第611話 女子お泊まり会
☆亜美視点☆
皆で外食へ行って帰って来た私達は、今井家に戻って来た。
女子6人は、リビングのテーブルやソファーを隅に移動し、中央に布団を並べて川の字で寝る事にしたよ。
「麻美は来なかったのね?」
「あの子は明日まだ学校みたい。 卒業式の準備だってさ」
「あー、椅子出しとかね」
「去年私達もやりましたわよねー」
「やったなぁ」
「あれから1年かぁ。 卒業しちゃうんだねぇ」
色々な事があった3年間だった。
3年前には、私と夕ちゃんが付き合ってる事なんて想像もしてなかったよ。
「奈央は3年間であんまり大きくならなかったわよねー」
「うるさいわねー。 でかけりゃ良いってものでもないでしょうに。 無駄な脂肪の塊ぶら下げてまったく……」
胸の話なのかどうかは定かじゃないけど、一応夕ちゃんもいるんだから奈央ちゃんも少しは気を付けた方が良いような。
「この3年で色々あったって言えば、今井君も色々あったわよね? 主に女の子方面で」
「うぐ……な、何の事だか」
「またまたとぼけちゃって。 奈々美や渚にまで手出したんでしょ?」
「奈々ちゃんに至っては妊娠疑惑まで浮上したしねぇ」
「あーもう! それは掘り返さないでって言ってるでしょ?」
奈々ちゃんは、顔を真っ赤にして私に怒鳴る。
そんな怒んなくても良いのに。
「この話は置いといて……紗希は何日に京都へ行くのよ?」
「私は27には京都に行くつもり」
「早いんだね」
「まあ、荷物開けたりしたいし」
青砥さんと2人でルームシェアの予定の紗希ちゃん。
2人でそれなりの部屋を借りたらしい。
「27日は見送りに行くよ」
「私もだよぅ」
「そんな大袈裟にしなくても」
と、笑いながら言う紗希ちゃんだけど、大事な友達の旅立ちだからね。 ちゃんとお見送りするよ。
「奈央、寂しくて泣くんじゃないわよー?」
「泣くわけないじゃないの。 大体今の時代はビデオ通話だってあるのよ?」
「きゃはは、そうよね。 いつでもかけてきたまえよ」
「はいはい」
やっぱり何だかんだ言ってもこの2人は大の仲良しなようだ。
私もちょくちょく紗希ちゃんに電話しよっと。
「そういえば、皆はサークルとか部活とかやるの?」
と、奈々ちゃんが訊いてきた。
「私も亜美ちゃん春人君も、適当に読書サークルにでも入って、ゆっくり読書するつもりよ。 ね?」
「うん」
これは合格発表の後に3人で話し合って決めた事である。
「亜美は文芸部とかで小説でも書くのかと思ったわ」
「さすがに音羽奏である事はまだまだ隠したいからね」
騒ぎになったら大学に居づらいし。
「ふぅん。 夕也は? バスケ?」
「あぁ、部活じゃなくてサークル活動だがな。 ゆるーくやるぐらいで良い。 バイトとかもしないとだしな」
バイトかぁ。 私は稼ぎあるしいっか。
「希望ちゃんはどうするの?」
「んー、サークル活動はしないかなぁ?」
と、希望ちゃん。 やっぱり人とは極力関わりたくはないらしい。
紗希ちゃんもデザインの勉強とバイトに時間を使いたいからという理由があるものの、自由参加できるバレーサークルでゆるーくバレーボールを続けるとの事。
奈々ちゃんは、大学でもバレーボールを続けるつもりらしく、卒業後は弥生ちゃんや宮下さんに遅れる形でVリーグへ行きたいらしいよ。
遥ちゃんも運動系のサークルに参加しつつアルバイトをする方針みたい。
「それぞれ色々考えてるんだねぇ」
それもそっか。 私達大人の仲間入りするんだもんね。 自分達で色々考えて行動していかなきゃいけないんだ。
◆◇◆◇◆◇
順番にお風呂に入って、布団に入ったのは日が変わる直前ぐらいだった。
布団に入ったからといってすぐに眠りにつくのかと言われるとノーである。
「すやすや」
約1名、希望ちゃんを除いてだけど。
「寝付きの良さが半端ないわね」
「うん。 小学生の頃からこうだよ」
実の親の躾の賜物らしい。 割と厳しかったりしたのかな?
「希望、人見知りだいぶマシになったわよね」
「そりゃ私達がだいぶスパルタしたからねぇ」
時間がある時はそこら中連れ回しては、人と接する機会を持たせていた。
それでマシになってくれなきゃ私達が困るよ。
「1人で大丈夫かしら?」
と、奈々ちゃんが希望ちゃんの寝顔を見ながら、少し心配そうにそう言った。
私も奈々ちゃんも、昔の希望ちゃんを知ってるから心配はしている。
私達と仲良くなる前は、とにかく1人でいる事が多かったからね。 大学でお友達とかちゃんと出来るだろうか?
「何かさ、2人とも希望ちゃんの親みたいね?」
「あはは、たしかに。 何か希望ちゃんって母性本能をくすぐるんだよねぇ」
「あー、なんかわかるわ」
紗希ちゃんと奈央ちゃんが深く頷く。
やっぱり希望ちゃんはどことなく世話を焼きたくなる子だね。
「そいやさ、4月末にゃワールドカップバレー日本代表選考を兼ねた合宿があるんだよな?」
「えぇ。 23日から30日の1週間ね」
「私、それに合わせて帰省して来るつもりよ」
と、紗希ちゃん。
そだそだ、代表選考合宿の事がすっかり頭から抜けていたよ。
鈍らないようにちょくちょく練習しなきゃねぇ。
「ユースメンバーだった私達と、前回大会やオリンピック代表選手だった人達とレギュラー争いするのよね?」
そうなのである。 私達はいわばルーキー枠である。
選考合宿には当然、キャリアのあるVリーガーや、元日本代表なんかも当然いるわけで、その人達からレギュラーの座を奪わなければならない。
「とはいえ、私達の世代はかなりレベルが高いから、案外何とかなりますわよ」
奈央ちゃんのセッターとしての能力は、多分日本でも随一のはず。 余裕でレギュラーを取りそうである。
「亜美なんかも最高指高世界記録保持者だし、それ以外の能力も抜きん出てるから当確なんじゃない?」
「いやいや、そんな事は……」
「謙遜すな。 あんたは小林監督のお気に入りなんだし間違い無くレギュラーよ」
「何だかんだ言って、ユース組はかなり有望よね。 やっぱり私、遥、麻美、渚辺りは厳しそうかしら?」
と、紗希ちゃんはちょっと自信が無さ気なようだけど、紗希ちゃんも高さはあるしパワーもあるし、十分レギュラー狙えると思うんだよね。
遥ちゃんだって、攻撃力のあるブロッカーだし。
「麻美はあれで天才だからなぁ。 私よりあの子の方が残りそう」
遥ちゃんも弱気さんだね。 まあ確かに、麻美ちゃんの謎のブロック力は凄いけども。
「まあまあ、とやかく言ったって仕方ないわよ。 きっちりアピールしていくしかないわ」
「そゆことですわよー」
奈々ちゃんと奈央ちゃんは逆に前向きだ。
希望ちゃんが起きてたらやっぱり「私は無理だよぅ」とか弱気発言したんだろうね。
「よし、頑張って代表入りするわよ遥!」
「おうよ!」
「私達もね」
うんうん、皆で代表入りしてワールドカップでまたプレーしたいね。
「さて、私は眠いので寝るわね。 夜更かしはお肌に悪いですしね」
「若いのに何言ってんだか」
「いやいや、若い頃から無茶すると歳取ってから大変なんだから」
「あぅ。 寝よ寝よ」
私は歳取ってからもすべすべモチモチお肌でいたいからねぇ。
「じゃ、皆おやすみ」
「はいおやすみ」
こうして夜は更けていくのであった。
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