ちゃん1人?」

「おう。 七星の偵察してるよ。 私はこっち担当」


 隣の席に座って一緒に観戦を始める。

 注目はやっぱり亜美ちゃんと奈央ちゃんの白山大学かな?


「ふむ。 白山はでかい選手多いな。 亜美ちゃんと奈央が小さく見える」

「あはは。 奈央ちゃんなんか小学生に見えるよ」

「ありゃ元からちっこい」

「そこ! 聞こえてますわよ!」

「はぅ」

「どんな地獄耳してんだよ……」


 ここで普通に話してる声を拾うなんて、やっぱり只者じゃないよぅ。


「白山は以前からブロック中心の守備的なチーム作りをするわ。 今の世代は特に高身長な選手が多くて、ブロック力はかなりのものね」


 うちの大学のデータ収集係である、3年の前田先輩が簡単に説明をしてくれました。


「そこに亜美ちゃんと奈央が入って火力も上がってるわけか……」

「強敵だよぅ」

「清水さんは大学では守備的OHアウトサイドヒッターの位置付けみたい。 徹底的に守りを固めるチーム作りをするコーチみたい」

「亜美ちゃんはリベロ的なプレーも出来るから適任ですよ」

「攻撃に参加してくるリベロって反則だよな……」


 遥ちゃんの言う通りである。

 月ノ木学園在籍時は強力なOHである奈々美ちゃんや紗希ちゃんが目立ち、亜美ちゃんはOHではあったもののユーティリティプレーヤーとしてコートに立っていたため、攻撃にそこまで傾倒はしていなかった。

 ただ、世界一の高さから放たれるスパイクは、日本の高校生レベルじゃとてもじゃないがブロック出来るレベルではなく、そのスパイク決定率は非常に高くまとまっていた。

 今の亜美ちゃんは、守備的に立ち回りながらも1年エースとしてスタメンに入っているようです。


「凄い子ねあの子……」

「西條さんも相手ブロック翻弄してるわ。 正直言って強過ぎでしょ白山大学」


 先輩は白山大学の亜美ちゃんと奈央ちゃんのプレーを見てだいぶテンションが下がっている。

 わからなくもないけど。


「遥ちゃんなら亜美ちゃんの全力止めれたりしない?」

「全力は無理かもなぁ。 340とかだろ? 私でもそこまでは無理だ。 紗希ならあるいわって感じだよ」

「紗希ちゃんも最高到達点高いもんね」

「亜美ちゃんを止めるとしたら、ブロックよりリベロのレシーブじゃないかな?」

「私かぁ……」


 どうしてもブロックで止めるのは難しいため、スパイクされたボールをレシーブする方が可能性はあるとの事。


「でも、亜美ちゃんはブロックでコースを絞れないから、私の居ないコースに打ってくると思うよ」

「だろうね。 もうそこまでいくと読み合いになってくるさ」

「読み合いかぁ……」


 スパイクされる瞬間にコースを読んで動かないといけないって事だね。 難しいよぅ。


「勝利の鍵は雪村さんって事ね」

「せ、先輩ー……」


 私はどうやらかなり責任重大なようです。

 どうしよう、私全然自信ないよぅ。


「ナイス清水さん!」


 試合の方は亜美ちゃんが守りに攻めにと大活躍している。 あっという間にテクニカルタイムアウトまで来てしまった。

 つ、強いよぅ。


「やっぱり強いなぁ……」

「うん」


 対戦は楽しみだけど、ぼこぼこに負けるのは避けたいよ。


「遥ちゃんは奈々美ちゃんに勝てる自信はあるの?」

「まあ半々って感じだね。 ただあいつのスパイクをブロック出来るかっていうとわからんよ」

「やっぱり奈々美ちゃんのスパイク凄いもんね」


 私は練習試合では勝てたけど、次やっても勝てるかと言われたらわからないし。

 この大会、本当に面白い大会になってきたよぅ。

 勝っても負けても楽しい試合にしたいところです。



 決勝トーナメント一回戦の白山と東東京の試合は亜美ちゃん達白山大学の完勝でした。

 やっぱりあの2人がいると凄く強いです。


「次は私達の試合ね。 まだ時間はあるし、ちょいとゆっくりしておきましょう」

「私もチームに合流するか。 じゃ、また夜に」


 遥ちゃんは亜美ちゃん達の試合を観終えてチームに合流するようです。

 次の試合、試してみたいこともあるし試合頑張るよぅ。

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