第637話 泣かせたら
☆夕也視点☆
皆が風呂から上がって来て部屋に集まったところで、奈央ちゃんから明日の行動予定についての話しを聞く。
「明日は今日より早く起きて6時起床。 朝風呂と朝食を食べてすぐに登別へ出発するわよ」
ふむ、6時起床か。 まあ亜美が起こしてくれるだろうから心配無用だ。
「頼むぞ、目覚まし機能付き幼馴染」
「今とても失礼な言葉が聞こえて来た気がするよ」
等と言いつつも「しょうがないなぁ夕ちゃんは」と言って了解してくれる。
目覚まし時計6時にセット完了だ。
「で、明日行く場所は?」
「まずは先に登別の温泉街まで行き、さっさと宿にチェックインするわね。 んで地獄谷を散策して、その後はクマ牧場へ……」
「ク、クマ?」
「ええ、クマですわよ?」
クマ牧場なんてのもあるのか。 北海道すげぇな。
「リアルクマさんは怖いよぅ」
まあ、リアルクマさんを可愛いって言う奴はそうそういないだろうよ。
希望も、部屋に置いてあるぬいぐるみのクマさんが好きなだけだからな。
「そうそう、地獄谷では天然足湯に浸かりに行きます」
「やっぱ登別って言ったら温泉よね」
「温泉好きー」
藍沢姉妹は温泉が好きらしい。 亜美曰く奈々美は、温泉に浸かると年寄り臭くなるらしい。
まあわからなくもないが。
「他の予定は明日のお昼ご飯の時にでも」
と、どうやら全部は教えてもらえないらしい。
まあ、明日になればわかる事だから気にしても仕方ないか。
「夕ちゃん、今日も一緒に寝ようねぇ」
「昨日はお前が勝手に入ってきたんじゃないか」
電気が消えるや速攻で入ってきてびっくりしたぞ。
まあ、それ以上は特に何もされなかったが。
「夕ちゃんを魔の手から守るためには必要な事なんだよ」
「魔の手って何だよ……」
また意味なわからない事を言う奴はだなぁ。
等と思っていると。
「きゃははー」
「なははー」
「……」
なるほど、魔の手だな。
とはいえ、皆が同じ部屋にいる中でめちゃくちゃな事はしないと思うんだが。
「まあ良いけどよ」
「やった。 夕ちゃんの事は私が守るからね」
「へいへい」
まあ、亜美が心配する程の事もないと思うんだがな。
いくら紗希ちゃんやは麻美ちゃんでも、時と場所は弁えてる筈だ。
「ちっ」
「ぶー」
「……」
この2人はもしかしたら時と場所を弁えてないかもしれない。 亜美がいなければ本当にあの2人の魔の手にかかってしまいかねないぞ。
「亜美、頼んだ」
「らじゃだよ!」
ビシッと敬礼してそう応えるのだった。
◆◇◆◇◆◇
翌朝──
ツンツン……
誰かに頬を突かれる感触。
目覚まし時計機能付き幼馴染が起こしてくれているのだろうか?
「ん……もう6時かー」
「まだ5時よ」
5時って早いじゃないか……俺は6時にセットしたはずだが?
この目覚まし時計は1時間狂ってんのか……。
「おやすみ……6時に起こしてくれ」
「こら」
「ん……奈々美かよ……」
「おはよ」
「……何だよ」
「私って昔から眠り浅くて夜中よく目が覚めたりするのよ。 実は今日も3時くらいから起きてたり」
「さよか……」
それは知らなかったな。 奈々美の奴、そんな悩みがあったのか。
「不眠症か?」
「さあ? 病院とか行ってないし知らないわよ。 それよりちょっと散歩にでも行かない?」
「……何で俺なんだよ。 宏太起こせよ」
「あれも起こしてみたけど全然起きないのよ」
まああいつはちょっとやそっとじゃ起きないか。
しゃーないな。
「わかったよ。 ちょっとだけだぜ」
「さすが夕也ね。 ありがと」
仕方ないから奈々美の散歩にちょっとだけ付き合ってやる事にした。
皆を起こさない様に部屋から出て玄関を目指す。
亜美も俺を守ると言っていた割には特に守る様子も無く爆睡していた。
玄関を出ると辺りはまだまだ真っ暗である。
そしてとにかく……。
「寒い」
「そうね……さすがにこの時期の北海道、しかも海の近くともなれば風が冷たいわね」
冷たいなんてもんじゃない。 これは極寒だぞ。
「さ、行きましょ」
「マジかよ」
「マジマジ」
奈々美はこの極寒の中でも散歩を強行するようだ。
付き合うと決めたし仕方ないな。
奈々美の後ろに続いて歩いて行く事にした。
さすがに海岸へ向かうのは奈々美としても辛いらしく、海から離れるように歩いて行く。
「北海道って凄いわよね……同じ日本なのにこうまで違うものかしら」
「だよな。 千葉に戻ったらすげぇ暑く感じるかもなぁ」
「ふふ、かもね」
これでもう3月末ってんだからまた凄い。
真冬に北海道に来たら、一体どんな気温になっているんだろうか? 考えたくもないな。
「ねぇ、亜美の事頼むわよ?」
「んあ? 亜美が何だ?」
急に亜美の話を振られても何が何やらさっぱりだ。
奈々美は割と真剣な顔をしているので、真剣な話みたいだな。
「あんたがしっかりしなさいって事」
「その話か……」
「まあね。 亜美ってあんな子だから、中々他の恋敵に厳しく出来ないでしょ? 私はね、あの子に幸せになってほしいわけよ。 あの子のあの損な性格で幸せを逃してほしくないの」
「だから俺にしっかりしろってか」
「そういう事。 ただねぇ……あんたもあんたで優し過ぎるところがあるから、中々ね」
「うぐ」
さすが腐れ縁の幼馴染。 俺の性格もしっかり理解しているわけだ。
俺も俺で、俺を慕ってくれている女の子達を傷付けるような事が出来ない性格なのだ。
つまり、亜美も俺も、揃いも揃ってダメなタイプなのだ。
「俺達上手くいくんだろうか?」
「はぁ……少なくとも今のところは大丈夫でしょ。 ただ危ういから、男のあんたがしっかりしなさい」
「しかしなぁ」
「しかしもかかしもない!」
「ぐぬ……」
奈々美に気圧されはするが、俺は「任せろ」とは答えられなかった。
情けない奴である。
「本当にあの子の事頼むわよ。 亜美を泣かせたら、たとえあんたでも許さないからね」
「お、おう」
本当に親友の亜美が何より大事なんだろう。
誰よりも亜美の幸せを願っているのは、こいつかもしれない。
「さすがに寒いし、そろそろ戻りましょ。 亜美が目を覚ましてあんたを探してるかも」
「だな」
踵を返して旅館の方へと戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇
部屋に戻ってくると、やはり亜美が俺を探してキョロキョロしていた。
「夕ちゃん、奈々ちゃん、どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩について来てもらってたのよ。 ごめんなさいね」
「こんな暗いのに? 怪しい」
「何もしてないわよ。 ちょっと話をしただけ。 ね?」
「そうだな」
「んー。 奈々ちゃんが言うなら信じるよ」
そこは俺じゃなくて奈々美なんだな。
やっぱこの2人の仲には割って入れないらしい。
「というか、私も誘ってくれれば良いのに」
「ごめんごめん、ぐっすり寝てたし」
俺もぐっすり寝てたんだが。
こいつの考えてることもよくわからんな。
ただただ、亜美の事だけは大切にしているという事ほわかる。
俺なんかより奈々美といた方が、亜美にとっては良いんじゃないだろうか?
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