第587話 上京
少し日は遡り、2月4日の土曜日。
☆弥生視点☆
ウチは今、東京へやって来てる。
何でか言うと、既に契約が決まっているVリーグチームの社宅へ引っ越してくる為の準備をしに来たからや。
社宅で生活していく為に、色々と準備したりする必要あるさかいな。
「おー、来たかね弥生っち」
「来たでぇ」
待ち合わせしていた宮下美智香と合流。
この宮下さんも、ウチと同じチームと契約しとる選手や。
で、同じく社宅暮らしをする予定になっとるから一緒に見に行こうっちゅう事になった。
「んじゃ行こっか。 土地勘とか無いっしょ? 案内する」
「おう、頼むわ」
東京の地理なんて右も左も上も下もわからん。
てわけで、道案内は宮下さんにお任せや。
「せや、社宅を見に来るついでに練習見に来ぃひんかって言われるんやけど、宮下さんはどないやの?」
「私も言われてるから見に行くよ」
「ほな、そっちも案内よろしゅう!」
「そっちは向こうの人が案内してくれるっしょ」
それもそうやな。
ま、とりあえず社宅や社宅。
駅前でバスに乗り込み、一路社宅へ向かう。
せやけど、東京の道てごちゃごちゃしとんなぁ。
京都の道やったら目瞑っててもわかるんやけど。
「ウチ、この街に慣れられるやろか?」
「余裕っしょ。 住んでみたらすぐに慣れる慣れる」
まあ、人間の適応力は凄いもんやからな。 何とかなるか。
◆◇◆◇◆◇
バスを降りたとこで、会社の送迎バスが出とるらしいので、それが来るのを待つ。
「送迎バスがあるんは助かるな。 この駅が行動の拠点になるわけやな」
「そうねー。 休日とかはこの駅まで出てから遊びに行く感じね」
交通の便は中々良さそうやな。
「あ、バス来たみたいよ」
「お、ほな行こか」
送迎バスに乗り込みウチらが契約したチームを持つ会社へと移動を開始した。
駅からバスで約5分の場所に、その会社があった。
「ほぇー、でっかい会社やな」
「そうねー」
「で、どうしたらええんやろ?」
「えーっと、正門入った先にある保安で入場許可証貰ったら社宅の管理人室行って部屋の鍵を……」
「さよか。 ほな行こや」
「せっかちだねー弥生っちは」
苦笑いしながらウチに付いてくる宮下さん。
保安で話を通して入場許可証を貰う。
「社宅はあちらになります」
「おおきにです」
「ありがとうございます」
社宅の場所も聞けたし、そちらへズンズン歩いていく。
「ほぉん、立派な社宅やな。 あそこが管理人室やな」
「弥生っちも物怖じしないねー」
「何が怖いのんや。 あ、管理人さん、先日連絡した月島弥生と宮下美智香ですー」
「おー、来たかい。 これが部屋の鍵だよ。 ちょうど隣同士の部屋が空いてたから、そこにしといたよ」
「隣同士やって。 どっちがええ?」
「どっちでも良いよー。 好きに選んで」
「ほなウチは206や。 宮下さんは207な」
「了解!」
「階段上がって右側の通路を歩いた先だよ。 掃除はしてあって最低限の家具はあるけど、足りない物は自腹で買ってね」
「はい。 ほな見に行こか」
今日のとこは部屋には泊まらずホテル泊まりや。
明日色々必要なもん買ったりしてから、家具が届いて部屋を使えるようにしたら一旦京都へ戻る。 卒業式までは京都で過ごして、卒業後にこっちへ来て新生活開始や。
206号室の鍵を開けて中に入ってみる。
4月からはここがウチの新居になるわけやな。
「ほぅ。 まあまあ綺麗やん。 エアコン完備で風呂付き。 洗濯機も置けるようになっとるし、今の寮より良さげやな」
部屋に上がり間取りも確認。
一応キッチンもあるんやな。 自炊可能と。
で、洋室が2部屋もあるんか。 ここが生活スペースっちゅうわけやな。 片方は寝室専用にしよか。
「さて、ほな何処に何置くか考えつつ寸法でも測っとくか」
持って来ておいたメジャーを出して、メモ帳にメモを取りながら測量していく。
そうこうしていると、宮下さんが部屋に入ってきた。
もう部屋見たんかいな。
「弥生っち何してんの?」
「家具買うにしても寸法測っとかんと置かれへんとかなったらあかんやろ?」
「適当で良いじゃん。 弥生っちは細かいなー」
宮下さんは適当な子やと思ってたけど、こら相当やで。 大丈夫なんやろか。
「よっしゃ。 ほな、ウチは家具見てくるわ」
「私もー」
「何や、宮下さんも今日家具見に行くんかいな」
「おー」
何や宮下さんとおると妙に疲れるなぁ。
ウチ、これからこれと同じチームになるんかいな。
「よーし行こー」
「はいよ」
ま、ええか。 長い付き合いになる仲間やし、こういう交流は大事やな。
◆◇◆◇◆◇
近くの家具屋やホームセンターを梯子し、気に入った家具やカーテンを購入して部屋に戻って来た。
大型の家具については後日配達してもらう事になっとるし、数日は東京で過ごす事になるわけや。
「ホテル代に家具代。 こら手痛い出費やで」
「でも私らの年俸はそんなに悪くないっしょ? プロ契約でバレーボールだけやってりゃ良いし、案外お金使う暇無いかもよ」
「そん代わり、活躍でけんかったら即クビやで」
「怖い世の中よねー。 クビにならないように頑張らにゃ」
「せや。 丁度ええ時間やし、練習見に行こうや」
「そういえばそういう予定だったね。 よっしゃ、行こうー」
「練習は何処でやっとるんやろか?」
「管理人さんに聞いてみよー」
元気良く管理人室へ向かう宮下さん。
管理人さんにバレーボールの練習場の場所を聞いて戻ってきた。
「場所聞いてきたよん。 構内に体育館があるんだってさ。 こっちー」
「はいよー」
宮下さんについて行き、体育館を目指す。
◆◇◆◇◆◇
パァンッ!
体育館に足を踏み入れると、聞き慣れた音が聞こえてくる。
ええやんええやん。
「やっぱええなあ、この感じ」
「ウズウズするわねー!」
ウチら2人は練習の邪魔をせんように、体育館の隅っこの方で練習を見学する。
Vリーガー言うても、やってる事はウチらと変わらん基礎練習やら紅白戦やな。
ちゃんとしたコーチや監督さんなんかは付いとるみたいや。
パァンッ!
せやけどさすがにレベル高いで。 たしか、東京クリムフェニックスはV1リーグでもトップクラスの成績や言うてたな。 なるほど納得や。
「たしか、大阪の黛姉妹もVリーガーよね?」
「せや。 姉貴の方はウチらより1個上やから、もうバリバリ活躍中やで。 今年から同じチームに妹も入るっちゅう話しや」
「あのコンビプレー復活ってわけね」
「まあ、そういうこっちゃ」
おそらくは強敵になるやろなぁ。
立華出身の眞鍋先輩もVリーグで活躍したはるらしい。 京都のチームやな。
インターハイで戦ってきたライバル達とVリーグのコートでチームメイトになったり、もういっぺん戦ったり出来るんは楽しみや。
「せやけど……」
「?」
やっぱりあんさんがおらんと物足りひんわ。
ウチの中学からの最強のライバル、清水亜美。
Vリーグで何回でも戦える思てたのに、亜美ちゃんはVリーガーにはならへん道を選んだ。
まだ公式戦では1回も勝ててへんのに、勝ち逃げされてもうた。
「亜美ちゃんと戦いたいわ」
「そうだね。 負けっぱなしは悔しいわよね」
2人して、あの憎たらしくて可愛らしい化け物の顔を思い浮かべるのだった。
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