第638話 3日目は登別
☆亜美視点☆
3日目の朝です。
目を覚ました私は、隣にいる筈の夕ちゃんに抱きつこうと手を伸ばす。
さわさわ……
あれ? 手に何も当たらない?
目を開けて見ると、そこには誰もいなかった。
「……夕ちゃん何処?」
キョロキョロ見回して見ても、部屋の中に夕ちゃんはいないようだ。 それに……。
「奈々ちゃんもいない」
という事は、夕ちゃんと奈々ちゃんは2人でこんな暗いうちから部屋を出たって事になる。
一体何処へ何をしに?
「でも、奈々ちゃんなら大丈夫か。 前科はあるけど、私が嫌がる事を本気ではしないよね」
布団の上に座って大きく伸びて、皆がまだ起きていない事を確認。
その時に、部屋の扉を開けて2人が戻って来た。
「夕ちゃん、奈々ちゃん、どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩について来てもらってたのよ。 ごめんなさいね」
「こんな暗いのに? 怪しい」
「何もしてないわよ。 ちょっと話をしただけ。 ね?」
「そうだな」
「んー。 奈々ちゃんが言うなら信じるよ」
奈々ちゃんがそうだって言うならそうなんだろう。
「というか、私も誘ってくれれば良いのに」
「ごめんごめん、ぐっすり寝てたし」
まあたしかにそうなんだけど。
「起こしてくれれば起きたのに」
「今度からそうするわ」
「絶対だよ?」
「約束するわ」
「お前ら仲良いな……ふぁぁ……予定より早く起きたから眠いぜ……」
夕ちゃんは大きな欠伸をしてそう言う。
しかし、もう一眠りするような時間はもう無いね。
もうすぐ6時になっちゃうし。
◆◇◆◇◆◇
さて、皆が起きて最初にする事はもちろん。
「はぁ、何度浸かっても気持ち良いわねー」
「年寄り臭いってば」
「もうそれでも良いわよ」
そう、温泉で朝風呂だ。
寝起きに温泉に浸かるなんて、とても贅沢だね。
家の近くにあれば良いのに。
「はぁ……しかし、今日も外は雪景色ねー」
「真っ白ー」
露天風呂からの眺めは、相変わらず一面真っ白な雪景色。 今日はこの中を登別へ向かい移動する予定です。
「卒業旅行も明日で終わりか」
「はぅ」
3泊4日の卒業旅行。 今日と明日で終わっちゃうんだね。 目一杯楽しまないともったいないよ。
「ま、言っても旅行ぐらい行こうと思えばいつでも行けるけどね。 いくらでも企画するわよ」
と、奈央ちゃん。 また色々な所へ連れて行ってほしいねぇ。
「今日のところは登別を楽しみましょ。 先の事はまた今度」
「そだね」
まずは目先の楽しみだよ。
◆◇◆◇◆◇
朝食をいただき、少し休憩した後にバスへ乗り込む。
ところでこのバスの運転手さんも旅館に泊まってるんだろうか?
「ね、奈央ちゃん。 バスの運転手さんって同じ旅館に泊まってもらってるの?」
「えぇそうよ? この旅行の間はずっと運転してもらう予定だもの。 費用も私持ちよ」
という事らしい。
運転手さんには後でちゃんとお礼しないとね。
「さて、ここから登別までは約2時間かかります。 朝早かったので、眠たい人は寝ても大丈夫ですわよー」
「じゃあ寝るか……」
「私も」
と、早速寝ようとする夕ちゃんと奈々ちゃん。
朝早く起きて散歩なんかに行くからだよ。
愚かだねぇ。 バスの車窓からの景色を楽しむのも観光の醍醐味なのに。
「とか言って、私もよくバスや電車の中で寝てるんだけどね」
「亜美ちゃん?」
急に独り言を喋り出した私を見て、不思議そうに首を傾げる希望ちゃん。
「何でもないよ」
「そぅ?」
「うん。 登別楽しみだねぇ」
「うん」
当たり障りの無い話を希望ちゃんと続ける。
登別といえば温泉のイメージがあるけど、一体どんな観光地があるんだろう?
奈央ちゃんはクマ牧場って言ってたっけ?
どんな所なんだろ?
「クマ牧場ってどんなとこだろ?」
「私はぬいぐるみのクマさん以外はクマさんとは認めないよ」
と、何故か力強くそう言い放つ希望ちゃん。
クマさん側からしたら、ぬいぐるみのクマさんの方が認められないと思うんだよね。
希望ちゃんの考えは違うみたいだけど。
「希望姉、これは?」
「ん?」
麻美ちゃんは、スマホを希望姉に見せている。
何を見せているんだろう?
「この怖い顔した獰猛そうな毛むくじゃらの生き物は何?」
「ツキノワグマー」
「ツキノワーグマー? こんな生き物さんいるんだ」
どうやら麻美ちゃんはツキノワグマのの画像を希望ちゃんに見せたらしいけど、希望ちゃんはその画像を見てもクマだと認識していないようだ。
本当に希望ちゃんの中ではぬいぐるみのクマ以外をクマと認めていないみたいである。
クマさん可哀想……。
「きゃはは、希望ちゃんおもしろー」
「まあそういうとこが希望ちゃんの可愛いとこだよね」
「そーだねー」
「はぅ?」
希望ちゃんは首を傾げるのだった。
30分程バスは走っています。
隣に座る夕ちゃんは相変わらず寝ている。
せっかく隣に座れたのに、これじゃあ意味無いよ。
「むぅ」
「亜美姉残念ー! 夕也兄ぃの隣取れたのに夕也兄ぃずっと寝てるね」
「私は悲しいよ」
「起こせばー?」
「それも悪いしね。 私は我慢するよ」
夕ちゃんは朝早く起きて眠たい筈だからね。 今はぐっすり寝かせてあげようと思います。
「私って良い彼女だねぇ!」
「きゃはは、自分で言うのねー」
「でも亜美ちゃんは本当に良い彼女だと思うよぅ」
「うんうん」
皆の査定は中々良いようだよ。
ボロカスに言われたらどうしようかと思ったよ。
「希望ちゃんも良い彼女だったよ」
「あ、あはは。 夕也くんにはそうでもなかったのかも……」
と、ちょっと落ち込んでしまった希望ちゃん。
ここはフォローしなきゃ。
「そんな事は……」
「そんな事無いぞ」
私が言おうとした言葉が、私の隣からその声が聞こえて来た。
「夕也くん、起きたんだ」
「まあ、10分ぐらい前から起きてはいたが」
「えぇ……」
だったらお話に入ってきてくれれば良いのに。
「おはよー夕也兄ぃ!」
「おう、さっきも挨拶したがな」
「あはは」
「っと、そうだ。 希望、お前は良い彼女だったぞ」
「そ、そうかな」
「おう」
「私もそう思うよ。 いつも夕ちゃんの側にいて、夕ちゃんの事大事にしてて、それは今も……今も変わらなくて」
そう、希望ちゃんは夕ちゃんと別れて、私が夕ちゃんの恋人になった今でも夕ちゃんだけを見てるんだよね。
凄いと思う。
私が希望ちゃんの立場だったら、同じように夕ちゃんの事を好きで居続けられるかはわからないよ。
希望ちゃんは強いね。 そして良い女の子だ。
何で私が選ばれたのか、未だによくわからないよ。
「あはは、そっか。 私は良い彼女だったか。 よぅし、まだまだ諦めないよぅ!」
「あははは! 希望姉やる気アップー! 私も負けないぞー!」
うわわ、夕ちゃん争奪戦中の2人が物凄くやる気になってしまったよ。
わ、私は本当にこの2人……いや、渚ちゃんも入れると3人から夕ちゃんを奪われずにいられるだろうか。
が、頑張ろう。 私は今夕ちゃんの彼女なんだから自信を持っていかないと。
「私だって簡単には渡さないよ!」
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