第695話 対策
☆亜美視点☆
ピーッ!
「よし、1回戦突破だよ!」
「ま、この辺はまだまだ余裕ですわよ余裕」
ただいま決勝トーナメント一回戦の試合を終えて、ストレートで勝利したところである。
希望ちゃんや遥ちゃんが偵察に来ていたけど、有益な情報は得られたのかな?
観客席を見ると、遥ちゃんは席を立って何処かへ行くところのようだ。
希望ちゃんも手を降りながら先輩の後をついて行く。
2人とも他チームの偵察にでも向かったのかな?
「お疲れ様ー。 この後はどうしようかしら。 一応私達も偵察でもする?」
キャプテンは汗をタオルで拭きながらこの後の予定を話している。 私としては、希望ちゃんの試合を観戦したいところなので、シャワーで汗を流した後は時間まで体育館でゆっくり時間を潰すつもりである。
それには奈央ちゃんも同意している。
「青葉丘ね。 たしかに強そうだし、偵察はアリだわ。 じゃあ、青葉丘の試合が始まるまでは各自自由行動にしましょ。 コーチ、いいですよね?」
「好きにして下さい」
コーチは話がわかる人なのだ。
ひとまず解散となった私達白山大学バレー部。
私はまずシャワールームへ向かう事にするよ。
◆◇◆◇◆◇
ザーッ……
「しかし、奈々美のとこも楽々勝ち上がってるみたいね」
「みたいだねぇ」
シャワールームへ来る時に、トーナメント表をチラッと確認したところ、奈々ちゃん達七星大学は、2セットともダブルスコアをつけての快勝だったようだよ。
「やっぱり奈々ちゃんのスパイクは簡単には止められないみたいだね」
「とんでもない威力でコースを突いてくるもの。 並のチームじゃまず無理よ」
奈央ちゃんも認める奈々ちゃんのパワースパイク。
私達に止められるだろうか?
「味方だった時は頼もしいエースだったけど、いざ敵に回すと寒気がしてくるわ……」
「あ、あはは……」
ガクガクブルブルだよ。
◆◇◆◇◆◇
シャワーを浴び終えた私達は、時間を潰す為に適当な試合を観戦する事にしたよ。
「あ、奈々ちゃんだ。 やほ」
「やほ。 あんた達も暇つぶし?」
「ま、そんなとこよー」
「本命は青葉丘の偵察って感じ?」
「うん。 奈々ちゃんは?」
「私もそんな感じ。 羽山の方は先輩達が見てくれるわ」
「なるほど。 奈々ちゃんは希望ちゃんに練習試合で負けてるもんねぇ」
「うっさいわねー……次は勝つわよ」
「残念だけど、青葉丘は私達白山に負けるから、対戦は出来ないわよ」
「あら、甘く見てると足元掬われるわよ?」
奈々ちゃんはどうやら、かなり希望ちゃんを評価しているようだ。
たしかに希望ちゃんは凄いリベロだ。 生まれ持った天性の動体視力と反射神経、そして勘の良さ。
それを武器に、スーパーレシーブを連発するのである。
でも、それはある程度コースが絞れている事が前提としてある。
もし、コースが絞れずにコート上全てが私のスパイクコースになったならどうだろう? 如何な希望ちゃんとは言え、簡単には拾えないはずである。
さて、それじゃあ私は、コースを塞がれる心配は無いのか? と訊かれたら、まず心配無いだろうと答えるよ。
何せ、私のジャンプ力は世界でもトップクラス。
並のレベルのブロックなら、その上からスパイクを打つ事が出来るのである。
つまり、好きなコースに打ち放題なのです。
私を止めるには、アメリカのオリヴィアさんを連れてくるしかないねぇ。
「そろそろこの試合も決着しそうね。 勝った方が次の白山の相手?」
「そうね。 どっちが来ても構わないけど」
見た感じ、そこまで脅威のあるチームではなさそうだもんね。
「この後よね? 希望んとこ」
「うん。 そだ、奈々ちゃんは青葉丘と試合したことあるからどんな感じのチームか知ってるんだよね?」
「えぇ。 結構な火力のあるチームよ。 特に松本って人のバックアタックには要注意よ」
「松本さん……えーと、
「そうね。 開幕から強烈なサーブを打ってくるし、中々良いプレーヤーよ」
「開幕サーバーなのね? かなりバックアタックに自信がおありのようで」
そこにも注意して観戦していこう。
◆◇◆◇◆◇
前の試合が終わりしばらくすると、コートに次の試合を戦うチームが入ってきた。
希望ちゃんの姿もあるね。
軽くアップをして、試合開始の合図を待つ両チーム。
サーブは青葉丘サイドから。 サーバーに立っているのが件のOP松本さんだね。
どれどれ。
ピーッ!
試合開始の合図と共に、松本さんがボールを斜め前にトスしながら助走していく。
パァンッ!
松本さんはランニングジャンプサーブを武器としているようだ。
「中々良いサーブだね」
「ね?」
「でもそれだけですわよ。 奈々美や月島弥生のバカげたサーブと比べたら見劣りするわ」
ズバッと切り捨てる奈央ちゃん。
たしかに奈央ちゃんの言う通りではあるんだけど、そんなハッキリ言わなくてもねぇ。
しかもそのサーブで相手チームのレシーブは乱れている。 やっぱり並のプレーヤーからすれば十分な威力のあるサーブなのだ。
私達はインターハイや世界選手権で、トップレベルの選手達を見てきたから大した事なく見えるだけなのである。
「一応攻撃に繋がるみたいよ」
「だね」
お相手さん側のセッターさんからトスが上がる。
その時、青葉丘サイドの動きに少し違和感を感じた。
何かがおかしい。
「ブロック付かないの?!」
「うわわ」
青葉丘サイドのプレーヤーは誰一人としてブロックに跳ぶ様子を見せていない。 これでは相手チームのアタッカーは好きなコースに打ち放題である。
「好きなコースに……打ち放題?」
それは、私が青葉丘の希望ちゃんに対して取れる有利な点だ。 希望ちゃん、まさかその事に気付いていて……。
パァンッ!
相手チームのアタッカーは当然ガラ空きのスペースにスパイクを打ち込む。
しかし、それより少し早くに動く影があった。
希望ちゃんである。 軽く右に跳ねて、相手アタッカーのインパクトする瞬間に着地、着地の反動を利用して更にダッシュに繋げ、見事にスパイクを拾って見せた。
「あらら」
「す、凄い……」
「読みが鋭いのは勿論だけど、天性の動体視力で相手の体の動きを瞬時に判断してコースを予測してますわね。 スプリットステップも完璧ですわよ」
まさに神業である。 これが希望ちゃんなりの私対策という事なのだろう。
どうやら青葉丘教育大学は楽には突破出来なさそうである。
「あんなの隠し持ってたのね、あの子」
「普段はやらないよね? スプリットステップ」
「ですわね。 知らなかったとか?」
「有り得る……」
もしかしたら大学の先輩に教えてもらったりしたのかもしれない。
ただでさえ反応の早い希望ちゃんの守備範囲が、更に広くなったみたいだ。
「あれはちょっとやそっとじゃ抜けないわよ……どうしましょうね」
奈央ちゃんもこれには舌を巻いている。
これは私も何かしら対策しないと、希望ちゃんに封殺されかねないよ。
さてさて、どうしたものか。
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