第601話 麻美と渚来訪②

 ☆夕也視点☆

 

 今日は3月4日。 金曜日だ。

 今日は夕方頃に、また麻美ちゃんと渚ちゃんが屋敷に遊びに来るという事らしい。

 麻美ちゃんが来ると騒がしくなるのだが、皆は賑やかな方が好きだからありがたいらしい。

 奈々美もあれで、麻美ちゃんの事は可愛がっているしな。


「あー、あの子また来るのねー。 また騒がしくなるわよ」

「うわわ、奈々ちゃん嬉しいくせに」

「別に嬉しくないわよ」


 まあ、これはどう見ても照れ隠しだな。

 何だかんだ麻美ちゃんが好きなんだよなこいつ。


「で、明日は皆で遊びに行くのよね? 奈央、何処行くの?」

「欧州村というテーマパークがあるのですが、そこへ行きたいと思いますわ。 我グループが……」

「総力を上げて作ったテーマパークって言うんでしょ?」


 途中で遮って、紗希ちゃんが先に言ってしまう。

 奈央ちゃんはセリフを取られて少し悔しそうだ。


「で、欧州村ってのはどんなテーマパークなわけ?」

「ふふふのふー。 ま、読んで字の如く! ヨーロッパ各国の街並みを再現したテーマパークよ。 国ごとにエリア分けされていて、1つテーマパークで色んなヨーロッパの国の風景を楽しめますわよ。 と言っても、代表的な国だけしか再現されていないけど」


 それはそれでかなり凄いテーマパークだと思うのだが。


「日本にいながらにして、ヨーロッパ旅行の気分を味わえるわよ。 おほほほ」

「うわわ、奈央ちゃんのテンション変になってるよ」


 勉強地獄から解放された後の、初めての皆での外出となる。

 楽しみだな。


「今日はゆっくり休んで明日に備えておきましょう。 アメリカには住んでいたのですが、ヨーロッパの事はよく知らないので楽しみです」


 と、春人も珍しく楽しみにしている。 こいつは感情の起伏がわかりづらいんだよな。


「さて、私はそろそろ後輩2人を迎えに行ってきますわね」


 奈央ちゃんは車の運転手に連絡をして車を出させると、広間を出ていくのであった。


「本当にとんでもない女子高生よね、あの子も」

「そだねぇ」

「きゃはは、亜美ちゃんもとんでもない女子高生の1人じゃん」

「とんでもあるよ!」


 とんでもあるって何だよ……。


「とんでもあるって何よ……」


 俺の言いたい事を奈々美がそのまま口にしていた。

 こいつは我慢しないなぁ。


「亜美さんと奈央さんはまあ、別方向の凄さですよね」

「まあ、たしかに……」

「亜美ちゃんの完璧な頭脳と運動神経に、奈央ちゃんの財力を合わせれば、全てを超越した人間になるよぅ」

「想像しただけでやばいな」

「考えうる限りの究極の人類だわ」

「きゃはは」


 亜美は「私は普通だよ」と、相変わらず自分の能力を過小評価しているようだ。

 その辺は奈央ちゃんとは真逆だ。

 奈央ちゃんは自分の力を理解して、それを誇示しているからな。


「というか、僕からしたら皆化け物だけど」


 と言うのは柏原君。 

 彼も頭は良いようだが、亜美や奈央ちゃんには敵わない感じだな。

 俺達一般人の中ではかなり上位に位置する人間だと思うが。


「裕樹も頭良いじゃん?」

「うーん、そうだろうか?」


 どうやら自己評価は低いらしい。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 奈央ちゃんが屋敷を出てから30分程経過。

 廊下の方から元気な声が聞こえてくる。

 どうやら来たらしい。


「わかりやすいわね……」

「あ、あはは」

「元気の塊だなぁ」


 ガチャッ!


「おー! 皆いるー!」

「麻美、静かに出来んのか……」


 後輩2人組が到着。


「騒がしいのがいらっしゃったぞー」

「いらっしゃいだよぅ」

「来たぞー!」

「元気ね本当に……」


 奈々美が額に手を当て、溜息をつきながら呟く。


「なははー!」

「さてさて紗希ちゃん、夕飯の準備しよっか」

「りょ!」


 麻美ちゃんと渚ちゃんがやって来たのを見届けて、亜美と紗希ちゃんが夕飯の支度をする為に広間を出る。

 麻美ちゃんは「おー! 私も手伝うぞー」と、元気良く2人について行った。


「まったく、あの子のあの元気はどっから来るんや」

「昔からあんな感じよ、麻美は」

「まあ、元気なのは良い事だよぅ」


 希望はお茶をずずーっと飲みながら、落ち着いた様子でそう言う。


「でも麻美さんの元気の良さは何というか何というか凄すぎますが」

「あれの姉をやってる私がどんだけ疲れるか……」

「クラスメイトってだけでも疲れますよ。 藍沢先輩はもっと疲れはるでしょうね。 尊敬しますわ」

「どっちも麻美の事好きなくせによく言うなぁ」


 宏太のその言葉を聞いて、奈々美も渚ちゃんも「うっ」と言葉を詰まらせている。

 麻美ちゃんは色々言われたりもするが、皆からは可愛がってもらっている。

 本当に良いキャラしてるな。



 ◆◇◆◇◆◇



「いただきます」

「いっただきまぁす!」


 皆揃っての夕飯。 

 しかしこうやってみると凄い人数だな。 12人て何だよ。

 この人数分の夕飯を準備するのも相当大変だろうな。

 亜美も紗希ちゃんも何も言わずに毎日よく作ってくれている。

 大変なのがわかっているからか、日替わりで誰かが手伝ってはいるみたいだが。


「今日は鳥の照り焼きにしてみたよ」

「んまいぞ」

「本当に美味しいですね」

「何か俺のやつ生焼けなんだが……」


 宏太は少し中が赤い鶏肉を食べながらそう言って泣いている。


「あ、それ私が焼いたやつだよー! ごめん宏太兄ぃ! 私のやつと交換しよー!」

「お、おう」


 どうやら麻美ちゃんが焼いて失敗したやつに当たったらしい宏太。

 麻美ちゃんが責任を取り、自分で食べる事にしたようだ。

 麻美ちゃんも料理の腕は間違いなく上がっているのだが、まだまだミスが目立つようだな。


「麻美はまだまだ花嫁修行が足りないわね」

「ぶー! 頑張ってるもん!」

「大体誰が嫁に貰ってくれるのよ? 第一志望先は埋まってるのに」


 と、奈々美は俺を箸の先で指してそう言う。

 麻美ちゃんの第一志望先が俺だという意味であろう。

 埋まっているというのは、亜美がいるからだと思うが、亜美も俺も今のところ結婚までは考えてはいないのだが。


「んむんむ。 まだ夕ちゃんのお嫁さん枠は空いてるよ?」

「あら、空いてますの?」


 亜美はまだ結婚までは考えていない事を告げる。

 皆は意外そうな顔で亜美を見ていた。

 麻美ちゃんは「まだまだチャンスアリ! 花嫁修行頑張るぞー!」


 と、とてもやる気を出していた。

 しかし、俺も亜美も将来的にどうなっている事やら。

 麻美ちゃん、希望、渚ちゃんの3人は相変わらず水面下で争っているようだし。


「ふむ? じゃあ私とも結婚の可能性が?」


 何故か奈々美まで訳の分からない事を言い出した。


「お前は宏太がいるだろ?」

「私達もあんた達と同じよ。 今のところ結婚を考えて付き合ってるわけじゃないわ」

「まあ、そうだな。 何があるやわからんからな」


 ただ奈々美としては出来るだけ宏太と結婚出来るようにはしたいと思っているらしく、その辺は俺達とは違うらしい。

 高校卒業して大学行ったり社会に出たりすれば、そういった事も考えていかなければいけないのか。

 大変だなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る