第662話 優良物件
☆希望視点☆
さてさて、今日は秋田からお爺ちゃんとお婆ちゃんがやって来ています。
お母さんとお父さんのお墓のお引っ越しの件は何とかなりそうという事で、次はお爺ちゃんとお婆ちゃんのお引っ越しの件を進めて行くよぅ。
途中、和食屋さんでお昼休憩をした後、これまた奈央ちゃんの家の息が掛かっている不動産屋へやってまいりました。
「こんにちは。 最近はどうです?」
「奈央お嬢様! ご機嫌麗しゅうございます。 調子の方は上々でございますよ」
「そうですか。 今日はお客様をお連れしたわよ」
というわけで、案内してもらい奥の個室へと向かう。
「どうぞこちらへ」
人数分の椅子を並べてもらい、順番に着席。
本題に入る。
「今日はこちらのご老人御二方に合いそうな賃貸物件を紹介してくださるかしら?」
「かしこまりました」
というわけで、まずはどのような立地が良いかや、広さ等の条件を細かく伝える。
やはり高齢者2人という事で、今はまだ元気でもいつ身体が不自由になるかわからない為、バリアフリーが完備されているような物件が良い。
移動するにも電車やバス等の公共の乗り物を使いやすい立地が良い等。
そして大事なのが、私が徒歩でも行き来出来る距離である事。
そんな感じで候補を絞っていった結果、駅に近い物件2件にまで絞り込んだ。
「後は現地で実際に見てもらって決めた方が良いかもしれませんね」
「ですわね。 それでは案内してくださる?」
ここからは実際に、候補に挙がった2件の物件を見に行く事になりました。
◆◇◆◇◆◇
さてさて、私達がよく利用している駅前へとやってまいりました。
渚ちゃんが住んでいるマンションがある道を、更に奥へ入っていく。
「こっちにはあまり来た事ないねぇ」
「そうだね」
どちらかというとこちらは閑散とした住宅街になっている場所なので、用事も無いのにわざわざ来たりする事はない。
更に先へ進むと、一件の空き家が姿を現した。
「こちらになります」
「中々良い物件ですわね」
「うん」
老人2人が暮らすには丁度良い広さの平家。
一応小さな庭もあり、ゆっくり過ごせそうです。
「中のご案内をしてさしあげて」
「はい、ではどうぞ」
鍵を開けて中へ入らせてもらう。
まずは玄関。 ここも段差ではなく、緩やかなスロープになっているので、出入りが楽そうです。
「これはお年寄りに優しいねぇ」
「ふむ」
お爺ちゃんも頷く。
内装は和風になっており、全室和室というこだわりっぷり。 お爺ちゃんも和室が好きなようで、これには大変満足していた。
お風呂やお手洗い、炊事場等どれを取っても高齢者の為にこれでもかというほど優しい設計になっていた。
「ふむ」
「もう一件の方も見に行かれますか? ここから5分程ですが」
不動産屋の人が、お爺ちゃんとお婆ちゃんに問いかける。
住むのはお爺ちゃんとお婆ちゃんだし、私が口を出すのは違うという事で、2人に全てお任せする。
「お爺さん、どうしますか?」
「うむぅ……いや、もう一件の方は見ない事にしよう」
どうやらお爺ちゃんはこの物件が気に入ったようだ。
もう一件の物件を見に行く事もなく、この物件に決めたみたいです。
◆◇◆◇◆◇
不動産屋に戻り、色々な手続き等の話を一緒に聞く。
私やお爺ちゃん達だけでは不安なので、亜美ちゃんと奈央ちゃんにも一緒に聞いてもらったよぅ。
引っ越しの日取りなんかも粗方決めてしまい、西條グループ傘下の引っ越し屋さんなんかも手配してもらう事になりました。
何から何まで力になってくれた奈央ちゃんに感謝です。
「今日は力になれて良かったですわ。 また何か困った事があれば相談してくださいね」
「奈央ちゃん、今日は助かったよ! どうもありがとうございました!」
「ありがとう、お嬢ちゃん」
お礼を言う「大事な友人とそのご家族の事だもの」と、かっこいい事を言い残して帰っていくのでした。
「さて、私達も帰ろ。 夕ちゃんも待ってるし」
「そうだね」
「夕ちゃんとやらは、亜美ちゃんのボーイフレンドじゃったか?」
「はい! 凄く優しくてかっこいいですよ」
「ほっほっほっ! 昔のワシと同じじゃの」
「お、お爺ちゃん……」
意外と自信家なお爺ちゃんなのでした。
◆◇◆◇◆◇
さて、今井家へと帰ってくると、夕也くんが和室で洗濯物を畳んでいるところでした。
夕也くんが唯一まともに出来る家事です。
「ただいま夕也くん」
「ただいまだよー」
「おー、おかえり。 どうだったよ?」
「奈央ちゃんのおかげで、色々とスムーズに決まったよぅ」
「お、良かったじゃないか。 さすが奈央ちゃんだな」
本当にその通りです。
「あ、お爺ちゃんとお婆ちゃん紹介するね!」
お爺ちゃんとお婆ちゃんを和室に呼んで夕也くんにも紹介する。
「おお、君が夕也くんか。 のんちゃんからよく話しは聞いておったが、こうやって会うのは初めてじゃ。 なるほど、たしかに優しそうな青年じゃわい」
「初めまして、今井夕也です。 希望さんとは仲良くさせていただいており……」
「何だかそれだと夕ちゃんと希望ちゃんがお付き合いしてるみたいに聞こえるよ?」
「あ、いや」
「ふぉっふぉっ! 存じておりますゆえご心配なさるな」
「そ、そうっすか?」
一応お爺ちゃんとお婆ちゃんには全て話してあるので、私と夕也くんの今の関係についてもちゃんと知ってくれている。
「大変じゃのう? 亜美ちゃんみたいなガールフレンドとのんちゃんみたいな女の子に引っ張り回されて」
「いや、本当にそうなんですよ……」
「夕ちゃん!」
お爺ちゃんと苦労話をしている夕也くんに亜美ちゃんが怒るのでした。
◆◇◆◇◆◇
どうせなら私の大事なお友達も紹介したいと思い、皆を呼んで拠点に集まってもらった。
残念ながら紗希ちゃんは、ビデオ通話での参加となってしまったけど、こればかりは仕方ない事です。
「のんちゃんにこれほど友人がおるとは……」
「小さい頃は臆病な子で、友達も出来ないと美雪も嘆いていたものだったのに……」
お爺ちゃんとお婆ちゃんは、私の友人達を見て涙ぐんでいた。
お、大袈裟な……。
「臆病なのもだいぶ克服したんですよ。 今日だって霊園の人や不動産屋の人と普通にお話し出来てたし」
「はぅ? そういえば!」
自分でも気付かなかったけど、言われてみればたしかにです。 私、成長してます!
「そろそろ自己紹介始めてもらったら?」
「そうだね。 奈々美ちゃんお願い」
「了解。 初めまして、希望とは小学生からの付き合いの藍沢奈々美です。 こっちの頭悪そうなのは妹の麻美です」
「ひどいー!」
奈々美ちゃんのひどい紹介のしかたに麻美ちゃんが怒る。 さすがに頭悪そうは可哀想だよぅ。
実際には成績も良いみたいだし。
「元気そうな娘さんじゃの。 それにお姉さんの方は……微かに見覚えがある」
「あ……その、希望のご両親の葬儀に……」
「うむ、そうじゃそうじゃ。 のんちゃんを誰が引き取るかで揉めておる大人達を冷めた目で見ておった娘じゃ」
「す、すいません……」
「良い良い。 あれにはワシもいささか腹を立てておったでな。 見かねてワシが引き取る事にしたんじゃが」
と、一度そこで言葉を切るお爺ちゃん。
目を細めて、周囲の友人達の顔をゆっくりと見回して2度頷いた後に言葉を続けた。
「清水の家に養子にやった事は間違いではなかった……」
「はい」
お爺ちゃんとお婆ちゃんは涙ぐんでそう言った。
そして亜美ちゃんの方を振り返り。
「ありがとう亜美ちゃん。 約束通り、のんちゃんを幸せにしてくれて」
亜美ちゃんに頭を下げてお礼を言う。
亜美ちゃんは両手をブンブン振って「いえいえ! まだまだこれからですよ!」と、返す。
私はもう充分なんだけどなぁ。
他の友人達も順次紹介していき、今日のところはこれでお開きとなりました。
お爺ちゃん達は今日は今井家に泊まってもらい、明日には一旦秋田へ戻るようです。
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