第588話 みんなで作ろう

 ☆亜美視点☆


 さて2月13日。 バレンタインデー目前である。

 であるのだけど……。


「皆キッチンを使うんだねぇ」

「はぅ」


 勉強時間も終わり夕食を食べた後、女子達は皆キッチンに集合していた。

 当然皆、チョコレート作る為に集まっているんだけど。


「どうしましょうね?」

「ううむ」


 皆で考え込む。 そこで案を出したのは希望ちゃんだ。


「この際皆でチョコレートケーキ作ろうよぅ」

「それには異存ないけど、それだと裕樹に渡すチョコが」

「私も先輩に渡すチョコが」

「あ、そっか」

「むぅ」

「まぁいいわ。 私と遥は後から自分の分作るから、とりあえずは皆でチョコケーキ作りましょうよ」


 と、紗希ちゃんはチョコケーキを作った後で自分の分のチョコを作ることにしたらしい。

 遥ちゃんもそれで納得したらしいので、まずは皆で夕ちゃん、宏ちゃん、春人くんの為にチョコケーキを作ることになった。


「そんじゃあ早速始めましょ」


 とはいえ、チョコケーキを作るのにこんなに人数要るんだろうか?


「じゃあ私メレンゲ作るわね」

「私はスポンジ生地作るよぅ」

「じゃあ私は生チョコクリームでも」


 と、それぞれ分担して作業にかかる。


「なぁ、私は何すりゃ良いんだ?」


 遥ちゃんは手が空いてしまい、何をすれば良いのか聞いてきた。

 しかし、紗希ちゃんは「遥は料理ダメなんだから見てなさい」と、あまりにも可哀想な事を言う。

 さすがに可哀想になったので、私と一緒に生チョコクリームを作ろうと呼びかけてあげる。


「亜美ちゃん、サンキュー! 何すりゃ良い?」

「この板チョコを細かく刻んでくれるかな?」

「任せろー!」


 そう言って遥ちゃんは、指をポキポキと鳴らしまな板の前に立った。

 そして包丁も持たずに何故か腕を振りかぶる。


「遥ちゃん、何してるの?」

「え? この板チョコを砕けば良いんだよな?」

「刻んで欲しいんだよ? 包丁で」

「そうなのか……」


 どうやら遥ちゃんの事を少しナメていたようである。

 まさか拳でチョコを砕こうとするとは思わなかったよ。


「だから見てなさいって言ってるのに」

「ええい! チョコぐらい刻めらぁ!」


 と、包丁を握ってチョコを刻み始めた遥ちゃん。 物凄く手元が怖いしペースが遅い。

 仕方ないので、目を離さないようにしながら、わたしは生クリームをかき混ぜる事にする。


 シャカシャカ……


「ぐぬぬ」

「気を付けてねー」

「りょ、了解」


 遥ちゃん、この後は彼氏さん用のチョコも作るんだっけ? こんなんじゃ心配だから、それも付き合ってあけた方が良さそうかな。

 お菓子作りなら、私より希望ちゃんや紗希ちゃんの方が上手なんだけどね。


 私が生クリームを作り終えて数分後。 ようやく板チョコが刻み終わったようである。

 ちょっと溶けてるね。


「ささ、湯煎用のボウルに入れて湯煎しよ」

「ラジャー!」


 さすがに湯煎ぐらいは出来るよね。

 一応横で見てはおくけれど。


「溶けろー」

「ゆっくりヘラで混ぜながらねー」


 私達がチョコクリームを作っている間に、スポンジケーキ組はメレンゲを生地に混ぜて、更にかき混ぜ始めていた。

 焼きに入るのは時間の問題そうだ。

 さすが、料理上手4人組である。

 

「お、溶けてきたよ亜美ちゃん」

「うんうん。 いい感じだね」


 もう少しだけ湯煎してから、溶けたチョコを私が泡立てた生クリームに入れるように指示する。


「入りました亜美先生!」

「んじゃヘラで満遍なくかき混ぜてね」

「イエッサー」


 ちゃんと教えて上げれば、簡単な料理ぐらいはすぐに出来るようになると思うんだよねぇ。

 受験が終わったら教えて上げよっかなぁ。


「亜美先生、出来ました」

「お、やったねぇ」


 ちゃんと出来るじゃん。 この分なら料理だってすぐ覚えるねぇ。


「スポンジケーキの方は今、オーブンで焼いてるよぅ」

「じゃあ、今のうちに道具を洗って、私と遥が彼氏に渡す分作りましょ」

「おう。 彼氏に作るの初めてで緊張してきた」

「大丈夫だって。 私が見てんだから」

「紗希は亜美ちゃんみたいにちゃんと教えてくれないだろう?」

「失礼ねー。 ちゃんと教えるわよ」

「頼むぜ」


 と、2人はそのまま、自分達の分のチョコレート作りに移っていった。

 紗希ちゃんも遥ちゃんも、トリュフにするみたいである。 定番だし、ハート型やクッキーにすると、配達中に割れたりする可能性もあるもんね。


「ほら、チョコの湯煎はさっき亜美ちゃんに教わってたでしょ? やってみなさいよ」

「お、おう」


 手が空いた私達に見られながら、遥ちゃんが板チョコを刻み始めた。

 さすがにもう拳で砕こうとはしなくなったみたいだ。

 良かった良かった。


 これなら紗希ちゃんにお任せしておけば大丈夫だね。

 私達はケーキが焼けたら、残りの4人でデコレーションしていこう。


 ピピピピッ!


「ケーキ焼けたよぅ」

「んじゃ、ケーキ完成させましょ」

「だねぇ」


 オーブンからケーキを取り出して、型から抜いて少し冷ます。

 そんな時、喉が渇いたらしい宏ちゃんが台所へとやって来た。


「おん? 甘い良い匂いするなぁ。  ケーキか?」

「あ、宏太くん。 明日バレンタインでしょ? だから、私達から男子達に上げるチョコケーキを皆で作ってるんだよぅ」

「おー、なるほどな。 明日が楽しみだな。 てことは、今年は奈々美個人からは無いのか」

「無いわよ。 このケーキだけ」

「そうか。 了解」


 お茶をガブガブ飲み終えて台所を後にした宏ちゃん。

 麻美ちゃんと渚ちゃんがチョコを送ってくるみたいだし、明日はちょっとしたチョコレートパーティーになりそうだ。


 ケーキが冷めたところで、私と遥ちゃんが作った生チョコクリームを塗りたくっていく。

 これを綺麗に塗るのがまた難しいのだよ。

 だけども、ここはお菓子作りに定評のある希望ちゃん。 とても器用にクリームを塗りたくっていく。

 均一に伸ばしながら、実に丁寧に作業を進めている。


「さすが希望ね」

「素晴らしい手際ですわ」

「だねぇ」


 そういえば一昨年のバレンタインでも1人でチョコケーキ作ってたね。 本当にお菓子作りは上手である。

 ケーキ屋さんになれたんじゃないかな?


「はぅはーぅ」


 ケーキの周りをぐるりと回りながら、塗りむらが無いかをしっかりとチェックする希望ちゃん。

 プロの所業である。


「うん。 こんなもんかな?」

「パチパチー」

「とりあえず土台は完成したわね。 上の方の飾り付けは明日やるとして、冷蔵庫に入れておきましょう」

「うん、そだね」


 出来たケーキを冷蔵庫に入れて保存しておく。

 明日が楽しみである。

 さて、紗希ちゃんと遥ちゃんの方はというと?


「ほらほら、さっさとそれを型に流し込む」

「もっと優しく教えてくれよ紗希」

「私は優しく教えてるつもりだけど。 あ、ほら、こぼしてるじゃないの! ちゃんとやる!」

「うぅ……優しいってなんだよー」


 紗希ちゃんは料理関係に関しては結構スパルタらしい。

 遥ちゃんは半泣きになりながらも、彼氏さんに渡すチョコレートを完成させるのであった。

 皆、お疲れ様だよ。

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