第565話 もう一度

 ☆渚視点☆


 麻美はここにきてガス欠。 代わりに2年生MBミドルブロッカーの倉持清美を投入して戦う事になった。

 麻美が稼いだ4点もあったけど、テクニカルタイムアウトを取る頃には1点差まで詰められてしもうた。

 ベンチへ戻り、ドカッと座る。


「すまん麻美。 あんさんが作ったリード無くなってもうた」


 と、麻美に声を掛けると……。


「すー……すー……」

「寝とる?! この状況で?!」


 鼻ちょうちんを膨らませなが寝息を立てていた。


「エネルギー充填するーって言ってすぐこれよ」


 裕美がそう教えてくれた。 いやいや、エネルギー充填って試合中やで。

 しかも4セット目。 仮に目が覚めて体力回復しても、出番無いかもしれんのに。 それに体も冷えてまうやろうしな。


「すー……」

「とりあえずはリードしてるけど、点差は1点。 正直かなりキツイけど何とか凌いでいきましょう」

「おー!」


 短いテクニカルタイムアウトを終えてコートへ戻る。

 麻美の奴、周りであんだけ大声出されても起きる気配あらへんやん。 ほんまに試合中に目覚ますんかいな。


「渚頼むー!」

「はいよっ!」


 麻美の事は今は置いとこ。 試合に集中や。

 あいつが目覚ました時、試合に負けてもうたなんて言うわけにはいかんからな。


 パァンッ!


 ピッ!


「っしゃ!」


 タイムアウト明けいきなりブレイクして流れを掴む。

 しかしその後が続かずに、途中でついに逆転を許してしまう。

 そうして迎えた4セット目2回目のテクニカルタイムアウト。

 再度ベンチへ戻ると、先程までベンチに座って鼻ちょうちんを膨らませていた麻美の姿がない。


「麻美は? 起きたん?」

「あー、はい! さっき起きたかと思ったらアップしてくるーって言って出ていきました」

「な、なな……」


 何て自由奔放な奴なんや……。 試合中に寝て、起きたらアップしにベンチから離れるて……。


「ま、まあまあ。 エネルギー充填は出来たって事でしょう。 これで最悪、最終セットに入っても麻美入れて勝負できるわ」

「このセットで終わりや。 5セット目はあらへん」


 麻美には悪いけど、もう出番はあらへんで。


「でも、麻美がいないと結構辛いのは事実よ。 何だかんだ言って、あの子のブロックにかなり頼ってたところあるみたいね」

「大丈夫や大丈夫。 あんなんおらんでも私がバンバンスパイク決めるがな。 行くでー!」


 と、調子良くコートへ戻りプレーを再開するも、あちらは新田さんが好レシーブを見せて勢いに乗り、その勢いを止めらへんという最悪の流れになり。


 ピッ!


「はぁ……はぁ……」


 スコアを確認すると、4セット目は18ー24と大きくリードされてセットポイントも取られている。


「く……」


 そして、反撃も虚しく4セット目を落とし、勝負は最終セット15点マッチにもつれこんだ。

 とりあえずベンチへ戻ると、ベンチには程良く汗をかいてニコニコしている麻美が座っていた。

 どうやらアップも済んで完全に温まってるみたいやな。


「……エネルギーはどないやの?」

「最終セット戦う分は充填出来たー! もう一度コートに立てるよー!」


 いつもの元気な麻美に戻っていた。

 しゃあないな。 どうやらこいつの力借りなあかんみたいやで。


「最終セット頭から出れるわね?」

「もちろんだー! やるぞー!」


 ほんま、ついさっきガス欠でダウンした奴とは思えへんわ。


「頼むで、麻美」

「任せたまへ!」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 ☆麻美視点☆


 私はエネルギー充填を終え、ウォームアップを済ませてベンチへ戻る。

 もう一度コートに立ちたいと思う反面、勝ってて欲しいとも思う。

 しかし、戻ってスコアを見てみると、大きくリードされてセットを落とすところだった。

 ベンチへ戻ってきた渚やゆきゆきが声を掛けてきた。

 最終セットに出れるかを訊かれたので、大丈夫である事を伝える。

 実は言うと、第4セット開始直後の記憶が曖昧で、気付いたらへたり込んでたんだよねー。

 話によるとゾーンとかいうのになってたらしい。

 よくわからんないけど、迷惑かけちゃったから最終セットでしっかり仕事するぞー。


「じゃあ行きましょう! 泣いても笑っても最終セット!」

「勝つぞ! おー!」


 円陣を組んで気合いを入れコートへ入る。

 やっぱりここが1番だー。


「藍沢さん、戻って来たんですね」

「もちろんさー! 私が戻って来たからには簡単には抜かせないよー!」


 新田さんと軽く会話を交わして、いざ最終セット開始だー。 サーブはあちらさんからー。


 パァンッ!


「オーライ!」


 もりもりが声を出して、ボールを拾う。

 ナイスレシーブだよー。


「ナイス!」


 すぐさまゆきゆきがボールの落下点へ移動して、トスの準備に入る。

 私達MBは、クイック攻撃の動作に入り、相手のブロックを撹乱するのも仕事である。

 なので、誰よりも最初に助走を開始。 1番近い場所であるゆきゆきの目の前へ向かい助走する。

 この位置のクイックを通常Aクイックと呼ぶ。


「ちょいさー!」


 ブロックを1枚釣るもトスはこちらには上がっていない。 お役御免だー。

 トスは私より少し後に助走し始めていたマリアの方へ上がった。

 左右の手で打ち分けられるようになったマリアの今回のスパイクは、どうやら左打ちみたいだー。


 パァンッ!


 ここまで何度も見せてきた所為か、ブロックも対応してきたが、マリアは自慢のテクニックでブロックの間を抜く技ありの1発を決める。


「よし!」


 渾身の一発だったらしく、声とガッツポーズが自然と出ている。


「ナイスキーマリア!」

「ありがとうございます!」


 ハイタッチしてローテーションする。 そのままサーブに入るマリア。


「決めていけマリアー!」

「はいっ!」


 パァンッ!


 マリアはここに来ても臆せずに、ジャンプサーブを強打する。

 亜美姉みたいに色々なサーブを打ち分けるけど、亜美姉みたいな針の穴に糸を通すようなコントロールまでは持っていない。 逆にそのブレが相手からしたらやり辛いものだ。


「オーライ!」


 でも関係ないと言った感じで、都姫の正セッター新田さんが軽くレシーブを上げた。

 やっぱり侮れないー。


「ナイスサーブや!」


 うんうん、サーブは良かったー。

 さて、ここは私の出番かな? 相手のコートをよく見て相手のアタッカーの動きを観察する。

 MBが早めに助走する。 こちらもセオリー通りだ。

 セッターの背後、割と近い位置でのクイックはCクイック。

 一瞬ちらっとSの視線を確認する、ボールに視線を集中していて、後ろの選手に意識は向いていないように見える。 けど臭うー。

 私は渚とまみまみにライトのブロックの指示を出して、自身は迷わずに左の方へ走りクイックに対しコミットブロックに跳ぶ。


 パァンッ!


「うぇーい! ドシャットー!」


 私のこの嗅覚にかかればこんなもんだよー。

 体力もまだ大丈夫そうだし、このセットだけなら走り回ってもいけそうだ。


「ナイス麻美! 相変わらず気持ち悪い読みの強さ!」

「なははー! バンバン落とすよー!」


 優勝目指してあと13点。 踏ん張るぞー!

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