第589話 みんなでバレンタインパーティー

 ☆夕也視点☆


 2月14日。 バレンタインデーというやつだ。

 宏太から聞いたが、今年のバレンタインは女子が皆でチョコレートケーキを作ってくれているらしい。

 さらに、麻美ちゃんと渚ちゃんもチョコを送って来てくれたらしい。

 麻美ちゃんからはこの間、直接チョコレートを貰ったのだが、今日送られてきたのは俺、宏太、春人の3人にという事のようだ。

 更に驚いた事に、京都から渚ちゃんのお姉さんの弥生さんからと、東京から宮下さんのチョコレートまで届いたという。

 そして何より驚きなのが、あのゆりりんからも俺達にチョコレートが送られてきたという事。

 奈々美がこの屋敷の住所を訊かれたらしく、理由を聞いたらチョコレートを送りたいからだと言っていたらしい。

 何とも嬉しい事だ。


「モテ過ぎて困るな」

「まったくだぜ」

「夕也と宏太はすぐに調子に乗ってしまうんですね」


 春人に呆れられてしまった。

 今日は勉強会も終えて晩飯も食べた。

 現在女子達は入浴中。

 6人同時でも余裕で入れるというめちゃくちゃ広い風呂だ。


「にしても、あともう少しでお前らも受験だな」

「あぁ、俺と奈々美は26、27日だ」

「僕と奈央さんと亜美さんもですね」


 皆そこに集中しているようだ。

 遥ちゃんだけは1週間早くて19、20日となるらしい。


「頑張れよな。 そこを越えれば一応は卒業式までのんびり出来るんだしよ」

「そうですね。 その前に合格発表もありますが」

「まあ、やる事をやってんだ。 結果はついてくるだろ」


 等と男子3人で話していると、入浴を終えた女子達がチョコレートを大量に持って広間へとやってきた。


「お、待ってました!」

「お待ちどうさまだよ」


 皆が作ったというチョコレートケーキを中心に、色々なチョコレートがテーブルにら並べられた。


「凄い数だな」

「そうね。 弥生や宮下さんにゆりりんまで送って来てくれたものね」

「ありがたい事ですね」

「さ、チョコレートパーティーといきましょう。 ジュースもたくさんありますわよ」

「よーし。 じゃあ、間近に迫った大学入試前の景気付けにー! 乾杯ー!」


 紗希ちゃんの乾杯でチョコレートパーティーが開始。

 亜美がケーキを均等に切り分けて皿に乗せて配る。

 9人分のケーキはかなりのサイズであり、それを均等に切り分ける亜美は機械みたいな奴だ。


「いただきます」


 早速皆が作ったチョコレートケーキをを食べる。


「おー美味い」

「ったりまえでしょ。 私達が作ったのよ?」

「そのチョコクリームは私が作ったんだ」


 遥ちゃんが自慢するように胸を張って言うと紗希ちゃんが「そんなの誰でも作れるってば」と返す。

 ちなみに俺は作れない。


「初めて作ったんだからちょっとは威張らせてくれよ」

「あはは、遥ちゃん頑張ってたもんねぇ」

「ううっ、褒めてくれるのは亜美先生だけだよ」


 昨日の台所で何があったかは知らないが、遥ちゃんは頑張ったらしい。


「あ、そうそう。 はいこれ、宏太に」

「おん?」


 奈々美の奴が宏太に小さな包みを手渡している。

 奈々美から宏太への個人的なチョコレートか?


「サンキューって、これはゆりりんからじゃねーか?!」

「わお」

「へぇ」

「はぅっ」

「あら」

「何ィっ?!」

「ふむ」


 それぞれが色々な反応を見せる。 ゆりりんが宏太に個人的なチョコレートだと?


「皆で食べる分とは別に、宏太には個人的にだって」

「どういうこった?」

「ゆりりんは俺に惚れてるのさ」


 前髪を掻き上げてカッコつけながらそんな事を言う宏太。


「バカな……ゆりりんだぞ? あの天下の」

「夕ちゃん。 信じられないかもだけどこれが本当の事なんだよ」

「きゃはは! やったじゃん佐々木君! ゴリラ女の奈々美なんかよりよっぽど良いわよ?」

「あのねー紗希……」

「まあ、その辺の問題はもう解決してる。 まだゆりりんから直接告られたわけでもないしな」

「そうなんですの? ふぅむ、まあでも佐々木君なんかに惚れたなんて、姫百合さんも人生最大の失敗ね」

「まったくだ。 普通は俺だろ」

「夕ちゃーん!」


 俺の言葉に対して、亜美がすぐに反応してくる。


「そういえ奈央だって、中学の頃は佐々木君に惚れてたじゃん」

「私の人生最大の汚点だわ」

「お前らなぁ……俺を何だと思ってんだよ」

「「ハズレ枠」」

「ぐぬぬ」


 宏太の扱いはいつも通りなのであった。

 まあ、見た目は間違いなくイケメンだし、高身長で優しくて良い奴だからモテはするんだよな。

 バカだからそれだけで全部台無しにするんだ。


「はぁ、まあ奈々美はそんな風に思ってねーよな?」

「え? あー、まあそうね」

「私も宏ちゃんの事はハズレだとは思ってないよ? ただ、イジって遊ぶのは面白いかな」

「佐々木は私らの玩具みたいなもんだ」

「そうですね」

「お、お前ら後で覚えてろよー」


 何を覚えていれば良いのかわからんが、負け犬みたいな捨て台詞を吐きながらケーキをやけ食いする宏太であった。


「ところでもう少しで遥ちゃんの入試だな」

「おー19日だなー。 亜美ちゃんや皆のおかげでかなり自信ついたぜ」

「体育大学でも座学なんかやるんだな」

「体育大学っても体動かしてばかりじゃないからな。 ちゃんと座学もやらなきゃならんよ。 ただ、入試には簡単なスポーツテストによる実技試験もあるみたいだ」


 なるほど、実技もあるのか。 大変だな。


「今井君は結局大学ではどこの学部にしたの?」

「電気工学だぜ。 電子か電気で迷ったが電気にした」

「どっちにしても、普通科高校から行くには難しそうですわね?」

「だな。 0からだから大変だろうけど、何とかしてみせるぜ」


 普通なら電気系の工業高校なんかを出て目指すものなんだろうけどな。

 受かったら電気の基礎から学ばないとならんのが大変そうだ。


「紗希ちゃんは24日に京都だっけ?」

「ええ。 試験は26、27だけども。 試験終わったら一旦帰ってくるわよ。 合格発表はネットで見られるし合格通知も来るみたいだから」

「そかそか」


 もう本当に目の前まで迫ってきてるんだな。

 いよいよって感じだ。


「皆で受かって、笑顔で卒業旅行に行こうね」

「ですわねー」


 そういえば奈央ちゃんが、そういうものを企画してるとか言ってたな。


「こんだけ頑張ってんだから、なるようになるわよ」

「そうだよぅ!」


 皆の士気は高い。

 とりあえずは遥ちゃんだな。 先陣を切る遥ちゃんの手応えが良ければ、俺達後発組の励みにもなる。


「皆、絶対に受かるぞー」


 亜美がそう声を上げて手を差し出す。

 そこに皆の手が重ねられていき……。


「おー!」


 皆が大きな声で応えた。



 ◆◇◆◇◆◇



 チョコレートパーティーを終えた俺達はそれぞれの部屋に戻ってそれぞれの時間を過ごす。

 最近は紗希ちゃんと亜美が夜遅くまで一緒に勉強しているらしい。

 共通テストで不安のあった教科を、亜美から教わっているのだとか。

 紗希ちゃんは夢を叶える為に、わざわざ京都まで行く。 頑張って受かって欲しいと、本当にそう思う。

 

「夢か。 結局何も見つからなかったなぁ」


 俺は何をやりたいのだろうか?

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