第598話 友達
☆紗希視点☆
私は、今井君達に奈央とどうやって仲良くなったかを語り聞かせている。
まあ大した話ではないんだけども。
喫茶店でゆっくりしながら、私と奈央の過去話をしていると。
「はぅ、昔の奈央ちゃんって怖かったんだ」
「まあ、怖かったってより、今よりお嬢様してた感じね」
「今はかなり砕けてるもんな」
「実は昔も今と変わらなかったのよ」
「そうなんだ?」
「で、続きは?」
「そうねー。 私が奈央に付き纏うようになった後からよね」
◆◇◆◇◆◇
ある日、いつものように奈央の近くで奈央を観察していると、奈央がいつものように鬱陶しそうな顔をしてこちらを見る。
「良く飽きませんわね? 私の事なんかじっと見てても面白くは無いでしょう?」
「ねー、その喋り方何ー?」
子供ながら純粋に気になったのだ。
まるで子供らしくない、大人びた話し方や物言い。
私はこの頃は、世の中にお金持ちのお嬢様なんてものが存在する事なんて全然知らなかった。
「家で躾けられているんです。 外では西條家の人間に恥じない立ち振る舞いをしなさいと」
難しい事はよく分からなかったけど、当時の私は「パパやママに言われてそうしてるんだなー」という事ぐらいはわかった。
「子供っぽくないね」
「これで良いんです」
一体どんなパパとママなんだろうと、この時は思った。
「ねー? 奈央ちゃんのお家に行っても良い?」
だから、家に遊び行こうと思ったのだ。
返答はもちろん──。
「ダメです。 家は政治家さん等も訪問するような家ですの。 貴女の様な一般階級の子供が来て良い場所では……」
「せーじかとかよく分からないわー」
「とても偉い大人の人です」
「先生よりー?」
「当然です」
「すごー! やっぱり遊びに行きたいー」
「聞いてらっしゃいました?!」
等というやり取りを何回も繰り返していたある日のこと。
「ねー、良いじゃーん」
「はぁ……わかりました。 そこまで言うならお父様とお母様に話してみます」
「おー! やったー!」
この時の奈央は「1度我が家を見て、あまりの世界観の差を目の当たりにすれば、自ずと私が遠ざかるだろう」と思ったのだと言う。
残念ながら、思惑通りにはいかなかったんだけれどね。
そしてその週の休日。
私は近くの公園で奈央と待ち合わせをしていた。
両親の許可が出たので、家に招待すると言われたからだ。
奈央を待っていると、見た事もないような車が目の前に止まり、窓が開く。
そこには、奈央が座っており「乗ってください」とそう言った。
運転手さんが扉を開けてくれたので、車に乗り込み、奈央の隣に座る。
「すごい車ねー?」
「外国の車です。 高級車ですわよ」
「こーきゅーしゃ? きゅーきゅーしゃの仲間?」
「……出してください」
奈央がそう言うと、車が走り出した。
子供なのに大人に指図して言う事を聞かせる、凄い子だと思ったものだ。
車は公園から数分走り、凄く大きい家の前に停車した。
「ここが私の家ですわ。 どうですか?」
「お、お、大きいー! お城みたい!」
初めて奈央の家を見た時は、それはもう興奮したものだ。 何せ見た事もないような広さのお庭が目の前に広がっていたんだもの。
「怖気づきました?」
「おじけ? 何だかよくわからないけど入ろー」
「えっ……えぇ……」
私は見た事もないお城みたいな家の中がとにかく気になり、奈央を急かして前へ進む。
「ち、ちょっと?! 私の家なんですけれど?!」
◆◇◆◇◆◇
西條邸へ入ると、変わった服を着た男の人や女の人が、子供である奈央に次々と頭を下げていく。
この時、初めて奈央って凄い子なんだという事を理解した覚えがある。
初めて奈央の部屋に入った時の事は今でも覚えている。
とにかく広い部屋に豪勢なベッドやタンス。
見たこともないテラスなどを見て興奮したものだ。
「すごーい! 奈央ちゃんの家すごーい!」
「ふふん、当たり前ですわ。 天下の西條家ですものー! おほほほ」
「パパさんとママさんは?」
「今日はお仕事でいないですわ」
「えー、ご挨拶したかったなー。 きっとすごいパパさんとママさんなんだろーなー」
「ふふふ、もちろんですわ! 今度機会があれば……あっ……」
「ん?」
「な、何でもありませんわ」
「そー? でも奈央ちゃんは難しい言葉とか一杯知っててすごいねー!」
「家庭教師さん達に英才教育を受けてますから」
「えーさい? 何かわからないけどすごそー!」
「ふふ、貴女中々面白い子ですわね。 こんなに私に近付いてくる子なんて今までいなかったし」
「きゃははー、面白いってよく言われるー」
「でしょうね。 私、貴女のこと少し気に入りましたわ」
「私は前から気に入ってるー」
「そうですか」
「友達!」
「え?」
「友達! 私達、今日から友達! ん? じゃあ今までは友達じゃなかった?」
「はぁ。 わかりました。 今日から私達は友達ですわ」
これが私と奈央が友達になった日だった。
◆◇◆◇◆◇
「ほー。 色々とあったんだな」
「良い話だよぅ」
「紗希は小さい頃から人の迷惑を考えない子だったんだね」
「失礼な」
私は本来はちゃんと大人しく出来るのよ。
両親の躾はそれなりに厳しかったし。
ただやっぱり人生は楽しい方が良いから、普段は明るく元気なキャラで生きてきたのよ。
「とまあ、私と奈央が仲良くなった話はこんな感じね。 大したことなかったでしょ?」
「いやいや。 面白い話だったぞ」
「うんうん」
「紗希じゃなかったら西條さんも心を開かなかったんじゃないかな?」
「そうだよぅ。 紗希ちゃんがいなかったら、もしかしたら奈央ちゃん今も独りぼっちだったかもしれないよ!」
「どうなってたかしらね? まあそんなもしもの話はしてもしょうがないわ」
あの子との話はまだまだ一杯あるんだけれど、それまで話してると日が暮れてしまうから今日のところはここまでね。
「でも、小さい頃の奈央ちゃんはずっとお嬢様モードだったんだね? いつから今みたいになったんだろぅ」
「さあ? 細かくは覚えてないけど、小学校の高学年ぐらいには今みたいに素顔モードとお嬢様モードを使い分けてたわよ? お子様モードもその頃からぐらいかしら」
「なるほどぅ」
「しかし、奈央ちゃんが昔の事を話したがらないのは、色々と恥ずい事があったからなんだな」
「きゃは、幼稚園時代の事は黒歴史だって言ってるわよ」
私からしたら結構面白い時代だったんだけども。
私もあの子と出会わなかったら、色々と変わってたのかしら?
うーん、遥とはバレーボールで仲良くなってただろうし、その流れで月中バレーボール部の皆とも仲良くなってただろう。
だけど、そこに奈央がいたかどうか……。
ま、考えても仕方ないか。
今、私達の輪の中にあの子はいるんだもの。
「さ、昔話はもう終わりにして、もうちょっとお店見て回りますか!」
「そうだね」
「可愛いアニメグッズ見よぅ」
「まだ帰るには早いもんな」
「そゆこと。 んじゃじゃレッツゴー!」
あ、ちなみに奈央は幼稚園の頃は私よりちょっと身長高かったのよ?
あの子、小学校高学年で成長止まっちゃったけどね。
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