第566話 エース
☆渚視点☆
春高バレー決勝戦も最終セットまでもつれ込む戦いとなった。
第4セット開始直後に麻美がガス欠でダウンし、ベンチへ下がりおったけど、その4セット目の間にベンチに座りながら寝るというとんでもない事をしてエネルギー充填をし、最終セットのコートに立っとる。
けど、正直助かる。 麻美の奴がコートにいるだけでブロックの安定感が跳ね上がりよる。
セット開始直後も相手のクイックを読んでドシャットしとったしな。
せやけど、都姫もただじゃ転けへんチームや。
最終セットに入っても、あちらさんの守護神とも言える新田さんの動きに衰えは見えへん。
私の全力のスパイクにも食いついて来よるし、マリアの左右の打ち分けにも、薫の揺さぶりにも対応しとる。
とんでもない選手やで。
新田さんと雪村先輩がワールドカップ代表入りしたら、日本の守りは堅牢になるやろな。
ま、今はその事は置いといてこの試合に勝つ事が先決や。
現在は最終セットはどんどん進んでて、10ー10の互角の展開。 今、新田さんがコートにおらん時間帯にも関わらず、点差を引き離す事が出来てへん。
「頼んだ渚!」
私にトスが上がる。 エースとして頼りにされとるってのが素直に嬉しいで。
「うおらー!」
大きく跳び上がり、大きく腕を振る。
空いたコースに最大威力のスパイクを打ち込む。
スパァン!
ピッ!
「よっしゃ! どないや!」
我ながらええスパイクやったで。 エースとして文句なしの一発やった。
「ナイスナイス! どんどん決めてよ!」
「任しとき!」
ローテーションしてサーブの準備をする。
「よっしゃ。 サーブも全力でいったる!」
助走を開始し、斜め上にボールをトス。 高く跳び上がって、力強くボールを叩く。
スパァン!
「ナイスサーブ!」
思い通りのコースとはいかんけど、威力は申し分ないで。
相手のエースアタッカーに拾わせる。
更にレシーブが乱れている。 最高の展開になっとる。
「友希、薫、こっち!」
裕美が的確にブロックの指示を出す。 相手のレシーブが乱れ二段トスになっている。
ブロックは当然3枚付ける。
私ら後衛はブロックが抜かれた時の為のフォローに回る。
「せーの!」
ブロック3枚が前衛で跳ぶ。 このブロック、抜くのは容易ないで。
トンッ……
相手は3枚ブロックに対してフェイントを使ってきた。
ブロックから逃げよったな。
「拾います」
声を出して冷静に拾うマリア。 しっかりと高めに上げて、友希がトスの準備をする時間を稼いでいる。
きっちりしてるで。
「っしゃ!」
私も気合いを入れて助走の準備をする。 後衛からのバックアタック。 お姉ちゃんも得意なやつや。
前衛では薫がセミオープン。 ええで、時間差や。
「はいっ!」
トスがライト方向に上がる。 セミオープンの薫の少し上。 薫は腕を振るも、ボールはスパイクしてはいない。 空振りや。
その空振りしたボールを叩くのは後衛から突っ込んでいく私や。
「うおお!」
パァンッ!
ピッ!
「っしゃ!」
連続ポイントや。 新田さんがコートにおらん今、一気に稼ぐで。
これで12ー10。 あと3点。
この後、更に1点を追加したあとで、1点を返されるも、まだ新田さんが戻ってけえへん間に更に1点追加して14ー12。 マッチポイントとした。
「後1点! 後1点!」
ベンチから後1点コールが流れ来る。
勝負も最終局面にやって来た。
「決めるー!」
「止めるー!」
ピッ!
「よしっ! 繋いだ!」
「ごめん!」
土壇場で都姫に粘られて14ー13となった。
まだリードしてマッチポイントやけど問題はそこやない。 問題なんは……。
「新田千沙」
このタイミングで帰ってくる新田千沙。
この最終局面であれから1点をもぎ取る必要がある。
「はは……ええで。 やっぱり最後はあんさんから点取らなあかんよなぁ」
さあ、勝負や。
「このプレーで決めるわよー!」
「どんとこーい!」
私はまだ後衛。 決めるんやったらバックアタックしかあらへん。 最後や、全力で跳んで全力打つで。
飛んでくるサーブを、珍しく麻美が拾う。
あまりレシーブは得意な方やないみたいやけど、ここでは上手く拾いよった。
「ナイス麻美!」
「頼むよー!」
麻美は体勢を崩しながら私達にゲキを飛ばす。
ああ、決めたる。
「頼むわよ!」
今度は友希がそう言って、ボールの落下点に入る。
任せぇや。
気合いを入れて助走に入る。 トスは私の直線上に上がっている。
左足で力強く踏み切り、空中でアタックラインを超えつて腕を振りかぶる。
「ブロック2枚! 上等や! ここ大で決めてこそエースや! うおあらあ!」
全力で腕を振り、ボールを叩き付けた。 ブロックを躱す為にクロスへ打ち込む。
それを読んだ新田さんが正面に入る。
「どやっ!」
パァンッ!
全力で打ったスパイクを新田さんが拾うが、ボールの威力を殺せなかったようで、高く高くボールが上がりこちらへ戻ってくる。
そのボールはネットを越えてこちらが側へ入ってくる。
「アウトよ!」
ボールの軌道を追えば、その先はラインの外側。
アウトだ。
ストン……
ピーッ!
「うおおお!」
試合が終了した瞬間に会場から歓声が上がる。
月ノ木学園夏春連覇。 全国大会6連覇の瞬間だ。
「よっしゃー!!」
「ナイス渚ー! このー! エースー!」
ぽかぽか……
優勝が決まった瞬間、コートメンバーが私の周りに集まり頭を叩き始める。
もちろん手加減はされとるけど。
「やめーや。 ほらほら、整列やで整列!」
試合終了後の整列タイム。 さすがに悔しそうな都姫女子メンバー。
私達はネットの下に手を伸ばす。
「ええ試合やった」
「いや、貴女達にはもうちょっとで勝てないね。 またやりましょ」
都姫のエースと握手を交わす。
本当にええ試合やった。 どっちが勝ってもおかしなかった。
次やったらどうなるか……。
夏も気が抜けへんな。
その後、表彰式と閉会式を終えて、私とマリア、麻美はベスト6にも選ばれた。
最強月ノ木健在を見せる事が出来てとりあえずホッとした。
◆◇◆◇◆◇
体育館を出てホテルへ戻るところで、偉そうに腕組みしながら立っている人影を見つけた。
暇なんやろか……。
「何やってんのお姉ちゃん?」
私の姉、月島弥生である。
「いや、決勝やろ? 暇やから観戦に来てたんや。 優勝おめでとさん」
いくら京都開催やからて、暇やから観に来たて……。
まあでも嬉しいわな。
「おおきに」
「成長したやん渚。 もうれっきとした月ノ木のエースやな。 今度、代表選抜合宿で会うのが楽しみやで」
「渚ー、先行ってるよー」
「あぁ、わかったー!」
他のメンバーは先にバスの方へ向かって行った。
私も急がなあかんな。
「代表選抜合宿は5月連休やね。 それまでにもっと成長しとくわ」
「お、言うやん。 ガッカリさせんといてやー?」
「度肝抜いたるわ。 ほな、皆待ってるさかい。 また5月に」
「おう。 亜美ちゃん達にもよろしゅうな」
私は手を上げて反応して、黙ってバスの方へ向かった。
5月にはあの化け物の見本市みたいなメンバーと練習するんか。
まだまだ成長せなあかんな。
こうして、私達新世代初の春高は幕を閉じた。
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