第627話 1日目の夜
☆亜美視点☆
サッカーの試合を観戦して旅館に戻ってきた私達は、これから入浴タイムである。
もう当然のように露天風呂を貸し切ってしまった奈央ちゃんのおかげで、この時間は私達専用露天風呂と化している。
「ふぅ、雪景色の中の露天風呂も風情ねー」
奈央ちゃんがそんなことを呟く。 たしかに、中々味わえるものじゃないね、
「しっかし今日はあちこち行って疲れたわねー」
「まあ、飛行機もあったし、時間一杯遊んだしなー」
「明日も楽しみだー!」
「麻美は元気よねー……体力どうなってんのよ」
「ぬはははー!」
本当に元気だなぁと思う。 1日動き回ったのにこの元気は中々凄いよ。
希望ちゃんなんかはだいぶ疲れたらしく、隣でぽけぽけになりながらうつらうつらとしている。
何とも危なっかしい状態である。
「にしても旅館の部屋どうにかなんなかったわけ? 大部屋に男女混合で放り込むなんて」
「別に構わないでしょう? この方が安上がりなのよ」
「ここまでさんざん金使っておいて、そこはケチるのね……」
奈々ちゃんは疲れたようにそう言った。 まあたしかに、変なとこでケチったねぇ。
ただ、人数たくさんいた方が楽しいし、私はアリだと思う。
「ん-、皆一緒だと今井君夜這いした時すぐバレちゃうから、ちょっと困るわねー」
「紗希ちゃーん! またそんなこと考えてー!」
「きゃはははー。 京都行っちゃったら中々そういうチャンス無くなるしー? この旅行中に一発みたいなー?」
「あんたも黙ってやればいいのよ……わざわざ宣言しないでさ」
「奈々ちゃんまで何言ってるの……」
「なははー私も混ぜてー!」
「はぅ……」
もうわけわかんない。 これは私が夕ちゃんを守らねば。
何でこんなに人気なんだろう? イケメン度なら宏ちゃんだよ?
春くんだって良いじゃん?
「うむぅー」
「何を考えてるのよ?」
腕組みしながら夕ちゃんがモテる謎を解こうとしていると、奈々ちゃんがそれに気付いた。
「いやねぇ、何でこんなに夕ちゃんはモテるんだろうと思ってね」
「まぁ、んー……何でかしらね? 勘違いされる言動が多いのもあるけど、渚は一目惚れだって言ってたし」
「はいはーい! 私は話してみて優しいなーって思ったからよー」
と、紗希ちゃん。 中学生の頃に体育祭実行委員で一緒になったのがきっかけとかだっけ?
それまでも、私達と良く一緒にいる人ぐらいの認識ではいたらしいけど。
「私や希望姉は言わなくてもわかるよねー」
「そだね」
麻美ちゃんは本当に昔から、幼稚園児の頃から夕ちゃんに懐いていた。
私達の中で誰よりも早く、夕ちゃんに恋した女の子である。
希望ちゃんはというと、熱を出して弱っている時に優しくされたからだった。
こうやって聞いてみると結構バラバラな理由ばかりだ。
「ところでー、奈央はどうして宏太だったの?」
「うぐっ?!」
奈々ちゃんが奈央ちゃんにそう訊くと、奈央ちゃんは肩をビクッとさせて固まってしまった。
私達も気になるので、とりあえず奈央ちゃんに注目してみる。
「ひ、一目惚れよ。 ほら、佐々木君って黙ってればイケメンでしょ? 見た目にやられただけよ。 ていうか黒歴史なんだから掘り起こさないでちょうだい!」
と、何故か逆ギレされてしまう私達であった。
そして、奈央ちゃんは奈々ちゃんに反撃を開始する。
「大体貴女はどうして佐々木君なのよ? サンドバッグみたいな扱いしてるくせに」
「知らないわよ。 気付いたら惚れてたんだから。 ずっと一緒にいる幼馴染なんて、大体そんなもんじゃないの?」
軽く受け流す奈々ちゃん。
だけど、私もそれには賛同出来ちゃうわけですよ。
私も別に意識した事なかったけど、いつの間にか夕ちゃんや宏ちゃんの事好きになってたもんね。
「なんかずるいわよそれー!」
「別に良いじゃないの……」
奈央ちゃんは、目を吊り上げて怒りだし、水面をバシャバシャと叩き始めた。
宏ちゃんに惚れた事がそんなに屈辱的なんだろうか?
何だか宏ちゃんが可哀想である。
◆◇◆◇◆◇
貸し切りの露天風呂をゆっくり堪能した私達は、部屋へ戻って来て寛ぎタイム中である。
団体客用の大部屋であるこの部屋には、大型液晶テレビもあり、歌番組を点けながらそれぞれの時間を過ごしています。
「ゆりりーん!」
「うっさいわよ」
宏ちゃんはゆりりんが歌っている間、合いの手を入れたりと騒がしくなる。
アイドルファンって皆こうなんだろうか?
「そういえばあれからゆりりんとはどうなの?」
「んあ? 別に普通に連絡取り合ってるだけだぞ。 特に何もねぇよ。 うおおおお! ゆりりーん!」
「あ、そ」
そういえば、ゆりりんは宏ちゃんの事が好きだったんだっけ。 まだゆりりんの方からアプローチは無いみたいだね。 というか、私や奈々ちゃんが先にバラしちゃったからアプローチしてなくても宏ちゃんに知れちゃってるんだけどねぇ。 これはちょっとばかり罪悪感だよ。
「いやー、やっぱゆりりんは可愛いよなぁ」
「はいはい、そうねぇ」
「奈々美ったら妬いちゃって」
「別に妬いてないし」
「はいはい、落ち着いたところで明日の予定を話すわよー」
「お、待ってました」
宏ちゃんがゆりりんを観終えたのを見計らって、奈央ちゃんが話を進める。
「えーと、明日は朝7時起床、露天風呂に浸かって朝食を食べたら旅館をチェックアウトして一路小樽を目指します」
「小樽ー」
「小樽ってどんな観光スポットがあんのー?」
「水族館!」
「ま、また水族館ですか?」
「え、だめ? やっぱ2日続けて水族館はダメだったかしら?」
と、企画してくれた奈央ちゃんが少し焦ったように「どうしましょ」と困っている。
「別にいいんじゃないー? 水族館ったって何もかも同じじゃないでしょ」
「うんうん。 小樽の水族館には小樽の水族館の良さがあるはずだよ。 楽しみだよ」
「そ、そうですわよね! おほほほほ! こうなったら毎日水族館へ行きますわよー!」
それはさすがにどうかと思うけど。
「てことは、明日は小樽で宿泊か?」
と、遥ちゃんが訊く。 すると、奈央ちゃんが頷く。
どうやら明日の宿泊予定地は小樽らしい。 楽しみである。
「他にも観光スポットはあるからお楽しみに! 後は就寝まで自由行動ってことでー」
「ほーい」
ふむ自由時間かぁ。
「希望ちゃん、雪だるま作りにいこー」
「おー、いこー」
紗希ちゃんと希望ちゃんは、こんな時間に雪だるまを作りに行くらしい。 お風呂で温まった後なのに物好きだねぇ。
「おおー、亜美姉私達もいこー!」
「うわわ?!」
麻美ちゃんに腕を掴まれてもの凄い勢いで引っ張られていくのでした。
そういえばバスの中で一緒に作るって言っちゃったよぉ。 仕方ない、付き合おう。
という事で、旅館を出てすぐ近くにある公園で、4人集まって雪だるまを作り始めた。
希望ちゃんと紗希ちゃんは、ボケねこ型のを作りたいって言ってたけど、頭でっかちなあのキャラを雪だるまで作るのは不可能だと思うんだよね。
とりあえず挑戦するという事で2人ずつに分かれて雪だるま制作に取り掛かる。
「私体作るー」
「じゃあ私は頭ね」
役割分担して作っていこう。 にしても冷えるねぇ。 寝る前にもう1回お風呂入ろっと。
それから雪だるまの完成には30分程を要した。
「出来たぁ!」
「おお、我ながら中々の力作だよ」
「こっちも出来たよぅ」
と、紗希ちゃんと希望ちゃんが作っていた雪だるまも完成したようで……あ……る。
「どうやったのそれ……?」
紗希ちゃんと希望ちゃんの隣には、見事に頭の方がでかいボケねこの雪だるまが立っていた。
謎の技術である。
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