第584話 麻美のチョコ

 ☆麻美視点☆


 皆とお出掛けして帰って来た私達。

 夕飯まではまだ時間があるから、広間に放たれたマロンと遊んでいるぞー。

 亜美姉と2人で色々な物を買った後は、バレンタインチョコの材料となる板チョコなんかも買い、準備は万端だ。 チョコ作りは今晩、皆が寝ている時間にこっそりと起きてきて台所を借りる予定だよー。

 亜美姉も手伝ってくれるって言ってくれたので助かる。


「おーマロンー! 寂しかったぞー」

「みゃー」


 相変わらず可愛い奴だよー。 顎の辺りを撫でてやると、気持ち良さそうな顔をする。


「ほんま、誰にでも懐くんやなその子」


 私と遊ぶマロンを見ながらそんな事を言う。

 たしかにマロンは誰にでも懐く。 猫にも個々に性格というものがあるのだろう。 この子はこういう性格の子だという事だ。


「ま、深く考えても仕方ないよー」

「みゃう」

「まあ、そやけど」

「よーちよち、良い子だねーお前は」

「マロンを前にすると、皆ママになるわねー。 おーよちよち」


 隣に座る神崎先輩は、そんな事を言いながら自分もママになっていた。

 でもたしかにママになってしまうねー。


「ところでさ麻美。 今日は亜美ちゃんとヒソヒソと何か話してたけど、何かするの? 今井君を襲う計画なら混ぜてよねー?」


 神崎先輩はまたそんな事を言ってるよー。 本当にこの先輩は性欲強いなー。


「襲わないよー」

「あ、そうなの? じゃあ何するのよ?」

「何や? 麻美、今井先輩に何かするんか?」


 渚や神崎先輩に知られると面倒な事になりそうだし、ここはバレないように立ち回らないと。


「何もしないよー? 亜美姉と話してたのは小説の話ー」


 私と亜美姉がヒソヒソ話をしていても不自然ではない話題で真実を偽装する。


「あー、なるほど! 本の内容の話とか?」

「そやったら私らに隠すんはしゃーないなー」

「そゆことー」


 何とか上手く隠し通したぞー。 私の頭の回転の速さに自画自賛だ。


「麻美、そろそろマロンを私達にも愛でさせなさいよ」


 向かいに座ってバレーボール雑誌を読んでいたお姉ちゃんが、本を読み終えたのか話に加わってきた。


「お姉ちゃん達は、いつでも愛でられるじゃんかー」


 私達は明日には実家に帰らなくちゃいけないから、今日明日しかマロンと遊べないのだ。

 それに引き換えお姉ちゃんは、卒業式前までマロンと遊べるんだから、今日は明日ぐらいは我慢して欲しいよー。


「えーい、1日1回はマロンと遊ぶ必要があるのよ」

「そんなもの無いでしょー」

「うっさい。 さっさとマロンを解放しなさい」


 亜美姉は、お姉ちゃんは私の事可愛がってるって言ってたけど、絶対にそんな事ないと思う。

 結局マロンを奪われてしまったのであった。

 横暴だー。



 ◆◇◆◇◆◇



 食後にはまたマロンと遊ぶ時間が貰えたので、気の済むまで遊び倒して、早めにお風呂に入らせてもらう。

 仮眠をとりたいからだ。

 夜中に起きてチョコ作りをするので、少し寝ておきたいのだー。


 というわけで──


「一旦おやすみー」


 目覚ましをセットして仮眠する。


 目を覚ましたのは2時前。 チョコ作り開始は2時半の予定。 少し早めに起きて頭を目覚めさせておく。


「んにゃー」


 眠い。 眠いけど、私の夕也兄ぃへの愛はこの程度の眠気には負けないのだー。


「よし、やるぞ」


 気合いを入れてキッチンへと向かった。

 

  

 ◆◇◆◇◆◇



 キッチンの方へ向かうと、既に明かりが灯っていた。

 どうやら亜美姉が先に来て、色々準備をしてくれていいたらしい。

 頼れる人だよー。


「あ、麻美ちゃん来たね」

「亜美姉、お手伝いありがとう」

「いやいや。 お手伝いぐらいいくらでもするよ」


 と、亜美姉は特に恩に着せるでもなく、気軽にそう言ってくれる。


「じゃあ作っていこうか」

「おー」


 ということで、亜美姉に教わりながらチョコ作りを進めていく。

 去年はお姉ちゃんと2人で作ったけど、今年はちゃんと教えてくれる亜美姉が一緒だから楽しみだ。


「ちょっとコーヒー風味の効いたチョコレートにしようと思うんだけど」

「良いと思うよ。 夕ちゃんコーヒー好きだしアリだと思う」

「だよねー。 よーし頑張るよー」

「そいじゃ早速チョコレートを湯煎しようね」

「うんー」

「まずは板チョコを包丁で細かく刻んでいくよ。 固いから気を付けてね」

「了解」


 むー、中々難しいなぁー。

 少々苦戦しながら何とかチョコを刻み終える。


「よし出来たぞー」

「うんうん、上出来だよ。 湯煎しようね」

「了解」


 刻んだチョコをボウルに入れて、更にそのボウルを50℃くらいに調整したお湯を張ったボウルに入れて、ゴムヘラで混ぜながらゆっくり溶かす。

 これは簡単だー。


「ふんふんー」

「コーヒー用意しとくね」

「ありがとうー」


 湯煎している間に亜美姉がコーヒー粉末を準備してくれている。

 瓶の蓋を開けてしかめっ面をしているところを見るに、あの匂いもダメみたいだねー。


「よくこんな物を好んで飲めるよ……」

「美味しいよー? 私もあんまり飲まないけど」

「私は一生飲まないと思うな」


 コーヒーの瓶とスプーンを持って来て隣に置いてくれる。

 後は私の匙加減でコーヒーを入れてちょっと味見をする。


「うん。 甘さとほろ苦さが良い感じ。 亜美姉も味見する?」

「いらない。 もうそれはチョコじゃないよ」


 チョコレートを作っているのにチョコレートじゃなくなっちゃったみたいだ。

 亜美姉は本当にコーヒーダメだね。


 後は型に流して冷蔵庫で固めるだけ。

 貼り紙に「麻美のだから食べるな!」と書いておく。


「出来たぞー! 明日の朝には固まってる?」

「大丈夫だと思うよ」

「やたー! ありがとう亜美姉! このお礼は必ず」

「良いよそんなの。 明日が楽しみだね」

「うん」


 明日、帰る前に上手く夕也兄ぃと2人になってチョコを渡そう。


「じゃあ寝よっか」

「おやすみー」


 亜美姉とお別れして部屋に戻る。 明日まで寝よう。

 明日、夕也兄ぃにチョコレートを渡すぞ。


「時間は……うわ、もう4時前かー」


 これは早く寝ないと。

 寝坊しないようにしないとー。



 ◆◇◆◇◆◇



 朝──


「んん……ん? 朝ー……うん、8時ー」


 4時間しか寝てないけど、もうすぐ朝ご飯の時間だねー。

 ささっと起きてダイニングへ行こー。


 ささっと起きてダイニングへ向かう。

 ダイニングに到着すると、皆が椅子に座って待っていた。

 朝ご飯はまだのようだ。


「あ、おはよう麻美ちゃん」

「おはよー希望姉」

「朝ご飯出来たよー」

「おーし、食って勉強すっぞー」

「佐々木君がやる気になってるー」

「あんたは受験無いでしょうが……」

「なはは、いただきますー」


 私は早速朝ご飯を頬張る。 今日は卵焼きに味噌汁、焼き魚に白いご飯と、完全に和風だねー。

 亜美姉と神崎先輩が作ると凄く美味しい。


「んぐ、そだ、後で夕也兄ぃの部屋行っていい?」

「んぐ? 勉強時間始まる前なら構わないが?」

「じゃあ後で行くねー」

「あいよ」


 これでチョコレートを渡す手筈も整ったよー。

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