第599話 遥と奈央
☆希望視点☆
紗希ちゃんから昔の話を聞いた私は、お屋敷に帰ってきて遥ちゃんからも何か聞けないかと思い、夕也くんと2人で遥ちゃんのお部屋にやってきました。
「え? 私と奈央がどうやって仲良くなったか? なんでまた急にそんな事を訊いてくるんだい?」
「お昼にね、紗希ちゃんと奈央ちゃんが初めて会った頃の事を聞いたんだよぅ。 それで遥ちゃんはどんな感じだったのかなって」
「希望の奴、興味津々でな」
「はぁ、なるどね」
ドタドタドタドタ……
と、遥ちゃんの話を待っていると、廊下の方から物凄い音が聞こえてきて。
ガチャッ
「私にも聞かせて!」
「面白そうじゃないの」
亜美ちゃんと奈々美ちゃんがドアを開けて入ってきた。 大方紗希ちゃんから聞いてすっ飛んで来たんだろうね。
「そ、そんな面白い話でもないけどな……」
「良いから良いから!」
「ささ、どぞどぞ」
2人ともやたらと前のめりである。
そこまで気になる話ってこともないと思うんだけど。
「はぁ、そうだなぁ」
と、遥ちゃんは1度溜息をついて話を始めた。
◆◇◆◇◆◇
☆遥視点☆
私が奈央に初めて会ったのは小学校に上がってからだった。
通っていた幼稚園が違ったから、小学校で合流する形になったわけだ。
その頃から運動には自信があり、駆けっこは男の子より速かったし、逆上がりや縄跳びの二重跳びなんかもその頃から出来ていた。
そういった運動なら、同い年の誰にも負ける気はしなかった。
だけど……。
小学校に上がって初めての運動会。
私と奈央や紗希とはクラスが別だった為、顔ぐらいは知っていたけど、喋ったりする様な仲ではなかったから、お互いがどんな子なのかは良く知らなかった。
1年生のリレーでアンカーを任された私の相手が奈央だった。
「きゃはは、奈央ー! 1番でバトン渡すねー」
「はいはい。 お願いします。 貴女、アンカーですの?」
「え? うん」
「そう、よろしくお願いしますわね」
「きゃはは、よろしくー」
それが私と奈央、紗希の初めての会話だった。
リレーの方は、私のクラスが先頭で回っていたのだけど、紗希にバトンが渡るとあっという間に差が縮まり始めた。
「あの子速いな……私と同じかちょっと遅いぐらいだ」
正直言って驚いた覚えがある。 私にそこまで肉迫出来るであろう子は初めてだったから。
そしてリレーはアンカー勝負になり……。
「嘘だろ……」
私は更に驚愕した。
走っても走っても全く追いつけない背中が前にあった。
「くそー!」
──。
結果的に私は奈央にぶっちぎられて負けた。
悔しかった。
それが私と奈央の出会いだ。
◆◇◆◇◆◇
「奈央ちゃんって小さな頃から凄かったんだねぇ」
「いや、あんたも大概やばかったわよ?」
「亜美ちゃんもリレー凄く速かったよぅ」
今もめちゃくちゃに速いんだよなあ、亜美ちゃん。
「で、そこからどうやって友達になったのよ?」
「いや、あんまり悔しくてさ、色々な事で勝負を吹っかけてるうちに奈央に気に入られてな? いつの間にやら仲良くなってたよ」
「何だか、中学時代の亜美と奈央みたいな関係だったのね」
「ははは、そうそう! ちょうどあんな感じだった」
「奈央ちゃんはその頃も紗希ちゃん以外には友達いない感じだったのか?」
「というか、中学でバレーボール始めるまで、友達って呼べる様な仲だったのは私と紗希だけだったんじゃないか?」
「はぅ……」
「それは寂しいわね」
と、希望ちゃんと奈々美が言う。
「けど、奈央って元々はあまり群れないタイプの人間だったし、友達も必要だとはあまり思ってなかったみたいだぞ? 紗希や私みたいな自分が気に入った人間以外はどうでも良い感じだった」
「さ、冷めた子供だったんだねぇ」
正にそんな感じだ。 学年が上がるにつれて人当たりはだいぶ良くはなっていたし、素顔モードを見せる事も多くはなっていったけど、交友関係が広がることは無かったな。
「だからさ、奈央がバレーボールみたいなチームプレーが必要なスポーツを始めたのには驚いたもんさ」
「私の弱点探る為だよね?」
「そうなんだけどなぁ。 だから、亜美ちゃんも奈央に気に入られた内の1人なんだよ。 興味も無い相手の弱点なんか、あの子は探ったりしないからな」
「あ、あはは」
「その先の事は皆知っての通りだよ」
「なるほどぅ。 皆それぞれ、色々な出会いがあったんだね」
「そうね。 私達、バレーボールやってなかったらこんな風にはなってなかったかもしんないわね」
「奈々ちゃん、それは違うよ。 奈央ちゃんは絶対に私の前に現れてたし、私が何の部活やってても奈央ちゃんは弱点を探る為に私に近付いて来てたと思うよ」
「そうだな。 奈央なら多分そうしてたし、そんな奈央の近くにゃ、やっぱり私と紗希がいたはずだ」
「何があっても私達は今みたいになってたって事だね!」
「切っても切れない縁ってやつだな」
そう。 私達はそういう縁で結ばれちまってんだ。
これからもきっと。
「何やら楽しそうな話をしてますわねぇ」
「きゃはは、バレちった」
私が話を終えると同時に、奈央が部屋に入ってきた。
奈央の奴、昔の話をされるの嫌がるからなぁ。
「全く。 恥ずかしいから昔の話はあまり掘り返さないでよ? 特に紗希は私の黒歴史色々知ってるんだから」
「きゃはは! 善処する!」
「信用ならないわ」
この2人は私でも知らないようなお互いの秘密なんかも知っていて、ちょっと羨ましく思う事もある。
親友ってやつなんだろうな。
「亜美ちゃん、それよりそろそろ夕飯の準備しよー」
「うわわ、もうそんな時間? 今行くよー」
「俺も部屋に戻るかな」
「はぅ、そうだね。 ありがとう遥ちゃん」
「大した話はしてないさ」
「また後でね」
皆が部屋を出ていく中、奈央だけが部屋に残っていた。
あ、やべぇ。 昔話なんかしたから制裁されるか?
「ふぅ。 貴女はあまり私の黒歴史を知らないから、とりあえず今日のとこは許してあげるわ」
「た、助かった」
「あー、あと1つ。 私、小学生の頃に1つだけ貴女との勝負から逃げた事があったのを知ってるかしら?」
「は? そんな事あったっけ?」
思い返してみる。 どれもこれも完膚なきまでに負けた記憶しかないのだが?
「バレーボール」
「あ……」
そういえば1度だけバレーボールの勝負を持ちかけた事があった。
あの当時私は、バレーボールのクラブに所属していて、バレーボールには自信があったからだ。
お互いにボールをスパイクレシーブでラリーを続けてミスした方が負け。 そんな勝負を提案した時、奈央は忙しいからと言って断わったっけ?
「あれだけは勝てないと思ったから逃げちゃったのよ。 まあ、その時点で私の負けよね」
「何だ、そうだったのか」
「もちろん、今やれば負けないけど」
「お? 言ったな? じゃあ今度勝負だぞ」
「構いませんわよー。 逃げも隠れもしないから」
私と奈央はいつしか勝負というものをしなくなっていた。 どこかで、この子には何をやっても勝てないと諦めていたからだ。
でも、今は勝ち負けに拘るより、楽しく勝負出来ればそれで良い。
「そうそう。 遥だって私の親友ですわよ」
奈央は振り返ってそう言った。
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