第613話 高校最後の試合

 ☆亜美視点☆


 私達3年生は明日卒業式である。

 今日は高校生活最後のバレーボールをしに、学園のバレーボール部練習用体育館へとやって来ました。

 後輩達に無理を言って、試合をさせてもらう事になったよ。


「そっちはレギュラーで来るの?」

「はい。 まあ、レギュラーでも歯が立たないとは思いますけど」


 と、キャプテンの小川ちゃんが言うと、後ろから渚ちゃんが喝を入れる。


「友希、そんな弱気じゃあかんで? ちょっとネガなとこがあんさんの悪いとこやわ」

「う、わかってるけど、でも先輩達が相手だし」

「先輩達が相手やからこそ絶対勝つぐらいの気合い見せなあかんやん」

「渚、よく言ったわ。 勝つ気でかかってきなさい」


 渚ちゃんの言葉に対して、奈々ちゃんが嬉しそうに反応する。


「清水先輩、今日こそ倒します」


 渚ちゃんの隣に立つマリアちゃんも、やる気満々になっているらしい。


「さて、私達6人しかいないから、誰かMBミドルブロッカー1人助っ人お願いしたいんだけど」


 と、私が募集をかけると、元気良く手を挙げる後輩が約1名。


「はいはいはいー! 私行くー!」


 麻美ちゃんである。 しかし……。


「アホ。 あんさんが行ったらどないして勝つねん。 麻美は当然こっちチームや」

「ぶー!」


 まあ当然だよねぇ。 今のチームの守りの要である麻美ちゃんが抜けたら話にならないだろうし。

 という事で、小川ちゃんが1年生の中から1人を選び出した。


「中川さん、お願い出来る?」

「わわ、私ですか?! え、えっと、頑張ります!」


 ふむ、中川ちゃんかぁ。 良い人選だね。

 ハイレベルだった1年生の中でも、かなり目立っていたMBだ。

 小川ちゃんも見る目があるようだ。

 中川ちゃんが小さくなりながらこちらへやって来て、ペコペコと頭を下げる。


「よろしくお願いします!」

「緊張しなくて良いですわよ」

「む、無理ですって」


 どうやらダメみたいである。

 まあ、試合していけば自然と解れるかな。


「んじゃ早速やろっか」

「はい!」


 両チームコートに散らばり、ポジションに着く。

 私達3年生はいつもお馴染みのポジション。

 

 奈々美 遥  亜美

 紗希  希望 奈央


 でスタートだ。

 

 対する在校生チームは、

 

 渚  麻美 マリア

 真宮 森島 小川


 となっている。


「じゃ、こちらからサーブで始めますわよー」

「はーい!」

「冴木さん、開始の合図お願い」

「わかりました」


 そう言うと冴木さんはホイッスルを吹きながら、左手を大きく右へ振り、試合開始の合図をした。


「じゃま、いきますわよっ!」


 奈央ちゃんが助走からジャンプして、ドライブ回転のかかった鋭いサーブを放つ。

 

「オーライ!」


 それを森島ちゃんが冷静にレセプション。


「おー、上手い上手い!」


 ちゃんと褒めつつ視線はボールを見据える。

 少し乱れてはいるけど、小川ちゃんがセットアップする。

 同時に、麻美ちゃんが助走を開始し始めた。

 クイックだね。

 Bクイックに対して奈々ちゃんがブロックに付く。


「マリア!」


 トスはマリアちゃんの方へと上がったので、私と遥ちゃんの2枚ブロックで対応するよ。

 マリアちゃんはスイッチをマスターしてたっけ? ジャンプの踏み切る足は……左足!


「せーの!」


 マリアちゃんの右手側に半歩程移動してからブロックに跳ぶ。 しかし、マリアちゃんはそのトスをスルー。

 すると、後ろから真宮ちゃんが走って跳んできた。


「うわわ、時間差!?」


 まんまとしてやられてしまった。


 パァンッ!


 ブロックの高度が落ちた所に、真宮ちゃんの時間差スパイクを見舞われる。

 綺麗にストレートのコースを抜かれては、希望ちゃんのレシーブも届かず。


 ピッ!


「ナイスー!」

「やられたなぁ」

「うん。 完全にマリアちゃんが打ってくると思ったよ」

「良い連携ね」

「ありがとうございます!」


 うんうん。 私が育てて来た後輩達は、着実に強くなっている。 何だか嬉しいねぇ。


「ほらほら、感心してる場合じゃありませんわよー」

「そだね。 先輩としてまだまだ負けるわけにはいかないよ」


 お相手さんはマリアちゃんのサーブだね。

 1年生にしてオールラウンダーとして活躍しているマリアちゃん。

 まさに天才プレーヤーだ。


 パァンッ!


 スピードのあるドライブサーブが私の方へ飛んでくる。

 これは十中八九私を狙ってきたね。


「よっ」


 そのサーブを軽くレセプションする。


「まだまだコースが甘いよ!」


 レセプションを終えた私は、すぐに体勢を立て直して助走距離を取る。

 奈央ちゃんのセットアップに合わせて遥ちゃんが助走を開始。

 その遥ちゃんから少しテンポをずらして私も助走。

 

「奈々美!」


 しかし、トスが上がったのは我らがエース、奈々ちゃんだ。


「はっ!」


 スパァンッ!


 気持ちの良い音をさせて、強烈なスパイクを放つ。

 森島ちゃんが拾おうとするも、ボールの勢いを止められずに後逸する。


 ピッ!


「ふぅ。 やっぱ気持ちいいわこれ」

「ナイスだよー」


 奈々ちゃんとハイタッチを交わしながらローテーション。

 次のサーバーは私である。


「マリアちゃんにお返ししちゃおう」


 という事で、マリアちゃんの足元付近に落ちるドライブサーブを選択。


「よいしょっ!」


 パァンッ!


 私のドライブはマリアちゃんのやつ程スピードは無いけど、落差は中々のもの。

 狙い通り、マリアちゃんの遥か手前でボールが急激に落ち、マリアちゃんの付近に飛んでいく。

 マリアちゃんは腰を落としてレセプションしようとするも、残念ながら先に着弾。

 私のサービスエースだ。


「ナイサ!」

「イェイ」


 マリアちゃんは悔しそうな顔をしてこちらを見ている。

 うんうん、悔しさをバネにもっと強くなるんだよ。

 夏からはマリアちゃんがエースとしてチームを引っ張っていくんだからね。


「もう1本!」

「らじゃだよ!」


 私はもう一度同じコースにコントロールしてサーブを打つ。

 さすがのマリアちゃんも2度目は完璧に拾ってみせる。

 マリアちゃんクラスなら2度は通用しない。

 それを確認出来たのでヨシッ!


「良いよマリアちゃん!」


 ちゃんと褒めてあげないとね。


「ナメないで下さい」

「あぅ」


 怒らせてしまったよ。 いけないいけない。


「亜美ちゃん、集中!」

「してるよ」


 ボールをしっかり見据えて応える。

 視界の端で麻美ちゃんがクイックに走っているのが見えたので、私が麻美ちゃんのブロックに付くよ。


「とぅ!」

「なははー! 残念私じゃないー」


 ボールは私と麻美ちゃんと逆サイドへ上がっている。

 釣られてしまったけど、麻美ちゃんをフリーにするわけにはいかないから仕方ないね。


「おりゃああ!」


 スパァンッ!


 そっちでは渚ちゃんが豪快なスパイクを決めていた。

 うんうん、技術もパワーも両立出来る様になって真のエースとして完璧に覚醒している。

 

「良いわよ渚! それでこそ私の後継者よ!」

「おおきにです!」


 奈々ちゃんも渚ちゃんの成長に満足したようだ。

 試合はまだまだ続くよ。

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