第636話 激闘の後は
☆亜美視点☆
現在私達は卓球大会中です。 決勝リーグも第2戦目、私と紗希ちゃんの試合中。
「うおりゃあ!」
「うわわ?!」
強いよぉ。 紗希ちゃん、奈々ちゃんと試合してた時より強いんじゃ?
さては隠していたね?
パワーは勿論、色んな方向の回転をかけて翻弄してくる。
こっちは対応に追われて防戦一方である。
「はぅ、亜美ちゃんが押されてるぅ」
「ほう……あの亜美が」
「やるわね紗希」
「紗希にこんな才能があったなんてなぁ」
「ふぅむ、亜美さん危うしですね」
何だか私が勝つのが当たり前だと思われてる?!
もう、皆私の事なんだと思ってるのかなぁ。
カコンッ!
「うわわぁ」
また決められてしまった。
むぅ、このまま負けるのは悔しいねぇ。 どうにか主導権を握らないとズルズルと点差を引き離されてしまうよ。
「ぬぅ2ー6かぁここ大事だよ」
私のサーブから始まるこの2本で何とか点差を縮めよう。
何度も言うけど卓球とは回転のスポーツ。 ラリー中にあらゆる回転を掛け合い、お互いのミスを誘うスポーツ。
そんなこの卓球というスポーツにおいて唯一、相手の回転の事を無視して自分の好きなように攻められる時がある。 それがこのサーブだよ。
「よぉし! てややー!」
私はバック側の面を使ったしゃがみ込みサーブを放つ。
カコンッ!
「なぬー?!」
強烈な回転をかけたサーブは、紗希ちゃんも簡単には返せず台の外へと飛んでいく。
このしゃがみ込みサーブともう一つ、巻き込みサーブが私の武器である。
元バレーボール部の私が何で卓球でそんなサーブを打てるのかって? 興味本位で練習した時期があったからだよ。
「次行くよ」
今度は台の角の辺りに立って、球を高くトスする。
ラケットを体で隠すようにして構えて、切る方向をギリギリまで分からないようにし、体の回転と腕の動きで球に強烈な回転をかけて放つ。
この巻き込みサーブは見えにくい場所からラケットが出てきて、ラケットの切り方で色んな回転が出せるのが強みである。
卓球界でも主流のサーブだそうだ。
「おりょ?!」
さすがにこのサーブは紗希ちゃんでも対応が難しいようだ。 自分サーブで連続ポイントゲットだよ。
「ふむぅ、さすが亜美ちゃん。 亜美ちゃんもそのサーブマスターしてるとはねー」
「え?」
今「亜美ちゃんも」って言った? まさか?
「しょうがない私も出しますかー、巻き込みサーブ」
「えぇ……」
どうやらここにも巻き込みサーブを操る元バレーボール部員がいるようだ。
「どして元バレーボール部の紗希ちゃんがそんなサーブできるのよー」
「それはこっちのセリフよん!」
紗希ちゃんもオリジナルのフォームから巻き込みサーブを放ってきた。
ぬぅ、出所がわからない。 仕方ない、行き当たりばったりだよ。
カコンッ!
球をラケットで打つも、この手応えはダメな手応えだ。
予想通り、球は大きく下に跳ね返りネットに引っかかる。 下回転かかってたのかぁ。
「よーし、もういっちょっ!」
カコンッ!
「このぉ!」
カコンッ!
「何か普通に卓球選手の試合みたいになってきたぞ」
「亜美ちゃんがこれぐらいやるのは予想通りだったけど、紗希がここまでやるなんて私ですら知らなかったわ」
「紗希の奴、私達に隠してやがったなぁ」
「きゃはは、実は親戚のお姉さんが元卓球のインハイ経験者でねー。 遊びに行くと教えてくれたりするのよー。 気付いたら私も上達してたってわけー」
むぅ、なるほど。 そういう事だったんだねぇ。
「高2の修学旅行の時はダブルスだったから負けたけど、シングルスなら負けないわよん」
「私も負けないよ!」
とは言ったものの、本気を出した紗希ちゃんには実力で及ばず。 結果7-11で敗北してしまいました。
この時点で優勝は紗希ちゃんに決定。 2位決定戦で奈々ちゃんと試合をするも、先の敗戦を引きずり奈々ちゃんにも連敗して私は3位となってしまった。
「あぅ、負けたー」
「亜美ちゃん、不甲斐ないですわよ」
「それ奈央ちゃんが言うー?」
予選で紗希ちゃんに負けた奈央ちゃんには言われたくないものである。
「ふぅ、、勝つって気持ちいいわねー」
「2位だけど亜美に勝てたからOKだわ」
皆は私を目の敵にするんだから。
「とにかくお疲れ。 部屋戻って風呂にでも行こうぜー」
と、遥ちゃん。 汗もかいたし早くお風呂に入りたいものだよ。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ、疲れが取れるわねぇー」
「奈々ちゃん年寄り臭いよ」
「うっさい」
もはや恒例となったこのやり取り。 多分明日も登別で同じようなやり取りをしていることだろうね。
「それにしても、今日も中々楽しかったわねー」
紗希ちゃんが頭にタオルを乗せながらしみじみ言う。
水族館では凄く楽しそうにしてたもんね。
「なははー、明日はどこ行くんだろー?」
「それについては部屋に戻って皆がいる所で話すわ」
「楽しみだねぇ」
「おう、明日は何が食えるやら」
「あんたは食べ物の話しかできないわけ?」
「遥ちゃんらしいよぅ」
皆で笑いながらそんな話をする。 本当に楽しい卒業旅行だよ。
もっと一杯このメンバーで、色々なところへ行きたいなぁ。
大学に行けば今よりも時間には融通利くだろうし、きっと色々行けるよね。
「さて、今日こそは今井君を……」
「紗希ちゃん!」
「いいじゃーん、卓球で優勝したんだしー」
「それは関係ないよ!」
「なははは、亜美姉大変だー」
「んなこと言って麻美も狙ってるくせに」
「うわははは、バレたかー」
全くこの2人はもう……。 私の心の平穏はいつ訪れるのだろう。
「ところで亜美。 最近は夕也とどうなのよ?」
「どうって?」
「夜の方よ」
「奈々ちゃんおばはん臭いよ」
「誰がおばはんよ……」
「まあ、ここのとこ受験勉強だなんだで忙しかったしご無沙汰だよ」
最後はいつだったか覚えてないねぇ。 あれれ? これってまずいのでは?
ぬぬー、家に帰ったら久しぶりに……。
「なるほど。 つまり今井君は溜まってると」
「なははー! やはりお手伝いしてあげなければー」
ダメだこの2人は。 中々止められそうにないよ。
今日もしっかり夕ちゃんを守らねば。 昨日と同じ感じで良いよね。
夕ちゃんを角の布団に寝かせて私は夕ちゃんの布団に潜り込む。
そこまでしても今朝は、2人共夕ちゃんの布団に潜り込んできていたもんねぇ。 恐ろしいことこの上ないよ全く。
「あんた達いい加減にしなさいよねぇ……」
奈々ちゃんも呆れたような顔でそう言うのだった。
◆◇◆◇◆◇
お風呂からあがった私達は、脱衣所を出たところでコーヒー牛乳を飲んでいる。
私でも甘いコーヒーは飲めるのである。
コーヒーはこれで良いんだよこれで。
「ぷはー! 美味い!」
「美味いー!」
紗希ちゃんと麻美ちゃんは手を腰に当ててぐびぐびと一気飲み。 いやー、醍醐味って感じだねぇ。
私と希望ちゃんはちびちびと飲んでいくよ。
部屋に戻ってくると男子組はすでに布団の上で寝転んでいた。
「む! 夕ちゃんは角っこ!」
「な、何だよ? わ、わかったからそんな剣幕で俺を見るな」
「夕ちゃんの為だよ!」
「何かよくわからんが……」
「とにかく角っこー」
夕ちゃんの背中押しながら移動させる。
今日の夜も夕ちゃんを守るよー。
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