第582話 麻美と渚来訪

 ☆亜美視点☆


 勉強やら何やらでわちゃわちゃして忙しかったので忘れていたけど、既に2月に入っています。

 皆の勝負の月だ。

 なんだけど、2月といえばね。 ほら、バレンタインだよバレンタイン。

 今年は夕ちゃんも宏ちゃんも春くんにもチョコを渡さないとねぇ?


「とはいえ今日はまだ4日。 チョコを準備するにはまだ早いね」


 尚、昨日の夕食は太巻にしたよ。 豆まきはお掃除が大変だからやらなかったけどね。

 

 んで、今日は土曜日という事で、麻美ちゃんや渚ちゃんが遊びに来る予定になっている。

 今日は休息日なのでちょうど良いね。

 麻美ちゃんが来たらきっと賑やかになるよ。

 休息日だし、何処かに出かけるのも良いかもしれないよ。

 昼前には到着するらしいので、お昼も用意しなきゃねぇ。 

 台所当番の腕の見せ所だよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 お昼前──


 車を出してもらい、麻美ちゃん達を迎えに行った奈央ちゃんが2人を連れて戻ってきた。


「到着ー! 夕也兄ぃはどこだー!」


 屋敷の中に入って来るや、元気な声が聞こえてきたのですぐにわかる。

 早速夕ちゃんを探しているようだ。

 私は台所から顔を出す。


「やほー」

「あ、亜美姉! やほー!」

「こんにちはです先輩」


 麻美ちゃんと渚ちゃんに挨拶をしておく。

 同じく台所で作業していた紗希ちゃんも、顔を出して2人に挨拶していた。


「夕ちゃんなら広間にいるんじゃないかな? 皆もいると思うよ」

「おー! 広間はどこだー!」

「あんた静かに出来へんのかいな……」


 騒がしくしながら広間を探し始める麻美ちゃん。

 やっぱり彼女が来ると一気に賑やかさが増すね。


「さて、サクサクッとお昼ご飯を作りますか」

「りょ!」


 私と紗希ちゃんは、任された食事係をしっかりとこなしていく。 卒業式までの間、この台所を預かる者として頑張るよ。


「あるぇ? 広間はどこだー?」

「アホかあんたは。 台所に戻ってきてもうたやんか」

「広過ぎてわかんないんだよー」


 先程広間を目指して旅立った麻美ちゃんと渚ちゃんだったのだが、何故か台所に戻って来てしまった。

 たしかに広い屋敷だけど、そこまで迷うような構造はしていないと思うんだけど。


「むぅ? このダンジョンは難解だねー」


 ダンジョンではないと思うんだけど……。

 私は広間への行き方を麻美ちゃん達に教えてあげた。

 2人は、それを聞いてお礼を言いながら広間へ向かった。

 今度は戻って来ないよね?



 ◆◇◆◇◆◇



 とりあえずお昼ご飯を作っている間に麻美ちゃん達が戻って来る事はなかったので、無事に広間に辿り着いただろう。

 お昼ご飯をダイニングに運んでテーブルに並べる。


「じゃあ皆呼ぶね」

「お願いー」


 私はダイニングに……というか、いろんな部屋に備え付けられている放送マイクを使い皆を呼ぶよ。


「えっと、音量ヨシ、対象は屋敷内全体ヨシ。 放送開始っと」


 ポチっとな。


「あーあー。 こほん。 皆ー、お昼ご飯が出来たよー。 ダイニングに来てねー」


 放送終了。


「凄い屋敷よね本当。 あの子の家って一体どんだけの資産持ってるのかしら?」

「さぁ? さすがにお金使い過ぎな気もするけどねぇ」


 お金が湯水のように湧いて来るんだろうか?

 不思議な話である。


 少し待っていると、皆がダイニングに集まってきた。

 麻美ちゃん達も皆と一緒だ。

 良かった良かった。


「夕也兄ぃ、お昼食べたら出かけよー?」

「あんさん、ちょっとは遠慮しいや」

「ははは、別に良いぞ。 休息日だから構わないさ」

「やったー! 渚は遠慮するんだよねー?」

「ア、アホ! 私も行くに決まってるやろ」


 と、2人は夕ちゃんをお出かけに誘っている。


「当然私も行くよ」

「はぅ、私も行くよぅ」

「というか、皆で出かければ良いでしょ……」

「ですわね。 まだまだこの辺は未開拓だし皆で出かけましょう」


 奈央ちゃんの意見には皆賛成した。 今日は11人で行動する事になったね。

 サッカー出来る人数だよ。 しないけどね。

 というわけで、お昼を食べた後はまだ行った事のないところまで足を伸ばそうという事になったよ。


「ここから4駅先にも大きめの街があるわ。 そこ行きましょ」

「おー!」


 目的地も決まって楽しみである。



 ◆◇◆◇◆◇



 さてさて、お昼も食べ終えて少し休憩も挟んだ私達は、麻美ちゃんと渚ちゃんも加えて遊びに出かける。

 相変わらず受験生らしくはない行動だが、こういうこまめな休息というのは必要なものなのである。


「そやけど、この辺の住宅街も凄いとこやね」

「どの家見てもわけわかんないぐらいでかいー」


 辺り一帯の高級住宅を見て感想を述べる2年生2人。

 まあたしかにとんでもない土地である。

 奈央ちゃんと友達にならなきゃ、絶対に知ることのなかった世界だよ。


「夕也兄ぃ、駅はどっちー?」

「ん? 右だ」

「右ー」


 何故か右も左も知らない麻美ちゃんが先頭を歩くので、道が分かれるたびに夕ちゃんに道を確認している。

 まあ、それに関しては誰も何も言わないけど。

 普段無邪気で元気一杯な麻美ちゃん。 でも、たまには大人なしくなり知的になったりする事がある。

 どっちが素でどっちが演技なんだろうか?


「おー、駅見えた」


 夕ちゃんに道案内させながら駅に到着した私達。

 今日は4駅先という事なので、いつもより高い切符を購入。


 11人もホームに上がると、かなり邪魔になるかな?


「夕也兄ぃ! 手繋ごー」

「ん? おー」

「あー! ずるいで麻美!」

「はぅ、抜け駆けだよぅ」

「早い者勝ちー」


 何故か私を差し置いて3人で夕ちゃんの奪い合いを始めてしまう。 もう見慣れた光景だけど、私を無視するっていうのはどうなんだろうか?

 まあ、私はあんまり争いたくない方だから、夕ちゃんを信じて傍観する事が多いのも一因ではあるんだけど。


「ホームでわちゃわちゃしてたら落ちるわよ?」

「こんなとこで落ちたら大勢の人に迷惑掛かりますわよー」

「ぐぬー」

「はぅー」

「あはは、だから早い者勝ちなんだよー」


 ここまでの展開を読んでの素早い行動だったのかな?

 麻美ちゃんなら十分あり得るよ。


 さて、電車がやって来たので乗車する。

 土曜日のお昼という事だけど、あまり乗客は居ないみたいだ。 11人で席に座る事が出来たよ。


「夕也兄ぃの隣ゲットー」


 と、またもや早い者勝ちで夕ちゃんの隣を確保する麻美ちゃん。 本当に夕ちゃんが好きなんだねぇ。

 それもそうか。 夕ちゃんへの恋心を誰よりも早く持っていたのは麻美ちゃんだ。 誰よりも長い間、夕ちゃんを好きで居続けているのだ。

 そこは早い者勝ちとはならなかったけどね。


「じゃ、こっちは私が取るよー」

「うわ、亜美姉だ。 うー、亜美姉には勝てないー」

「あはは」


 私も夕ちゃんの隣に陣取って座る。 夕ちゃんは困ったように笑っている。

 夕ちゃんも優しい男の子だから、私とお付き合いしていても他の女の子事を邪険にしたり出来ないんだよねぇ。 そういうところも私は好きなんだけど。


 そんな私達を乗せた電車は、軽快に走り続けるのであった。

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