第592話 皆の入試

 ☆夕也視点☆


 今日はついにやって来た大学入試1日目。

 それぞれの試験会場へと向かう俺達。

 俺は奈々美と共に七星大学へと向かう。


「いよいよだな」

「そうね」


 と、意外と落ち着いている奈々美。

 落ちるかもとか考えたりはしないのだろうか?


「不安とか無いのか?」

「私の場合は夢が掛かってるとか、そういう何が何でも大学に受からなきゃっていうプレッシャーが無いもの。 落ちたら落ちたでバイトでもしながら、Vリーグ目指すわよ」


 ということのようだ。 なるほど、出来ることなら一応大学は出ておこうというような感じか。

 俺も似たような感じではあるが、将来的に就職を有利にする為には何とか受かりたいところだ。


「でもま、一緒に受かれたら良いわよね。 4年間2人で過ごすキャンパスライフ。 ちょっと私達の関係が変わっちゃったりして?」

「何言ってんだよ……ま、でも講義の日が被った時ぐらいは時間合わせて周辺で遊ぶのも悪くはないな」

「ふふ、デートね。 楽しみだわ」


 まあ、そういうのもたまには悪くないだろう。

 

「じゃあ、その為にも一緒に受からないとね」

「ああ、そうだな」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 ☆希望視点☆


 皆と別れた私は、1人で試験会場となっている青葉丘教育大学へと向かっている。

 非常に心細くはあるけど、私の見つけた夢の為にも必ず合格しなければならない。

 日々の勉強、人見知りやアガリ症克服の為の特訓。

 皆が力を貸してくれたのだから、何としても合格してみせるよ。


「……」


 お母さんお父さん、見守っててね。 私頑張るよぅ。

 私は、合格祈願のお守りを強く握りしめる。

 そしてもう片方の手にも、小さなお守りを握っている。

 こちらは小学生になったさゆりちゃんが「頑張って」と言って渡してくれた手作りのお守りだ。

 とても勇気が湧いて来る。

 

「着いた……」


 余裕を持って試験会場に到着した私は、大きく深呼吸をしてキャンパスへと足を踏み入れた。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆紗希視点☆


 大学入試の為に皆と離れて京都へやって来た私。

 2日前には京都入りして、1日ゆっくりと休んだ私は、同じ大学を受験する千葉の友人、舞ちゃんとともに試験会場へと向かう。


「神崎さんは勉強はどうだった?」

「めっちゃやったわよ。 皆で1ヶ月間合宿したりしてさ」

「凄っ?! 気合い入ってるねー」

「そうね。 皆、何かしら夢を叶える為に頑張ってたわよ」

「清水さんは白山大学なんだっけ? 凄いね」

「亜美ちゃんも奈央も化け物だから」


 あの2人なら余裕で受かるでしょうね。


「裕君はどうかな?」

「昨日聞いた感じだと何とかなると思うって言ってたわね」

「言ってたね。 皆受かって一緒に京都に戻って来れたら良いよね」

「そうね。 お互い、頑張りましょ」

「うんうん」


 よーし、やってやるわ。 



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆亜美視点☆


 さてさて、私達白山大学組は3人とも経済学部を受験する。

 願書も同時に出したので、席も近くである。


「パッと見、月学生は私達だけかしらね?」

「難関大学だからね。 月学の生徒はよほどの目的が無い限り七星大学へ行くし」

「なるほど」


 席に文房具を出して準備を済ませた私達は、試験が始まるまでの間、話でもしながら時間を潰す。

 ここまで来たらやってきたことを信じて頑張るだけである。


「春人君、亜美ちゃん、必ず皆で合格しますわよ」

「はい」

「うん」


 席に着いて時間が来るのを待つ。

 やがて試験官の人が入ってきて、試験の用紙を配り試験の説明を始める。

 説明が終わると開始の合図を待つのみとなる。

 他の会場の皆も頑張ってね。


「では始めてください」


 遂に始まった大学入試。

 用紙を表にして問題を確認。 まずは数学。 パッと見て解けない問題は無さそうだ。

 焦らずきっちり解いていけば余裕そうである。


 カリカリ……


「……」


 マークシートだから解答欄のズレにだけは最大限注意だよ。 まあ、今までそんなミスをしたことはないんだけど。

 だからって本番でやらかさないとは言い切れない。

 常に気を張っておかなきゃね。



 ◆◇◆◇◆◇



 午前中の試験を終えた私達は、お昼休憩を取っています。

 他会場の皆の様子もスマホで確認。

 皆も順調なようだ。


「んむんむ。 奈央ちゃんは調子どう?」

「余裕よ」

「春くんは?」

「何とかなってるかと」


 白山大学組も調子は良い感じだ。 初日の午前が終わっただけではあるけど、出だしが良いというのは良い事だ。


「んむんむ。 明日は午前中で終わりだし、あと少し頑張ろう」

「ですわね」

「頑張りましょう」


 さあ、午後も頑張るよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆夕也視点☆


 午前の試験が終わったところで、別の学部を受験している奈々美と合流して昼飯を食べている。


「どうよ?」

「何とかなってそうではあるわね」


 ふむ。 奈々美も調子は良いようだな。

 亜美からも連絡があり、白山大学組も午前中の手応えは良かったようだ。

 京都へ行った紗希ちゃんも、1人で頑張っているの希望も良い調子らしい。

 皆で合宿をしてまで1ヶ月も勉強してきた成果が出ているってわけだな。


「ね? 明日の試験の後、帰りに寄り道して帰らない?」

「ん? おう、別に良いぞ。 明日さえ乗り切ればとりあえず勉強から解放されるからな」

「じゃあ決まりね。 寄り道デート楽しみだわ」

「デートではないだろ……」

「デートだと思った方が良くない?」


 奈々美は何を考えているのかさっぱりだ。 まあ、好きにさせておこうか。 怒らせると怖いからな。


「ふふ、何だか俄然やる気が出てきたわよ」

「さよですか」


 奈々美のやる気スイッチは本当によくわからんとこにあるな。 宏太の奴も苦労してそうだ。


「さて、そろそろ戻るべ」

「そうね」


 午後の試験の為に、それぞれの会場となっている講義室へ戻る。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆希望視点☆


 午後の試験が始まるまでもう少しだ。 私は出来るだけ他の人から離れて1人で昼食を食べたよ。

 特訓のおかげでマシにはなったけれど、完全に人見知りを克服出来たわけではないからね。

 今も「誰も話しかけないで」オーラを放ちながら席に座っている。

 ただ、他の受験生達も余裕が無い為か話しかけられる可能性は最初からかなり低いみたいだけど。


「……」


 絶対受かって、幼稚園教諭になるんだ。 こんなところで躓いてられないよぅ。


「では始めてください」


 午後の試験が始まった。

 あまり得意ではない英語である。 ただ、亜美ちゃんや奈央ちゃんに色々教わり、重点的に勉強してきた教科でもある。 抜かりなしだよ。

 

 カリカリ……


 ふむふむ、何とかなりそうな問題だけど油断大敵だ。

 特に配点の大きそうな英語作文なんて問題が最後に控えている。 ここは落とせないよぅ。

 そこで時間を使える様に、上手く時間配分していかなきゃ。

 焦らず、早く、丁寧にだよぅ。

 亜美ちゃんが教えてくれた大事な事である。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 ☆紗希視点☆


 午後の試験が始まり、受験生達は黙々と問題を解いている。

 目の前の用紙には国語の問題がぎっしり。

 まったく、デザインの勉強に必要なのかしら?

 あ、これは京都の難読地名問題。 一口と書いていもあらいなんて、どう足掻いても読めないっての。

 前もって京都の地名勉強しといて正解だったわこりゃ。

 舞ちゃんは大丈夫かしら?

 

 こうして、大学入試の時間は過ぎていくのであった。

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