第585話 誰よりも
☆亜美視点☆
2月5日の日曜日です。
夜中に麻美ちゃんのチョコ作りを手伝っていたので、今は少し眠たいです。
朝食中だけど、半分寝てます。
「亜美ちゃん、キッチンでもぽけぽけしてたけど大丈夫?」
「あはは、昨日はあんまり寝てないんだよ」
「勉強でもしてたの?」
「まあ、そんなとこ」
嘘なんだけどねぇ。
「亜美ちゃんならそんな無理しなくても余裕だろー」
遥ちゃんがそんな事を言う。
まあ共通テストも満点だったけど。
ふぅ、それにしても麻美ちゃんは本当に夕ちゃんが好きだねぇ。
私が夕ちゃんの彼氏でいられるのは、一緒に過ごした時間が誰よりも長いから。
私はもちろん夕ちゃんの事を愛しているし、夕ちゃんに愛されている自信はある。
でも、私達の中で誰よりも夕ちゃんを愛しているのは麻美ちゃんかもしれない。
実のところ、その一点に関して言えば、麻美ちゃんには敵わないかなぁと思っている。
本当に麻美ちゃんの夕ちゃん好きは凄いのである。
それは今回のバレンタインチョコの件でも顕著である。
渚ちゃんが当日に郵送で渡すのに対して、麻美ちゃんはバレンタインデーでは無いが、直接手渡したいがために今日渡すというのだ。
直接手渡すというところに拘るみたいである。
◆◇◆◇◆◇
☆麻美視点☆
朝食をゆっくり食べ終えた私は、キッチンへコソコソっと向かい、コソッと昨日作ったチョコレートを回収。
おー、ちゃんと固まってるよー。
よーし夕也兄ぃの部屋にイクゾー。
私はパタパタと急ぎ足で夕也兄ぃの部屋へ向かう。
が、途中で渚に遭遇。 朝食の時に私と夕也兄ぃの会話を聞いていたみたいで、自分も夕也兄ぃの部屋へ一緒に行こうとしているみたいだ。 とても邪魔だよー。
「私、夕也兄ぃに用事があるのー。 邪魔しないでー」
「何を言うてんのん。 抜け駆けしよって魂胆丸見えやで」
「違うよ。 私は渚とは違うもん」
「な、何やねん? 私は抜け駆けなんかしようとしてへんで?」
「そうじゃない, 私の言ってるのは抜け駆けとかそういう話じゃない。 夕也兄ぃへの想いの大きさが渚とは違うって言ってるの」
「うっ……」
「私は今、夕也兄ぃに渡したい物があるの。 邪魔しないで」
「な、何やの。 そない怒る事やないやん。 わ、渡したい物てそれか? 何やのそれ?」
「チョコだよ」
「チョコ? バレンタインはまだ先やで?」
「だから渚とは違うって言ってるのー。 私はいつ渡すかじゃなくて、どう渡すかに拘ってるの」
「どうって……」
「渚は郵送で渡すんだよね? 私は直接手渡したいの。 だから邪魔しないで」
「……麻美」
私は渚のことを無視して夕也兄ぃの部屋へ向かう。
ちょっと言い過ぎたかもしれないけど、今はそんな事を気にしている場合じゃないよ。
夕也兄ぃの部屋の前までやって来た。
「すぅー……笑顔笑顔」
いつものようにニコニコ笑顔を作り、いつものように元気な声を上げる。
「夕也兄ぃー、来たよー」
コンコン……
「おう。 入ってくれ」
許しが出たので部屋に入る。
「おーす夕也兄ぃー」
「おーす」
いつものように元気良く夕也兄ぃに挨拶して中に入る。
「何か用事でもあるのか?」
「うむー」
私は後ろ手にチョコを隠して夕也兄ぃに近付く。
夕也兄ぃもテーブルの前に座って、私に座る様に促す。
「んしょ」
「で、何だ?」
「あははは、実は渡したい物があるのだー」
「渡したい物? はて、誕生日はまだ先だが?」
「誕生日プレゼントじゃないよー? んしょ、はいこれ!」
チョコレートの入った小袋を夕也兄ぃに手渡す。
夕也兄ぃはそれを受け取り、ボケーッと見つめていた。
「中見て良いか?」
「どうぞ!」
私に確認を取りチョコレートの袋を開ける。
「これはチョコレートか? この匂いはコーヒーか?」
「ご名答ー」
「しかし、何でチョコレートなんだ?」
「うーん、もうすぐバレンタインでしょ?」
「もうすぐったってまだ9日あるが」
「当日には渡しに来れないもんー」
「そりゃそうかもしれんが、それこそ郵送で良くないか?」
と、夕也兄ぃもそういう事を言う。
むぅ、貰う方がこうだと困るよー。
「ダメなのー。 私はね、直接夕也兄ぃに渡したかったんだもん。 郵送より手渡しの方が想いのが乗ってるでしょー?」
「まあ、それはそうかもしれんが……いや、そうだな。 サンキューな」
「わかれば良いー」
「はは、食って良いよな?」
「どうぞー」
夕也兄ぃはチョコレートを1つ摘んで口に運ぶ。
「んぐんぐ……おー、甘いだけじゃなくてコーヒーの苦味も効いた良いチョコレートだな。 ただのビターじゃないとこが良い」
「夕也兄ぃはコーヒー好きだもんねー。 やっぱりこういうのが良いと思ったんだー」
「おう好きだな。 んぐ、美味い」
「なはは。 私も夕也兄ぃの事は大好きー」
「んぐ……おう、知ってるぞ。 去年聞いたからな」
と、特に驚いた様子もなく普通に返して来た。
そっかー、もうあの告白から1年経ったのかー。
「ちゃんと麻美ちゃんの気持ちはわかってるから安心しな」
「うむん。 もう妹扱いからは完全に脱却出来たかな?」
「ちゃんと女性扱い出来てるかは自信無いがな」
「ほぅー。 じゃあ女性扱いの何たるかを教えて上げなければー」
という事で私は立ち上がり、夕也兄ぃの方へ近付いていく。
「麻美ちゃん?」
「んちゅ」
「んむ?!」
そして夕也兄ぃの唇を奪う。 先程コーヒーチョコレートを食べていた夕也兄ぃの口からはほろ苦いコーヒーの味がした。
「なははー、キスいただいたぞー」
「また急に……」
「良いじゃーん、欲しかったんだもんー」
「まったく……まあ、今に始まった事ではないないから良いが……」
「なははー、本当はもう少し色々したいとこだけど、そろそろ勉強の時間だよねー? 今回はこれで勘弁してあげよー」
「おーおー、温情痛み入りますな」
「うわははー。 私も夕方までには帰っちゃうから、またしばらく会えないのかー」
「何、卒業式なんかすぐだぞ。 向こうに戻ったら顔出すよ」
卒業式かー。 卒業式と言えば。
「夕也兄ぃ、卒業式終わったらさ、第二ボタンちょーだい」
「第二ボタン? あー、そういえばそういう風習あったな。 まあ、まだ誰からも言われてねーし、早い物勝ちで麻美ちゃんにやるよ」
「おー! やった! 約束だぞー!」
「あぁ、約束する」
言ってみるもだー。 最近は私も夕也兄ぃ争奪戦の一角に入り込めているのでは?
もしかして諦めるのは時期尚早かー?
「んふふー」
「ど、どうした?」
「何でもなーいー。 さ、もう広間行かないとー」
私は立ち上がり、夕也兄ぃから離れる。
今日チョコレートを渡してよかった。 郵送したんじゃ、夕也兄ぃとのこんな時期は過ごせなかったもんねー。
「夕也兄ぃ! 私は夕也兄ぃの事、ほんっとうに愛してるぞー! 誰よりも、亜美姉や希望姉よりも夕也兄ぃの事想ってるぞー!」
私の思いの丈を再度夕也兄ぃに伝える。
それを聞いた夕也兄ぃは、一瞬困ったような表情を見せたが、それでもすぐに微笑み返してくれた。
「おう」
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