第626話 サッカー観戦
☆夕也視点☆
西條ファームという牧場で、乗馬体験や羊、牛と触れ合った俺達は、牧場長さんに礼を言って牧場を後にした。
時間的に17:00になる頃に、ひとまず旅館へと戻って来たのだった。
「ふー、今日は何だか目一杯時間を使って観光したわねー」
部屋に入ってすぐに、紗希ちゃんがバタッと寝転んで一言そう言った。
「おいおい! 夜にはサッカー観戦だぞー! 今日の札幌の試合ってーと……お、地元北海道と我らが千葉の試合だぞ!」
スポーツ観戦が趣味な遥ちゃんは、サッカーの試合を見るのが楽しみな様子だ。
まだまだ元気も有り余っているらしい。
「遥ちゃーん。 サッカーよく知らないから、ルールとか見所教えてー」
珍しく亜美も畳の上に寝転がり、だらけた様子。
そこに遥ちゃんがやって来て、サッカーのルール説明やらを始めた。
亜美の奴、聞く気あんのかあれ?
そして次第に女子達が芋虫のように這いながら遥ちゃんの周りに集まって、一緒に説明を聞くというような変な光景が目の前で繰り広げられていた。
「何だこの絵面……」
「さあな」
「ははは……」
俺達3人は、その変わった絵面を眺めながら苦笑いを浮かべるのだった。
◆◇◆◇◆◇
少しすると、仲居さん達が大量の料理を持って部屋へとやって来た。
時間はまだ17:30と早いが、19:00開始のサッカーの試合を見に行くためには早めに夕食を済ませなければならない為、これぐらいの時間がベストなのだろう。
「来た来た。 皆、夕食よー」
卓上に並んだ料理は、北海道の海の幸を使った海鮮料理だ。
「うおお! カニだぞカニ!」
「すげぇー! 家じゃ食えねーぞ!」
「こ、これ大トロじゃない?」
「こ、高級海鮮料理だよ……」
「はぅ。 こっちは鯛ご飯だよぅ」
と、想像を遥かに超えるご馳走に、皆大興奮。
早速座布団に座り、高級海鮮料理を頂く事にする。
「おお、この大トロ、口に入れたら溶けるぞ」
「こ、こんなん食ったこと無いっ!」
普段「うめー!」ぐらいしか言わない宏太と遥ちゃんが「うめー!」以外の反応を見せる。
なるほど、想像以上に美味い物を食べるとそうなるのか。
「んむんむ。 うわわ、本当に溶ける……」
「カニも美味しいよぅ」
カニカマじゃなくて本物のカニを剥いて食べる希望。
どれ、俺も一つ頂くか。
「んむ……お、おー! 美味い!」
これがカニカマじゃないカニなのか。 うむ、もうカニカマなんて食べられないぞ。
「んぐんぐ! 鯛ご飯おかわりー!」
「麻美早いわね……」
「美味しいからどんどんいけちゃうよ!」
「まあ、わからなくもないけど。 はい」
「ありがとう! んぐんぐ!」
あまりの美味しさに、全員我を忘れて食事に没頭するのだった。
◆◇◆◇◆◇
食後にデザートまで頂いた俺達は、腹も満たせたという事でしばし休憩した後に再度バスへ乗り込み、昼に通り過ぎた札幌ドームへと移動を開始した。
「亜美、サッカーのルールはもう大丈夫か?」
「大丈夫だよ。 今までサッカーの試合なんて見たこともなかったし、楽しみだよ」
「私達が応援するのは千葉で良いのぅ?」
「まあ一応地元チームだし、それで良いんじゃないか?」
「というか、千葉チーム側の応援席だから、北海道チーム応援しちゃうと他のお客さんに怒られるわよ」
と、奈央ちゃんが注意してくれた。
なるほど、そうなのか。
「あー、早く見てー」
遥ちゃんはさっきから興奮しっぱなしだ。
本当にスポーツ観戦が好きなんだな。
「紗希はサッカーとか見ないの?」
「んー? 見ないわよー? お父さんも野球しかみないし」
俺も好き好んでサッカーを見たりはしないな。 バスケの試合とかはたまにやってるのを観戦したりするが、あんまりやってないんだよな。
「皆、もっとスポーツ観ようぜ!」
「は、遥ちゃん……」
だいぶテンション上がってらっしゃる様子。 紗希ちゃんは「暑苦しっ」と、遥ちゃんから少し離れた位置へ移動するのだった。
ドームへとやって来た俺達は、奈央ちゃんから自分用にチケットを貰って入場する。
順路に従い歩いていくと、観客席スタンドへと出た。
「おお、こうなってんのか」
「私達の席は……こっちですわね」
ある程度一ヶ所に固まって座り、試合開始時刻まで待つ事になった。
「結構お客さん疎らだね」
「こっちはアウェーだからだな。 あっち側のスタンドはホームの北海道側だから結構埋まってる」
「あ、なるほど。 わざわざ千葉から応援に来る人なんてそういないもんねぇ」
「そうは言っても、北海道民にだって千葉ファンはいるもんだからなー」
つまり、こちら側に座っている観客の中には、北海道在住の千葉チームファンがいるってことか。
「あ、選手出て来たよー!」
麻美ちゃんが指を差す先から、今日の試合を戦う両チームの選手が整列しながら入って来る姿が見えた。
そのあと、両サイドに分かれて軽くアップを始める。
その間に、スタジアム内の放送では今日のスタメン選手の紹介が始まる。
サッカー選手に詳しくない俺達は、選手名を聞いても誰が誰やらさっぱりだ。
「遥ちゃん。 千葉チームの選手でこの選手に注目! みたいな人いる?」
「そうだねー。 10番の
なるほど、さすが遥ちゃんだ。 スポーツの事になるとこの中で一番賢くなるな。 いや、普段頭が悪いとかそういうことを言ってるわけではないが。
少し様子を見ていると、選手達がポジションにつき始めた。
両チームでフォーメーションが微妙に違うようだが?
「ねね、両チームのフォーメーションが違うのは何か意味があるの?」
と、紗希ちゃんが俺の疑問を遥ちゃんに訊いてくれた。
「まあ、作戦的なものだね。 例えば攻撃優先にするなら前衛中衛を多くしたりね。 千葉のフォーメーションは4ー4ー2で割とバランスの取れたフォーメーション、北海道側は3ー5ー2で攻め型かな? 選手毎に細かい指示が出てると思うけど、その辺はまあわからなくても楽しめるよ」
「なるほど」
「そろそろ始まりますわよ」
北海道側の選手がセンターラインの前でボールに足を置きながら、キックオフを待つ。
ピーッ!
次の瞬間にホイッスルが鳴り、試合開始の合図と共にボールを蹴り出し、各選手が動き始めた。
「あれれ? 皆積極的にボール取りに行かないんだねぇ」
「あんなのは小学生の球蹴りだよ。 ある程度プレッシャー掛けに行ったりはするけど、ボールにわんさか群がったりはしないさ」
「へぇ、なるほど」
ボールをパスで運んで行ったり、パスカットや当たりの強いタックルなどでボールを奪ったり奪われたりしながら、選手は右へ左へと走る。
この辺りはバスケにも似たものがあるな。
「お、チャンスだ。 今10番の川中が逆サイドを上がって行ったよ」
「するとどうチャンスなの?」
「ここから大きくサイドチェンジ……要するに逆サイドに大きなパスを出して川中さんに繋ぐ。 川中さんがそこからペナルティエリアに走り込んでくる選手にボールを上げて、それをシュートするっていうのが一連の流れなのさ」
試合は遥ちゃんが言ったように、大きなパスを逆サイドの10番に出して、ボールを受けた10番がドリブルで1人かわす。
フリーになったところで、ペナルティエリア内に向かって高く浮かせたボールを上げる。
「おお! いけっ!」
「決めろー!」
エリアに走り込んできた選手が、ダイレクトでボールを蹴り、ゴールネットを揺らした。
「おー! 決まった! 先制点よね?!」
「完璧だったなぁ」
「サッカーって面白いんだね!」
得点シーンを見て盛り上がる皆。 思いの外このサッカー観戦はウケているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます