第573話 共同生活

 ☆夕也視点☆


 大学入学共通テストも無事に終わった1月末。

 俺達受験生組と宏太は、奈央ちゃんの提案により約1ヶ月の間、奈央ちゃんの別荘で勉強合宿をしようという事になった。

 これまたとんでもない事を言い出したものだが、その提案に乗る皆もまたとんでもない。

 まあ、俺もその1人なわけだが。

 さて、奈央ちゃんの別荘なのだが、これまたかなりの広さをしている。

 各人に1部屋ずつ用意されているのはもはや当たり前の事であり、キッチンから浴室から何から何に至るまで頭がおかしくなりそうなぐらい広い。

 何でこんな物件をいくつも持っているんだろうか?

 謎だ。

 

 で、この別荘での生活は基本的には勉強が第一であり、休息日と定めた日以外は大体勉強がメインとなる。

 各々家事当番は決まっており、キッチン担当の亜美、紗希ちゃん、掃除担当の希望、奈々美、奈央ちゃん、洗濯担当が春人、遥ちゃん、買い出しは当番制だが、俺と宏太は荷物持ちとして毎回ついて行く。

 1日の流れとしては、午前中にそれぞれが担当の家事をこなす。 昼から夕方までは集中して勉強。 夕食後は各自自由で、勉強するも良し早めに寝るも良しだ。


 で、毎日勉強漬けだとストレスも溜まり効率も下がるという事で2日置きに休息日を設けている。

 その日は担当の家事を済ませた後は1日自由にして良い日としている。


 以上が共同生活中の流れになる。



 ◆◇◆◇◆◇



 共同生活が開始した翌日。

 どうやったのかは知らないが、亜美の飼っている海水魚が届いた。 飼育セットも一式一緒にである。

 それはさておき、共通テストの解答がネットで見られるという事なので、皆で採点をしてみる事になった。

 皆緊張しながら自己採点をしていく。


「私は受けた科目全部満点だったよ」

 亜美は相変わらずのようだ。 遥ちゃんの勉強を見ながらという化け物っぷりである。

 そして同じような化け物がもう1人。


「私も満点でしたわ」


 もちろん奈央ちゃんだ。

 このツートップは本当に揺らがないな。

 その他のメンツも自己採点の結果は上々。 各人が受験する予定の大学のボーダーは何とか上回れていそうだ。

 

「遥、数学は私より点取れてない? 何したの?」

「勉強だよ勉強」


 特に目を見張るのが遥ちゃんの成績だ。

 家に泊まり込んで、亜美に勉強を教えてもらった成果か、かなり良い成績だったようだ。

 本人もホッと一息、胸を撫で下ろしていた。


「という事で、今日からは本番に向けてそれぞれ勉強していくとしましょう!」

「おー!」

「俺は全く別の勉強だがなー」


 勉強合宿が始まったのである。

 と言っても、やる事は基本今まで通り皆で集まって勉強するだけ。

 違うとすれば、部屋の広さとテーブルの大きさぐらいだ。


「みゃー」


 1ヶ月家を離れる事になるので、当然マロンも一緒に連れて来ている。

 いきなり環境が変わって体調を崩したりしないか心配していたが、杞憂に終わったようだ。

 今もケージの中で元気にボールを転がして遊んでいる。

 ちなみにマロンは勉強中以外は亜美の部屋で放し飼いにするらしい。

 広い部屋だからなぁ。 奈央ちゃんも構わないと言っている。

 マロンも狭いケージの中はあまり好きじゃないらしいので、広い部屋で放し飼いはかなり喜んでいるみたいだ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇



 勉強タイムが終了。 夕方になると、料理当番である亜美と紗希ちゃんがキッチンに籠る。

 9名分の夕飯となると大変だろうという事で、奈央ちゃんも手伝いに行った。

 

「お前は手伝いに行かないのか?」


 俺が声を掛けたのは、ソファーに座りマロンを抱いて遊んでいる奈々美にだ。

 奈々美は、こちらを一瞥して。


「あまり人数がいても逆に邪魔になるのよ。 4人いてもやる事無いわよ」


 との事らしい。

 宏太は部屋に戻って休んでいるらしい。


「マロンー。 亜美ママと奈々美お姉さんどっちが好きー?」


 と、マロンに聞いている。

 

「んー、奈々美お姉さんー!」


 とか自分で回答している。 マロンの気持ちは完全に無視である。

 ただ、マロンは人懐っこい性格で誰にでも懐くから、遊んでくれる人間は皆好きなんだろう。

 何せ、今井家のリビングで遊ばせている時は、この俺にまで「遊べー」と寄って来るほどだ。

 俺も暇な時はテレビを見ながら片手間に遊んでやるからだろうな。


「お前は可愛いわねー。 このこのー」

「みゃうみゃう」

 

 奈々美はマロンと遊ぶのに夢中になっている。

 

「はぅ、奈々美ちゃんがマロンで遊んでる」


 希望は夕方から風呂に入ったのか、髪もしっとり濡れていて、トレードマークの大きな白リボンを外した状態で広間へやって来た。

 ふむ、可愛い奴め。


「みゃー! みゃー!」


 希望が部屋に入ってくると、マロンが奈々美の手から逃れようと体をクネクネさせる。

 どうやら、普段家でよく遊んでくれる希望に遊んでもらおうとしているようだ。

 

「こらこらマロン、私から易々と逃げられると思ったかしら?」

「みゃうー?! みゃうー!」


 俺にはマロンが助けを求めているように見える。

 ちょっと涙を流しているぞ。


「あはは、冗談よ冗談。 はい」


 奈々美も意地悪して満足したらしく、スッと手を離す。 解放されたマロンは一目散に希望の元へ走っていく。


「あまり意地悪するとマロンに嫌われるぞ」

「そ、そうかしら?」

「この子頭良いから、嫌なこととか覚えてるよぅ」

「マ、マロンー、私の事好き?」

「みゃう」


 どうやらあの程度の意地悪ぐらいは許容範囲のようだ。 中々寛大な心の持ち主だな。

 希望と奈々美に遊んで貰いながら、とても満足そうな顔をしている。

 ふむ、可愛い奴め。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 夕飯時──


「んぐ、そういえば紗希ちゃんは何日に京都に行くの?」


 と、思い出したように亜美が訊く。

 京都の大学を受験する紗希ちゃんは、受験をする為に京都へ行く。


「うむ。 受験の2日前には向こう行ってゆっくりしようかと。 24日かな」

「そかそか。 大体、皆その辺に皆固まってるみたいだね」

「遥だけちょっと早いのよね」

「おー。 19、20日だぜ」

「やけに余裕ね、遥」

「今回の共通テストで自信が付いたぜ。 これも亜美ちゃんのおかげだ」

「いやいや。 遥ちゃんが頑張ったからだよ」

「そうですわよ」


 俺の家に来てからも毎日頑張ってたからな。 自分で「一生分の勉強をした気がする」って言ってた程だ。

 それで今回の共通テストで結果が出たのだから、そりゃ自信も付くだろう。

 この勢いに乗って本番もクリアしてほしいものだ。


「宏太は?」

「んあ? 3月上旬だ」

「一番最後ね」

「んだな」

「ま、佐々木君はここダメでもまたすぐチャンスあるしいいじゃん」

「あのなぁ神崎ぃ……」

「きゃははは」


 賑やかな食卓で気が紛れる。 家で勉強漬けになってると、どうにも暗くなりがちだからな。 こうやって仲間内で明るく勉強していると、良い感じにリフレッシュ出来て良いものである。

 最初はとんでもない計画だと思ったものだが、存外この共同生活兼勉強合宿は正解なのかもしれない。

 奈央ちゃんに感謝だな。

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