第661話 祖父母千葉へ

 ☆希望視点☆


 紗希ちゃんが京都へ行った翌日の28日。

 今日は千葉に来客の予定があります。

 そう、私のお爺ちゃんとお婆ちゃんがやってくるのです。

 以前相談していた、お墓と2人の引っ越しについて話を進める為です。

 今回色々と協力してくれるのは、西條グループ総帥令嬢の奈央ちゃん。

 いつもお世話になりっぱなしです。


 さて現在私はというと、亜美ちゃん、奈央ちゃんと共に駅前に来ています。

 そろそろお爺ちゃん達が到着してもいい時間なんだけど。


「心配し過ぎたよ希望ちゃん。 お爺さんもお婆さんもまだまだ元気じゃない」

「そうだけど……」

「大事にしてるのね。 お爺様もお婆様も、こんな優しい孫娘がいて幸せ者ですわねー」

「あはは。 でも、私より亜美ちゃんの方を気に入ってるみたいなとこあるよ?」

「そんな事ないと思うよ。 やっぱり血の繋がりのある実の孫娘の方が可愛いに決まってるよ」

「そうですわよ」


 と、亜美ちゃんと奈央ちゃんはそうフォローしてくれるのでした。

 

 2本程電車がやって来たが、どうやらまだ来る気配が無い。

 電話ではもう少しだって言ってたのに。

 もしかして乗り越しちゃってたり?


「はぅ。 次の電車にいなかったら電話してみる」

「そうだね」

「今日は1日空けてるからあわてなくても良いわよ」


 何かと多忙らしい奈央ちゃんだけど、今日は私達の為に1日スケジュールを空けてくれているらしい。

 ありがたい事です。


 ガタンガタン……


「あ、電車入って来たよ」

「いるかなぁ?」


 私は首を伸ばして改札口の方を見つめる。

 すると、エスカレーターを降りてくる見知った2人の老人の姿を捉えた。


「はぅ、安心したよぅ」

「あはは、心配性だねぇ」

「あのお二人?」

「うん」


 私が大きく手を振ってお爺ちゃんとお婆ちゃんを呼ぶと、あちらも小さく手を振ってゆっくりと歩いてくる。


「いらっしゃい、お爺ちゃんお婆ちゃん! 遠くから来て疲れたでしょ?」

「いやいや、まだまだ」

「さっき電車の中で『着く前に倒れる』って言ってたじないですか?」

「あ、あはは……ちょっと休憩します?」


 と、亜美ちゃんが苦笑しながら提案すると、お爺ちゃんとお婆ちゃんは頷いた。


「のんちゃんも亜美ちゃんも、大学合格おめでとう」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 近くの喫茶店へと向かいながら、そんな話を交わす。


「して、そちらのお嬢さんは? 何やらこう、只者ではない雰囲気を醸し出しておるが……」


 お爺ちゃんの人を見る目は中々に鋭い。

 奈央ちゃんを見て、只者じゃないことに早くも気付いていた。


「紹介するね。 今日、霊園や不動産屋を紹介してくれることになっている、私の友達の西條奈央ちゃん」


 と、私が紹介すると、奈央ちゃんは足を止めて小さく礼をした後に自己紹介を始める。


「本日は、雪村さんに協力させていただく事になりました、西條奈央と申します。 どこまでお力になれるかはわかりませんが、精一杯力になれますよう努めさせていただきます。 よろしくお願いします」


 うわ、堅苦しい挨拶から入ったよ。

 やっぱり社交会で年上や大物政治家さんなんかと接する機会のある奈央ちゃんは、しっかりした挨拶もこなせるんだね。


「いやいや! こちらこそ、本日はこのような老ぼれどもの為にわざわざ出向いてくださり、誠にありがたいですじゃ。 本日は一つよろしくお願いいたします」


 と、お爺ちゃんも丁寧に返す。

 お、大人のやり取りだよぅ。


「お若いのにしっかりしたお方ですな」

「私の同級生なんだよぅ」

「はぇぇ……という事はこの春から大学生ですな?」

「はい」

「奈央ちゃんはね、あの有名な西條グループの総帥令嬢なんだよぅ」

「さ、西條グループの?! こりゃまたとんでもない大物ですわい! ははは、どうりでしっかりしておられるわけじゃ」

「いえいえ、私などはまだまだ若輩者ですから、大したものでは」

「いやいや、大したものだよ奈央ちゃん……」


 亜美ちゃんが小さな声でそう呟くのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



 喫茶店での休憩を終えた私達は、早速霊園の方へ移動する事にしました。

 そこで奈央ちゃんの出番です。


「少し待ってね。 今車を呼びますわ」

「うん」

「車まで出していただけるとは、至れり尽くせりじゃのう」

「そうですねぇ」


 と、2人は暢気な感じだ。

 リムジンとか来たら腰抜かしちゃいそうだよ。


「あと5分もすれば到着しますから、少し待ちましょう」

「電車で行く場合は?」


 私は車なんで持ってないから、お墓参りには当然電車を使う事になる。


「電車ではここから3駅下った駅で降りてもらえれば、20分おきに送迎のバスが出てるからそれに乗れば良いですわよー」

「おお、ありがとう」


 行き来もそんなに大変じゃなさそうだよ。

 良かった良かった。


 やって来た車に乗り込み、霊園へと移動を開始。

 約20分程走ると山道に入り、どんどん山を登っていく。

 ある程度登った先に、立派な霊園が姿を表した。

 

「ほぉ……これはこれは立派な……」

「はぅー」

「こちらですわよ」


 車を降りると、奈央ちゃんが先導して歩いて行く。

 私達はそれについて行くだけです。


 少し歩いて行くと、大きな建物が目の前に現れた。

 どうやらこの霊園の事務所になっているみたいです。

 中へ入って行く奈央ちゃんについて行き、事務所内を右へ左へと移動していく。


 そして、1つのカウンターの前で立ち止まって、係の人に話しかけ始めた。


「お疲れ様です。 私、西條奈央ですわ。 先日連絡しておいた雪村希望さんを連れて来ましたので、お墓の引っ越しについての相談を聞いてもらえるかしら?」

「かしこまりました」

「希望ちゃん、亜美ちゃん、お爺様とお婆様もどうぞこちらへかけてください」


 人数分の椅子を出してくれる奈央ちゃん。

 私達は遠慮なく座らせてもらう。


 お墓の引っ越しには色々あって、大まかには改葬元のお墓を丸ごと移動するか、お骨のみを移動する方法があるとの事。


「当霊園では、どちらの改葬方法でも受け入れておりますが、どうなさいますか?」


 詳しく話を聞いた上で、お爺ちゃん、お婆ちゃんとも相談した結果、お墓ごと移動してもらう事になった。

 こちら側の霊園は受け入れOKという事なので、次にお墓を置く墓地を見させてもらう事に。

 お爺ちゃんやお婆ちゃんもお墓参りに来るので、あまり遠くない場所を選択。

 奈央ちゃんの計らいで、改葬費用をかなり勉強してもらう事が出来た。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんの貯金に私の貯金もた足して、更に亜美ちゃんもいくらか出してくれると言ってくれた。 亜美ちゃんへは将来働いて返す約束をしたよぅ。


「後は秋田のお墓での手続きだね」

「改葬元の霊園や市町村での手続き手順等は問題無いですか?」


 先程車内で判明した新事実に、秋田の霊園も西條グループ傘下であるという事があり、何から何まで奈央ちゃんが手を回してくれる事になった。

 電話で手続きの手順なんかも全て確認してくれて、本当に大助かり。

 お爺ちゃんは、まだ若い奈央ちゃんの見事な手腕に感心している。


「さて、お墓の方はこんなところでしょうか? わからない事があったらいつでも言ってね」

「助かるよぅ」

「ほんに助かりますじゃ」


 お礼を言われて少し照れくさそうな奈央ちゃんは、それを誤魔化すように、歩いて行く。

 次は不動産屋だね。

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