第583話 誰にも負けない
☆麻美視点☆
今日は2月4日土曜日。
受験勉強の為に実家を離れ、西條先輩の別荘で合宿を始めた3年生達を訪ねて、私と渚も合宿所となっている西條先輩の別荘へやって来た。
夕也兄ぃとも久しぶりに会えてテンションアップだ。
せっかく知らない街へ来たので夕也兄ぃをお出かけに誘ったら、結局皆一緒について来る事になった。
うーん、抜け駆け失敗。
現在、電車に乗って移動中だ。 降りた先には皆ですら何があるのかわからないらしい。
まさに未開の街を探検だ。
「わくわく」
「麻美ちゃん楽しそうだね」
隣に座る希望姉が、終始笑顔な私を見てそう聞いて来た。
夕也兄ぃと一緒というだけで、大体のことは楽しめてしまうからねー。
「そういえばさ、もうすぐバレンタインだよね? 遥ちゃんとか紗希ちゃんはどうするの?」
と、思い出したようにバレンタインの話を振るのは亜美姉だった。
そっか、あと10日か。 でも、当日には夕也兄ぃに渡しに来れないぞー? どうしようかなー。
「私はさすがに郵送だな」
「私もそうね。 残念ながら」
蒼井先輩も神崎先輩も郵送か。
それが無難だけど、やっぱり直接手渡したいな。
「渚はどうするー?」
「普通に郵送やろ」
渚も郵送か。
私はやっぱり直接手渡したい。 当日に無理なら今日か明日しかない。 となれば!
「亜美姉、ちょっと耳貸してー」
「ん、何?」
亜美姉に耳打ちで話をする。 亜美姉は「ふむふむ」と頷いている。
あ、ちなみに私と亜美姉は夕也兄ぃを挟むようにして座っているから、2人の顔は夕也兄ぃの胸の前辺りにあるよ。
「お前らなぁ」
「んー。 なるほどなるほど、らじゃだよ」
「詳細は後でメールするねー」
「はーい」
亜美姉に話を付けたので、夕也兄ぃへのチョコは明日に手渡しする事にした。
私の夕也兄ぃへの想いの本気度は、渚とはわけが違うのだー。
そうこうしている内に、電車は目的地へと到着した。
途中で止まってた駅に比べると少し規模は小さい感じだけど、それでも中々大きな駅だ。
この辺は都会なんだねー。
「うわわ、ここも結構大きな駅だね」
「迷ったら遭難しちゃうよ」
「希望は大袈裟過ぎ」
遭難まではしないけど、迷う事はありそうなぐらい広いね。
はぐれないように注意注意。
「亜美ゲーターよろしくねー」
「皆もスマホあるじゃない……」
と、亜美姉はぶつくさ言いながらも、スマホを開いてナビを担当している。
どうやら毎回こういう役回りらしい。
「うんと、8番出口から出たら商店街があるね。 映画館もあるみたい」
「ふうむ。 どうする? 別れて別行動取るのもありよね?」
神崎先輩がそう言うと、西條先輩と亜美姉も頷く。
「私、映画観に行きたいわね」
「私もぅ」
という事で、映画組とショッピング組に別れて行動する事に。
私は夕也兄ぃがいるショッピング組。
他にお姉ちゃん、亜美姉、神崎先輩、宏太兄ぃがいる。
意外にも希望姉と渚は映画組に行った。
夕也兄ぃと一緒じゃなくて良いのかなー?
「むぅ」
「希望ちゃんは観たい映画があるんだって言ってたし、それ観に行くんだと思うよ。 渚ちゃんは知らないけど」
「ほぇ」
私が納得いかなそうな顔をしていると、亜美姉が私の考えを見透かしたように話しかけてきた。
相変わらず恐ろしい人だ。
「行くよ麻美ちゃん」
そう言って近くにやって来た亜美姉が、耳打ちでこう続けた。
「チョコ作りの材料、買うんでしょ?」
「おー、そうだね」
せっかくなので、このショッピング中に材料調達してしまおう。
さすが亜美姉、効率的だー。
というわけで、皆で行動開始。
「麻美。 あんたさっきから亜美と何かコソコソと耳打ちなんかして、何か悪い事考えてないわよね?」
隣を歩くお姉ちゃんが、怖い目つきで私に話しかけてきた。 目つきが悪いのは元からかー。
「別に悪いことじゃないもーん」
「ふぅん? 何かは企んでるわけね」
「なははー。 内緒ー」
「はー、ま、良いけど……あんまり亜美に迷惑掛けないようにね」
「了解!」
お姉ちゃんは私を何だと思ってるんだか。 こんな大人しくて可愛いくて良い妹、そこらにいないよー。
「あ、ここ入ろう」
亜美姉が指さしたのは、いわゆるホームセンター。 結構何でも買えるお店である。
「何か買うものでもあるの?」
「うん。 マロンのトイレ砂とか餌とか」
「マロンの物買うなら仕方ないわねー。 入りましょー」
マロンは皆から可愛がられている亜美姉の飼っている猫ちゃん。
合宿にも連れて来ているみたいだ。 後でマロンとも遊ぼう。
亜美姉に続いて、ホームセンターへ入店。 案内図を見てペット用品コーナーへ向かう亜美姉。 私達も一緒についていくよー。
亜美姉が餌や砂を見繕っている間に、私達は売りに出されているペット達を見て癒されている。
どの子も可愛いけど、家ではダメだって言われるんだよねー。
大学生になったら一人暮らししよーかなー?
「お待たせだよー。 ちょっと他にも見る物あるんだけど寄って良い?」
「じゃあ、私達も適当に見てるから、出口で待ち合わせましょ」
「らじゃだよ。 麻美ちゃん、一緒にいこ」
「ほぇ?」
「色々と要るからね」
「おー! わかったー!」
どうやらチョコ作りに使う物を買うようだ。 そうとなれば私は亜美姉について行かざるを得ない。
「亜美、この子と何しようとしてるかは知らないけど、迷惑ならちゃんと言いなさいよ?」
「いやいや、大丈夫だよ」
「そう? じゃ、麻美の事お願いね」
と、亜美姉に私のことを頼んで、お姉ちゃんは皆と歩いて行った。
「まったくお姉ちゃんはー。 私のことを何だと思ってるんだろーねー」
「手の掛かる可愛い妹だと思ってるんじゃないかな?」
「ぶー。 こんな大人しいのに手なんか掛からないよー」
「あ、あはは……でも、凄く可愛がってるのは事実だよ」
「そうかなー?」
結構ケンカしたり頭叩かれたりしてるけど、あれも可愛がり?
「ささ、チョコ作りに使えそうな物買いに行くよ」
「おー」
亜美姉に続いて歩き出す。
歩きながら亜美姉は私に話しかけてきた。
「でも、皆は郵送するって言ってたのに、麻美ちゃんは明日手渡しなんだねバレンタインにはまだ早いけど良いの?」
「うん。 手渡ししたいから」
「そかそか。 やっぱりそうだよねぇ」
「うむー。 渚なんかとは年季が違うよー」
「そだねぇ。 麻美ちゃんが誰よりも長く夕ちゃんの事を好きなんだもんね。 それだけは私も勝てないよ」
「それだけは誰にも負けないよー」
それでも夕也兄ぃは亜美姉や希望姉を選んだんだけどね。 うー、悔しい。
「でも、麻美ちゃんの気持ちは夕ちゃんに届いたんだよね?」
「うん。 告白して良かったと思うよー」
あれ以来、妹扱いされる頻度はかなり低くくなった。
これは大きな進歩だ。 でも、もう少し私の事も見てほしいと思う。
亜美姉や希望姉には敵わなくても、もう少し近付きたいと思っている。
「まだまだ前進だー」
「あはは、お手柔らかに頼むよ」
亜美姉と一緒に買い物をしながら、夕也兄ぃ談義で盛り上がるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます