第602話 欧州村

 ☆夕也視点☆


 今日は3月5日土曜日。

 昨日の夕方に麻美ちゃんと渚ちゃんが屋敷の方へ遊びに来て泊まっていた。

 昨夜も麻美ちゃんは元気良く俺の部屋へやって来て一緒に寝ようとと我儘を言って来ていたが、何とか言う事を聞かせて部屋に戻らせた。

 相変わらず誰よりも積極的にアタックを仕掛けてくる子だ。

 

 で、今日は昨日奈央ちゃんが言っていた欧州村へと遊びに行く事になっている。

 移動は西條家の私有バスを使う事になっている。 12人で移動だからな。


「皆さん、準備の方は出来ていますか?」

「うん。 マロンもケージに入れてご飯も上げておいたし平気だよ」

「ハムちゃん達も大丈夫だよぅ」


 ペット達を連れて行くことはできないそうなので、屋敷に置いて行くしかない。

 亜美はちょっと残念そうだった。


「それではバスに乗り込んでいきますわよー」

「おー」


 受験が一段落して初めての皆での遠出となる。 亜美も楽しみにしている。

 バスの座席は自由。 このバスの座席は回転も出来るようになっていて……。


「なははー! 夕也兄ぃとご対面ー」


 と、こういう風に前の席に座る2人がくるりと回転してきて4人の対面座席に早変わりするのである。

 前の座席に座っているのは麻美ちゃんと希望の2人。

 通路を挟んだ席に渚ちゃんが座っている。

 ちなみに俺の隣には亜美が座っている。 つまり、相変わらず俺は包囲されているのだ。

 さらに後ろの席には紗希ちゃんと柏原君がいて、後ろからも紗希ちゃんのちょっかいが飛んでくる。


「夕ちゃんも大変だねぇ」

「あぁ、まあな」


 亜美は他人事のように俺の方を見てそう言う。

 彼女としての余裕なのか、自分が大変じゃないからなのかは知らんが。


「亜美姉は夕也兄ぃが困ってても特に何とも思ってないよねー?」

「うーん。 私が困ってないからねぇ」

「はぅ、亜美ちゃん意外と冷たい」

「あはは、そうかもね」


 亜美は笑いながらそう言う。 冷たいというかなんというか。


「私はあれだよ。 夕ちゃんが取られさえしなければいいからね」

「きゃはは、亜美ちゃん淡泊ー。 私も今井君のえち友狙ってこーかなー」

「紗希ちゃん……」

「あら、その立場なら私も狙ってるわよ?」

「な、奈々ちゃん?!」


 俺の恋人になりたいわけではないが体だけの関係ならという意味らしい。

 こいつらはよぉ。


「大学に2人で合格出来たら、私と夕也の距離って結構近くなると思うのよねぇ」

「あぅ」

「それ考えたら私めっちゃ不利じゃん!」


 と、紗希ちゃんが頭を抱えてしまった。 いやいや、隣に柏原君が座ってるんだが。

 案の定、隣の柏原君は溜息をついている。 半ば諦めているようにも見える。


「紗希ちゃんって性欲凄いよね」

「そーかしら? 皆こんなもんでしょ?」

「私はそこまでじゃないよ?」


 と、亜美、希望、紗希ちゃんがなんか生々しい話を始めてしまった。

 麻美ちゃんは気にせずに俺に話しかけてきているし、渚ちゃんは聞いてないふりをしながら亜美達の話に耳を傾けている。

 何だかなぁ。


「全く、貴女達はもっと上品な話が出来ないんですの?」


 奈央ちゃんは呆れたような感じだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 バスが走り始めて20分程経つと、皆少し大人しくなっていた。

 窓から外を眺めている者、お菓子をパクパク食べている者、寝ている者と様々だ。


「んむんむ。 希望姉、これ食べるー?」

「んー? 貰うよぅ」


 麻美ちゃんは家から持参したお菓子を希望に分けている。 亜美はというと眠ってしまっている。

 乗り物に乗ると寝る事の多い奴である。


「んむんむ。 美味しいよぅ」

「でしょー? 季節限定の味だよー」


 どおりで見たことのないパッケージだと思った。


「夕也兄ぃも食べる?」

「ん? おう、くれ」

「なははー! 食えー!」

「んごぉ?!」


 口にスナック菓子を放り込まれてとんでもないことになってしまった。


「ふごふご」

「夕也兄ぃ面白いー」

「あははは、夕也くん面白いよぅ」


 俺は何とか租借しながらお菓子を砕いてのみ込んでいく。


「はぁはぁ」

「美味かったー?」

「死ぬかと思ったわ!」

「先輩、大変ですね。 私の隣平和ですよ?」


 と、1人で大人しく座っている渚ちゃんが、隣の席をぽんぽんと叩きながら誘ってくる。

 うーん、この子も変わったなぁ。


「渚も女になっちゃってまぁ」

「うっ」


 奈々美に言われて顔を赤くする渚ちゃん。 女にしちまったのは俺なんだよなぁ。

 ん-、俺って最低な男だな!


「あ、麻美。 私にもそれちょうだい」

「良いよー。 はいお姉ちゃん」

「さんきゅー」


 麻美ちゃんからお菓子を貰って自分の席へ戻っていく。

 奈々美は話に入ってくるつもりはないようだった。



 ◆◇◆◇◆◇


 更にバスが走ること40分。

 さすがに皆はバス移動で疲れを見せている。 麻美ちゃんだけはまだまだ元気なようだが。


「西條先輩ー、あとどれくらいですかー?」

「そうねー、 あと20分程かしらね」

「ほーい」


 ふむ、あと20分か。 まだあるなぁ。

 俺も亜美や宏太みたいに寝てればよかったな。


「今井君ー、20分暇だしなんかしよー?」


 後ろの席に座る紗希ちゃんが話しかけてきた。

 何かしようと言われても、車内で遊べるようなものは持ってきていないのだが。


「何するんだ?」

「ん-? あっち向いてホイでもする? 負けたら服を1枚ずつ脱いでくの」

「何で脱ぐんだよ……」


 紗希ちゃんの頭の中は一体どうなってんだろうか? えろい展開に持っていかないといけないのか?

 

「ん-、じゃあ負けたら100円」

「ふむ、まあよかろう」


 でもちょっと待てよ? 20分もやってたら結構な金額になるんじゃないのか?


「よし、じゃんけーん」


 いきなり勝負が始まってしまった。 しょうがないな。


「ほい!」


 じゃんけんにはあっさり負けてしまい。


「あっち向いてーホイ!」


 クイッ!


 あっちむいてホイにもあっさり負けてしまった。 あれ? 俺弱くね?


 バスが欧州村に着くまで続けて、俺は紗希ちゃんに2400円持っていかれるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



「おー、ここが欧州村!」

「まだ入村してないですわよ?」


 俺達は、バスを降りて欧州村の門前まで来ていた。

 お金を払ってチケットを買わなければ中には入れないらしい。


 奈央ちゃんが代表して人数分のチケットを買って来てくれたので、それを手に村の中へと入る。


「ふわぁ。 入り口は空港を見立てた作りになってるんだねぇ」

「はぅ、もう日本じゃないみたいだよ」


 亜美の言う通り、入った先は空港のエントランスの様な造りになっており、その先に見える景色は日本のそれとはまた違う風景となっていた。


「こっちに案内板があるわよ」

「どれどれ……」


 皆で案内板の前に集まる。

 案内板を見ると欧州村はイタリア、フランス、ドイツといったように、各セクションに分かれているようだ。

 それぞれ各国の特色や名所の再現等が成されているらしい。

 なるほど、日本に居ながらにしてヨーロッパ旅行気分を味わえるというのは満更嘘ではなさそうだ。


「じゃ、楽しみましょ!」

「おー!」

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