第562話 2セット
☆亜美視点☆
今現在、京都で行われている春高バレーの試合を皆集まってテレビで観戦中。
「いけーマリアちゃんー」
ピッ!
今、マリアちゃんがスパイクを決めて第1セットを25-22で取ったところである。
どちらのチームも堅い守備を見せていた中盤戦だったけど、新田さんがコートにいない間に点を稼いで逃げ切ったっていう感じだ。 終盤はマリアちゃんがまさかの両打ちを披露して得点を重ねていた。
前から天才だ天才だと思ってたけど……。
「マリアちゃん、あんな切り札持ってたんだねぇ」
「あれ練習始めたの去年の夏からよ?」
と、お菓子をを齧りながら奈々ちゃんがそう言った。 どうやら奈々ちゃんは何か知っているみたいだ。
話を聞いてみると、夏の大会の後でアドバイスを求められた時にスイッチヒッターになってみたらどうかとアドバイスしたらしい。
「へー、あの子がねー」
「マリアはあれで素直な良い子ですわよ」
「そうだなー」
それは私も知ってるんだけど、どうも私にだけはツンッとしてるんだよねぇ。 ライバル心燃やしてるってのもわかるんだけど、もう少し仲良くしたいなぁ。
「にしても、マリアちゃん凄いねぇ」
「いやー。 廣瀬は良い動きしてますねー。 中学時代から凄い選手ではありましたが、ここに来てまた一段と成長しましたね」
「昨年までチームにいた清水と比べても遜色無いんじゃないでしょうか?」
「清水はもう世界的プレーヤーですから比べるのは難しいですが、1年時の清水となら比較しても遜色ないかと思いますよ」
と、また私と比較されているみたいだけど……。 今の私とは比較できないらしい。 だけど1年の頃の私と比べると負けてないって評価みたい。
夏から練習して左打ちまで習得するセンスはやっぱり凄いと思う。
「センスの塊だねぇ」
「あんたが言うか」
奈々ちゃんに呆れられてしまったよ。 私もそりゃ左打ちぐらいは余裕で出来るけどさぁ。
「ま、あの子はまだまだ成長途上って感じだし、2年後にはあんたを越えてるかもね」
「あはは、そうそう簡単に負けてあげる気は無いけどね」
「亜美ちゃんはまだ成長するつもりですの……?」
「本当に化け物ねー亜美ちゃんは」
「あはは……人間だよ!」
◆◇◆◇◆◇
☆麻美視点☆
第1セットを取ってまずは幸先良し。 マリアが隠し玉の両打ちをここに来て解禁し、得点に絡んでいる。
そもそもに置いて、日本人は右利きの割合の方が左利きに比べて圧倒的に多い。
そうなると当然、左打ちとの練習や対戦経験なんて数えるほどしかない。
私だって今までやって来て片手の指で数えるぐらいしか経験はないので、頭でわかってても慣れてる対右打ちポジションでブロックに跳んでしまうのはわかるけどねー。
「マリアイイ感じやな。 スイッチヒッター上手いこと行ってるやん」
「はい」
「本当に上手く行ってるわ。 左や右1本なら対応もしやすいでしょうけど両打ちともなるといちいち踏み切り見てから対応を迫られるし大変そうよねー」
「実際大変だと思うよー。 ブロックもそうだけど、新田さんも反応遅れてるっぽいしー」
ブロックに合わせて守備位置を変える性質上、どうしても一歩遅れるようだ。
とはいえ、あまり乱発していると慣れてこられてしまうしー。
「マリア、次のセットはまたしばらく左封印ね」
と、私と同じように考えたゆきゆきが、先にマリアに指示を出す。 マリアもその意図は理解しているようで素直に頷いて答えた。 優秀な1年生だよー。
「ということで、またしばらくは我慢の時間が続くけど、麻美、裕美、智恵、守りの方はお願いね」
「らじゃー!」
「で、攻撃はマリアに頼ってばかりじゃなくて、先輩の意地見せなさいよ薫に渚」
「う、わかっとる」
「合点!」
正直言ってここまでマリアの両打ちが得点源になっているわけで、2年生2人は新田さんの前では完全に沈黙している。
この試合に勝とうと思ったらマリアだけでは辛くなってくる。
ここはやっぱり2年生エースの渚と、まみまみにも頑張ってもらわないと。
「よし! 2セット目取って一気に優勢に持ってくわよー」
「月ノ木ーファイッ! オー!」
円陣を組んで士気を高め、第2セットのコートへと向かう。
両チームコートに出揃ったところで第2セットの開始。
「さーしまってこー」
「野球かて」
「はいはい、集中集中」
集中はちゃんとしているつもりだけどねー。 私はもともとこういう性格だからねー。 誰も信じてくれないんだよー。
パァンッ!
飛んできたサーブは大体もりもりが拾ってくれる。 この後はゆきゆきがトスを上げる流れ。
誰にトスを上げるのかは都度ゆきゆきが考えてくれる。
「ちょえー!」
私も声を上げながら助走するよ。 私は大体クイックで攻撃に参加する。
「麻美よろしくー」
「おーけ-!」
今回はそのトスが私に上がる。 私に託された以上は私も本気で決めに行く。
空中に跳びながら相手のコートをよく観察。
ブロック1枚、相変わらずストレ-トを閉めてきている。
新田さんの守備範囲に打たせれば拾ってくれるという絶対の信頼からだねー。
「てぃ!」
そういう事なら私は無理矢理にでもストレートに打ち込む。
「閉めが甘いー!」
ボール1個分隙間が空いているストレートにスパイクを通す。 ギリギリライン上に着弾。
「うわはははー!」
危うくアウトだったよー。
とはいえ。ゆきゆきの期待に応えてまず1本決められた。 ざっとこんなもんだよー。 亜美姉からも認められた
「あんさん、ほんま器用な選手やな」
「なははー」
「ナイス麻美。 何だかんだ頼りになるー」
「なははー! 私がエースだー」
「私や!」
だったらしっかり決めて欲しいものだけど、それを言ったら喧嘩になりそうだから無し。
私は「冗談ー」と返しながらローテーションする。
マリアのサーブで試合は続行。
マリアが後衛に下がるので攻撃力はちょっとダウン。 とはいえエースの渚がいるのでそこに期待するしかない。 まみまみもいるしねー。
「マリアナイスサー!」
「はっ!」
今回のサーブはフローターサーブ。 本当になんでも出来る、プチ亜美姉って感じだ。
ゆらゆらと飛んでいくマリアのフローターサーブだけど、新田さんは実に冷静に軌道を見極めてオーバーハンドで拾ってくる。
「来るよー」
ブロックの準備を始める。 相手コートの動きを注視して、前衛プレイヤーにブロックの指示を出すのがセンタープレーヤーのお仕事だ。
「渚、こっち! まみまみはセンター!」
「はいよー」
渚を呼んで2枚ブロックを形成する。 相手のトスはエースに上がってドンピシャ。
ブロック2枚で止めに行くよー。
「せーの!」
「はいっ!」
パァンッ!
「ワンチッ!」
渚の手に当たったボールは高々と上がり、コートの外へ大きく飛んでいってしまった。
ぬー、良いブロックだったけど相手も上手かったかー。
2セット目も始まったとこだし踏ん張って行こうー。
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