第591話 いよいよ

 ☆亜美視点☆


 遥ちゃんが試験会場へ向かってから数時間。

 奈央ちゃんのスマホに経過と手応えの程の連絡が入った。

 どうやら休憩中みたいだよ。


「遥、どんな感じだって?」

「初日は今のところいい感じみたい」

「おー」

「やるな、蒼井!」

「そりゃ私が教えたんだもん。 それぐらい余裕だよ」

「これから午後の試験があるみたいね。 明日は実技だそうよ」

「今日さえ乗り切ればいけそうね」

「よぅし、負けてられないよぅ!」

「僕達も来週の本番に向けて頑張りましょう」

「だな」


 遥ちゃんも頑張ってるし、私達も頑張らないとね。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 夕方、遥ちゃんが帰ってきた。

 午後の方もかなりいい感じだったみたいで、にこにこしていた。


「いや、亜美ちゃん先生様様ってやつだ。 亜美ちゃん先生に教えてもらった問題がドンピシャでさー!」

「亜美先生はさすがだな!」


 私の生徒であった宏ちゃんも絶賛。 私はただ解き方を教えてあげただけなんだけどねぇ。


「明日は実技よね? 座学は通って実技でダメなんて事にならないでよ?」

「はん、私を誰だと思ってんだい?」

「油断だけはしないようにー」


 紗希ちゃんの言う通りだ。 得意な事だからと油断してると、思わぬ失敗をしかねない。


「わかってるよ。 最後の最後まで気を抜かないさ」


 と、真剣な顔でそう言う遥ちゃん。

 うん、今の遥ちゃんなら大丈夫だろう。


「1番心配してた遥が何とかなりそうで一安心ね」

「まだ結果は出てませんわよ」

「うぐ……」


 合格発表を見るまでは終わらないのが大学受験である。 とはいえ、明日が終われば遥ちゃんはこの受験勉強からは一旦解放されるのだ。

 随分と気が楽になったと言っていたよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕食後の入浴タイム。


「……」


 紗希ちゃんと一緒に入浴しているんだけど、紗希ちゃんはお風呂で単語の暗記中。

 詰め込むねぇ。

 集中してるけどのぼせたりしないかな? ちょっと注意だけしとこうか。


「紗希ちゃん。 集中するのは良いけど、のぼせない程度にね」

「りょ!」


 集中していてもちゃんと話を聞いていたようだ。

 でも京都かぁ。 紗希ちゃんが京都へ行っちゃったら、今みたいに一緒に遊んだりする機会が一気に減っちゃうんだね。


「何か寂しいな」

「ん? 寂しい? 今井君も呼んで一緒に入る?」

「いやいや……紗希ちゃんが京都行っちゃうのが寂しいなって」

「んー」

「紗希ちゃんは寂しくないの?」

「そりゃ寂しいけど、別に今生の別れってわけじゃないしそこまでは……」

「そだよね」

「それに、何度も言ってるように大型連休には毎回帰って来るし」

「うん。 その時は一杯遊ぼうね」

「んだね」


 紗希ちゃんは単語帳を閉じて湯船から立ち上がる。

 そのまま大きく伸びをすると、こちらを振り向いた。


「お風呂上がったらいつも通り家庭教師よろぴく」

「お任せあれだよ!」



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日の日曜日も皆で遥ちゃんをお見送りした私達は、最後の追い込みという事で休息日も外出せずに、自主勉強に励んでいる。

 自分の部屋で集中してやる人もいれば、広間で教え合いながらやる人もいる。

 私、紗希ちゃん、希望ちゃんが後者に当たる。


「遥、ちゃんとやれてるかしら?」

「遥ちゃんは体力には自信ありだからね。 大丈夫だよ」

「うんうん。 学力試験より安心出来るよね」


 私達は遥ちゃんの事を気にしつつも、自分達の心配もしないとね。


「希望ちゃんは英語とか大丈夫?」

「はぅ。 何とかなりそうだよ」

「普段からHOWHOW言ってるだけあるわねー」

「はぅ」


 それは別に英語じゃないと思うんだけど。

 希望ちゃんのこの口癖がちょっと可愛いから、たまに私も真似して「あぅ」とか言ってるけど、希望ちゃんはあまり何も言わない。


「亜美ちゃん、これ何て読むの?」

「ん? もずめだよ。 京都の地名だね」

「物集女でもずめかー。 地名わけわかんないわね」


 地名は結構無茶苦茶な当て字とかもあったりして覚えるのは大変である。

 地元民ぐらいしか読めないレベルの物もある。

 こういう読み取り問題が出ない事をいのるのみだ。


「あー早く解放されたーい」

「もうすぐだよ」

「んにゃー!」


 紗希ちゃんはかなり勉強疲れが出ているみたいだね。

 部活引退してからずっと勉強漬けだから仕方ないよね。


「夢を叶える為に頑張るんだよぅ」

「頑張りゅー……はぁ、裕樹は勉強捗ってるのかしら」


 珍しく彼氏のことを気にしている紗希ちゃん。

 やっぱり何だかんだ言ってゾッコンなんだね。


「柏原君も京都なんだよね? 青砥さんもだっけ?」

「うむん。 24日は3人で京都行くのよん」

「良いね。 青砥さんとは同じ大学なんだっけ?」

「そうよー」

「知り合いがいると心強いよね」

「はぅ、私は一人ぼっちだよぅ」


 と、しゅんとなってしまう希望ちゃん。

 ふむ。 紗希ちゃんは青砥さんと一緒で私は奈央ちゃん、春くんと一緒。 夕ちゃんは奈々ちゃんと一緒で遥ちゃんも何だかんだで彼氏さんが先輩として在学している。 本当に1人なのは希望ちゃんだけである。

 人見知りな希望ちゃんには大変そうだ。

 しかし自分で選んだ道だし、そこを乗り越えて夢を掴んで欲しいものである。


「頑張って希望ちゃん」

「ぅん」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 夕方──


 遥ちゃんが屋敷に帰ってきて、実に良い手応えだったと話してくれた。

 さすが遥ちゃん。 体を動かす事が得意な遥ちゃんに実技試験はぬるかったようである。

 後は合格発表を待つのみとなった遥ちゃんは、私達より一足先に勉強から解放されたのであった。


「ふぅ……なんて言うかさ、足の枷が全部外れたみたいな感覚だよ」

「とりあえずはお疲れ様ってとこね」

「いや、マジ疲れたぜ。 合格発表の日まではのんびりさせてもらうよ」

「あはは、どうぞ」


 遥ちゃん、本当にお疲れ様だね。

 さて、私達も頑張って勉強しなきゃね。

 あと6日だよ。


「さて紗希ちゃん、夕飯作りに行こっか」

「んだー」

「おし、勉強から解放されたし私も手伝うぞ」


 と、遥ちゃんが手伝ってくれると言い出したのだけど、紗希ちゃんがすぐに「あ、遥は良いからゆっくりしてて」と、やんわり断っていた。

 まだまだ遥ちゃんにキッチンは任せられないという事らしい。

 ごめんね遥ちゃん。



 ◆◇◆◇◆◇



 こうして日々を勉強漬けで過ごしていき──

 

 24日には京都の大学を受験する為に、紗希ちゃんが京都へ発った。


 そして日付は2月26日、私達もついに受験当日となった。

 昨日は皆勉強せずに体調を整える事を重視した。

 おかげで皆体調万全やる気充分だ。

 駅までは皆一緒にやって来ている。

 そして、駅でそれぞれが向かう方向に別れる。

 私は奈央ちゃんと春くんと一緒に、白山大学を目指して移動中だ。


「緊張するねぇ」

「またまた……普通にやれば私達は余裕で受かりますわよ」

「僕は余裕とは中々いい難いですが」

「いやいや、春くんも実力を出せれば十分受かるよ」


 難関と言われる白山大学経済学部。 私も全力で頑張るよ。

 他の大学へ向かった皆も頑張ってね。

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