第663話 亜美と奈々美のバレーボール
☆亜美視点☆
翌日です。
希望ちゃんのお爺さんとお婆さんを見送った後、私と希望ちゃんはその足で月ノ木学園へとやって来た。
卒業してからまだ全然経っていないのに、無性に校舎と体育館を見たくなったからだ。
「……何だかもう随分久しぶりな気がするねぇ」
「卒業したのだってちょっと前ぐらいなのにね」
いつでも見に来れる距離にある学校だから、来たい時に来れば良いんだけど。
「春休みだけど体育館誰かいるかな?」
「なははー」
「はぅ?!」
「うわわっ?!」
校門の前で話をしていたら、後ろからニュッと現れて元気に笑う女の子がいた。
「亜美姉と希望姉だー。 どしたのー? 練習見に来たのー?」
「練習あるんだ?」
「自由参加みたいものだけどねー。 渚とかマリアはよく来てるみたい」
「そなんだ。 よし、見に行こう」
「ぅん」
「わーい! お姉ちゃんも呼ぼー」
と、麻美ちゃんは奈々ちゃんにも電話をかけて呼び出すのだった。
◆◇◆◇◆◇
体育館にやって来ると、1年、2年生達が一生懸命練習を頑張っていた。
凄いやる気だねぇ。
「あ、先輩達!」
「やほー」
「頑張ってるね」
「そうですね。 新入生も入ってくるので」
汗を拭いながらキャプテン小川ちゃんが近付いてきた。
「そかそか、そだねぇ」
そうか、もうすぐ新入生が入ってきて新入部員が入って来るんだね。
もう私の手の届かない世代だね。
私が託した月ノ木魂はちゃんと受け継がれるだろうか?
「清水先輩。 練習見てもらえますか?」
「お、マリアちゃん。 良いよー」
マリアちゃんが練習を見てほしいと言うので私は快く了承。
私への対抗心は相変わらずだけど、素直に私の教えはちゃんと聞いてくれるようになった。
やっぱり根は良い子だねぇ。
◆◇◆◇◆◇
マリアちゃんの練習に付き合っていると、奈々ちゃんも体育館へとやって来た。
「おーやってるわねー」
「あ、奈々ちゃんやほー」
「亜美も好きねー。 ま、私も自主練に使えるしありがたいけど」
と、奈々ちゃんはがっつり体を動かすつもりで来たらしい。
めちゃくちゃ動きやすそうな格好で来てるよ。
「ちょいと走って来るわ」
軽く準備体操を終えた奈々ちゃんは、そのままロードワークに出て行くのだった。
奈々ちゃんまるで現役だよ。
「皆、一旦休憩ー!」
キャプテン小川ちゃんの一声で部員が練習を中断して体育館の端に座り込んだり、汗を拭いたり水分補給したりと休憩を始める。
「私よりキャプテンしてる!」
「亜美ちゃんも最後の方はちゃんとキャプテンだったよぅ」
と希望ちゃんはそう言ってくれている。
そうだったのかなぁ?
「そういえば先輩達は大学でもバレーボール続けるんですか?」
小川ちゃんに訊かれたので、希望ちゃんはすぐに頷き「続ける」と返事していた。
私も「一応」と応えた後で、こう付け加えた。
「ただ、他にやりたい事もあるし、勉強もしっかりしたいから、無理だなって思ったらバレーボールは諦めるかな」
「えーっ?! 今や世界トップレベルとも呼ばれている清水先輩がですか?!」
「う、うん。 私はバレーボールで食べていくつもりではないから」
「……先輩の人生ですから、私は別に何も言いません」
と、そう言うのはマリアちゃん。
とはいえ、少し不服そうだ。
「まだまだわからないよ? とりあえずはやってみるって感じ」
「ちなみに、バレーボールを始めたきっかけって聞いても良いですか?」
何故か後輩達がゾロゾロと集まって来る。
ふむ、これは昔話をする流れになりそうだねぇ。
「それを話すには小学生の頃の話からだねぇ」
◆◇◆◇◆◇
小学5年生の夏──
私と奈々ちゃんは両家族合同で1泊2日の海水浴旅行へ出かけた。
そこで私と奈々ちゃんは、バレーボールに出会った。
ビーチバレーではあったけど、人生で初めてのバレーボールだった。
「奈々ちゃん!」
「ちょちょっ?!」
ドサッ……
ピィーッ!
「試合終了です。 予選トーナメント1回戦第3試合は15ー4で川崎・三浦ペアの勝ちです」
「負けちゃったね」
「それは初めてやったしね。 勝てるわけないない」
私と奈々ちゃんの初めてのバレーボールは完敗。
お互いルールも付け焼き刃レベルの知識で、役割も作戦も無いようなものだったし仕方がないのだけど。
「でも楽しかった!」
「そうね」
初めてやってみての感想は2人とも同じで「楽しかった」だった。
だから私は、旅行から帰って来てすぐにバレーボール関係の本を読み漁り勉強を始めて、バレーボールも買ってもらった。
そして奈々ちゃんも誘って近くの公園や小学校の中庭なんかで練習を始めた。
「えいっ」
「よいしょっ」
とはいえ、2人で出来る練習は2人でラリー続けるだけ。 希望ちゃんも練習を見に来てはいたけど、この頃はまだバレーボールはやっていなかったね。
「上手くなってるのかどうかわかんないわねー」
「そうだねぇ。 試合とかしてみたいね」
と、バレーボールの試合をしてみたいという気持ちがどんどん溢れていくのだった。
近くには小学生のバレーボールクラブなんかもあったけど、そこには入らずにママさんバレーに参加するようになった。
珍しく6人制チームであったママさんバレーチームの練習に参加させてもらったり、たまに紅白戦なんかにも入れてもらったりして、チームでやるバレーボールの楽しさを知ることになる。
「えいっ!」
パァンッ!
「亜美ちゃん、凄くジャンプ高いねー。 おばさんと変わらないぐらいじゃない?」
「あはは、何だかわからないけど体が軽くて」
私はその頃から跳躍力には自信があったから、そこを伸ばす事にした。
「はっ!」
パァンッ!
「奈々美ちゃんもスパイク強いね。 2人ともバレーボール続けたら凄い選手になるよ」
「ありがとうございます!」
この頃には、中学ではバレーボールをすると決めていたね。
◆◇◆◇◆◇
中学に上がってバレーボール部に入部すると、希望ちゃんもバレー部に入ると言ってついて来て、そこには紗希ちゃんと遥ちゃんもいた。
「うわわ、あの2人凄く大きいねぇ」
「バレーボールは身長だけで決まらないわよ」
「きゃははは。 言うわねー。 あなた達は月ノ木東小から来た人? クラブチームはどこに所属してたの?」
「どこにも。 ママさんバレーのチームで練習させてもらってただけだよ」
「ママさんバレーかぁ……ダメだねこりゃ。 1年は私ら5人しかいないのにまともなのは私と紗希だけだな」
「そうねー」
入部当初は紗希ちゃんと遥ちゃんとの仲もそんなに良かったわけじゃなく、どちらかというと私達が見下されるような感じだった。
それも仕方なくて、紗希ちゃんと遥ちゃんは小学3年の頃からクラブチームに所属していて、大会でもそこそこ成績を残していたからね。
私達1年生も最初の頃はランニングや基礎練習ばかりだったけど、6月ぐらいに新人戦に参加する事になった。
その頃には奈央ちゃんも入部しており6人揃っていたけど、メンバーがそれだけだったので他校との合同チームでの参加だった。
「スタメンどうする?」
「えっと、月ノ木さんのそちらの2人は月ノ木ウイングスの神崎さんと蒼井さんよね? それなら2人は決まりかしら……あとは……」
「この小さいのはまだまだ初心者だから出しにくいわねー。 セッター出来る子いるかしら?」
「はい、私が」
「じゃあセッターは決まりと……後はアタッカーとリベロか」
「リベロの練習なら希望ちゃんがしてるよ」
「はぅ」
「他にいないなら雪村さんでいこう。 あと2人アタッカーは……」
「私と亜美は?」
と、奈々ちゃんが口を開く。
紗希ちゃんと遥ちゃんは少し渋るも、他に候補が居ないという理由でスタメンに。
◆◇◆◇◆◇
「てやっ!」
パァンッ!
「はっ!」
スパァンッ!
試合が始まると、私と奈々ちゃんは大活躍。
どんどんスパイクを決めて得点の山を築いた。
「ちょっとちょっと。 2人ともめちゃくちゃ凄いじゃん! 本当にママさんバレーで練習してたの? 勿体ない!」
「そうだぞ。 2人が私らのクラブちゃんに居たら全国取れたよ!」
「あ、あはは」
「ま、所属とか身長とかキャリアとかはアテにならないってことよ」
試合を通じて私達は紗希ちゃんや遥ちゃんに認められて、チームとしての絆が生まれた。
そして月ノ木中学の快進撃が始まったのである。
◆◇◆◇◆◇
「はぁー、その頃から先輩方は化け物やったんですね。 お姉ちゃんもやけど……やっぱりデキがちゃうんやなぁ」
「でも凄く良い話が聞けました! 月ノ木伝説の始まりの話なんて、そうそう聞けるものじゃないですからね」
「あはは、大袈裟だよ」
「いえ、皆の士気も上がりますよ! さあ、練習再開!」
何故か気合いの入った後輩達は、その後も汗を流して練習を続けていた。
帰ってきた奈々ちゃんの自主練に付き合いながら、昔2人でラリー練習をしていた頃の事を懐かしく思うのでした。
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