第614話 離れられない
☆亜美視点☆
卒業式の前日である今日。
私達3年女子6人は、後輩相手に高校最後のバレーボールの試合を行っている。
開始直後は1点ずつ取り合い、続く私のサーブがサービスエースに。
その次のプレーは渚ちゃんに決められて2ー2の同点。
後輩チーム麻美ちゃんサーブからである。
「麻美決めたれー」
「っ!」
パァンッ!
麻美ちゃんは麻美ちゃんで、かなり良いジャンプサーブを見せてくる。
むっ、横回転掛かってるね。 このボール、カーブサーブだ。
「拾うよぅ!」
希望ちゃんがいち早く反応して、飛び付いてレシーブ。
パァンッ!
「ナイス希望ちゃん!」
「あれ拾われるかー」
麻美ちゃんにとっても会心のサーブだったのだろう。
希望ちゃんじゃなきゃサービスエースだったかもしれないね。
さて、ボールが上がったので助走の準備をする。
私は後衛という事で、バックアタックの準備だ。
「ほいっ!」
奈央ちゃんがボールを上げたのは紗希ちゃん。
5月の代表選考合宿にも呼ばれている、国内トップクラスの
最高到達点も軽く300を超えてくる。
「あぃっ!」
高い打点から打ち下ろす紗希ちゃんの代名詞、メテオストライクが炸裂。
相手コートのアタックライン際当たりに落ちる、超急角度の強烈なスパイクである。
ピッ!
「む、無理ですよっ!」
「裕美頑張りやー」
「いやいや見たよね? 今の止められる?!」
森島さんの代わりに入った黒木ちゃんが、紗希ちゃんのスパイクを見てビビッている。
実際、紗希ちゃんのあのスパイクを止めるのは中々困難である。
身長もあり高さもある紗希ちゃんのスパイクは、その打点の高さからブロックが難しく、仮に手に当てられても胸元に吸い込まれやすい角度で飛んでくるのである。
ブロックを囮にしてコースに打たせて拾うのが無難だ。
「私ぜっこーちょー!」
紗希ちゃんも久々のスパイクで気持ち良くなっている。
サーブはこちらへ移り遥ちゃん。 そしてここで希望ちゃんが下がり、助っ人1年生の中川ちゃんがコートに入ってきた。
「あ、足を引っ張らないように頑張ります!」
「あはは、リラックスだよ」
そんな緊張しまくりの中川ちゃんの肩をポンッと軽く叩き、緊張を解してあげる。
1年生の
「遥ナイサー」
「おりゃっ!」
パァンッ!
遥ちゃんの高速サーブだけど、ここはマリアちゃんが冷静に拾っている。
1年生にしてこの安定感。 恐れ入るね。
さてさて、後輩チームは誰を使って来るかな?
前衛にはまだ渚ちゃんが残ってるけど……。
「いけっ!」
ど真ん中、セッターの前に上がるトスを黒木ちゃんがAクイックで……と見せかけてまたもや時間差のバックアタックだ。
打つのはマリアちゃん。
パァンッ!
Aクイックに釣られていた奈々ちゃんと中川ちゃんの上を抜くバックアタック。
「オーライ!」
残念ながら私の守備範囲である。
「良いバックアタックだよ!」
威力やコート判断も申し分無し。 私が居る所にわざわざ打ち込んで来たようだ。
「亜美ちゃん、さっきからマリアに煽られてますわね」
「あはは」
まだ私に対して対抗心メラメラなようである。
私は一旦下がって助走準備に入る。
奈央ちゃんがセットに入ってもまだ走り出さない。
サードテンポで助走を開始して……。
「亜美ちゃん!」
「来た来た! バックアタックのお返しだよ!」
アタックライン前から斜め前方へジャンプして、マリアちゃん目掛けてスパイクを打ち抜く。
マリアちゃんも即座に反応してスパイクをレシーブ。
「うわわ!」
「亜美、挑発に乗って真正面に打ってんじゃないわよー?」
うう、やっちゃった。
「ナイスマリア!」
結局そのラリーは渚ちゃんに決められてブレイクならず。
「やるわねぇあの子達」
「きゃはは、ナメてかかったら足元掬われるわね」
「伊達に春高優勝してないですわね」
「嬉しいねぇ」
「まあ、負けてやる気はないけどな」
「す、すいません、役に立ってなくて」
相変わらず中川ちゃんはこの調子である。
まあ、先輩に混じって1人だけ1年生ってなると仕方がないとは思うけど。
「1本で切りますわよ!」
「おー!」
その後も、激しい攻防を繰り返しながら試合は進む。
まるで京都立華や都姫女子を相手にしているかのような手応えである。
◆◇◆◇◆◇
ピーッ!
試合終了だ。
結果は25ー21で私達の勝ちで終わった。
「お疲れー」
「あかーん。 もうちょっとやのに差が縮まらん」
「3年生やっぱり強いー」
渚ちゃんと麻美ちゃんはその場にドサッと倒れこんで声を上げていた。
「何言ってんのよ。 あんた達も十分強いわ」
奈々ちゃんが汗を拭きながら返す。
「そうだよ。 私達と互角に渡り合うんだから、自信持ちなよ」
「ですわね。 これで安心して卒業できますわよ」
「夏大会も優勝だぞお前ら!」
「きゃはは、負けちゃだめだぞー」
「はい! 頑張ります!」
「今日はありがとうございました!」
後輩達から礼を言われて、私達はコートから出る。
皆はそのまま練習を再開し始めた。
「元気だねぇ」
「うん」
弱小だった月ノ木バレー部。 先輩達に託される形で私達6人は1年生レギュラーとして、先輩達を全国へと連れて行った。
あれから3年かぁ。
「亜美ちゃん。 私、やっぱり大学ではバレーボールやりたいですわ」
奈央ちゃんがポツリと呟いた。 どうやら、奈央ちゃんはバレーボールから離れられないらしい。
それはきっと、皆同じだ。
「そだねぇ……私もそう思った」
私だって同じだ。
「やりなさいよ。 もちろんサークルじゃなくて、本気の部活ね? そしたら、私とあんた達で勝負する事も出来るわ」
「お、それ面白いな」
「はぅ」
「私は京都だからなぁ。 ちょっと皆と勝負は無理だわ」
紗希ちゃんは変わらずサークルでバレーを続けていくとの事。
それ以外の皆は再考の余地有りといった感じの反応を示す。
月ノ木の皆と別チームに分かれての真剣勝負。
たしかにそれは面白そうだ。
「清水先輩」
考え事をしていると、マリアちゃんが声を掛けてきた。 これはこれは結構珍しいよ。
奈々ちゃんや紗希ちゃんも「どしたの?!」と驚いている。
「その、少し練習を見て欲しいです……」
「私に?」
「はい」
うわわ、これはどうなっているのだろう?
目の敵にされている筈なんだけど。 あ、いや、さすがにそこまでではないけど。
「わかったよ。 ビシバシいくからね」
「お願いします」
私はマリアちゃんと一緒にコートに入り、マリアちゃんにトスを出しながらアドバイスをしていく。
とはいえ、かなり完成されたプレーヤーだから、そこまで粗があるわけじゃないのだけど。
「先輩……バレーボール、続けて下さい」
「え?」
「目標……居なくなったら困りますから」
マリアちゃんはそう言って、素っ気なく向こうを向いてしまう。
「マリアちゃん……」
やっぱり、もう少し考えてみよう。 大好きなバレーボールを大学でも続けていくかどうか。
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