第563話 先輩の教え

 ☆麻美視点☆


 第2セットも進んで14-16。 2セット目はここでリードを許している。

 相変わらず新田さんの守備には苦戦をしているうちのアタッカー陣。 マリアは両打ちで上手く翻弄しつつ点を重ねているけど。


「くそ……全然決められへん。 なんやのあの子」

「本当に全然落とさないわね」

「ちょっとちょっとー2年生アタッカーしっかりしてよー」

「わ、わかってるっちゅ-ねん」


 さすがにここまで来ると渚も少々イラついてきているみたいだ。 ダメダメだこれー。

 どんな時もクールに行かないと、プレーが雑になるよー。

 ここは落ち着かせないとねー。


 ポカリッ!


「痛っ?! 何すんねん麻美!」

「冷静になれー! イラついてたら取れる点も取れないぞ!」

「う……」

「そうよ渚。 冷静に冷静に」

「わ、わかっとる……ふぅ……おおきにやで」


 私に頭を叩かれたところで少し落ち着いたようだ。 手のかかる友人だなー。


「先輩。 このセット、このまま私の両打ちで行きましょう」


 黙っていたマリアが珍しく自分から作戦を提案してきた。 今、新田さんから点を取れているのはマリアの両打ちだけだからねー。

 しかしその作戦はキャプテンが却下してしまった。


「ここでもちょっと使っちゃったけど、あんまり使って慣れられたら本当の勝負所で使いづらくなる。 ここは我慢しましょ。 大丈夫、先輩達に任せなさいって」

「そや。 やられっぱなしでは終わらんで」

「そゆこと」

「わかりました。 私も右のみで頑張ってみます」

「本当頼むよー。 私が止めるのだって限界あるからねー」

「いや、ほんまあんさんは頑張ってくれとる。 私は自分が情けないで」

「ここから取れば良いのよ。 さ、行くわよ」


 第2セット終盤に突入。

 このセットを取れればかなり有利になれるし、なんとか取りたい。

 ただし、マリアの両打ちを封印してだ。

 頼むよーエース。



 ☆渚視点☆


 ここまでエースらしい仕事が1つも出来てへん。

 ちょっとイラついてたけど、麻美のおかげで落ち着けたんは感謝や。

 さて、しかしどないしたらええんや。

 私達に対してはしっかりブロックを2枚以上つけて、スパイクのコースをきっちり絞ってきよる。

 空いたコースには当然新田さんがカバーに入っとるし、まさに鉄壁の布陣や。

 これをなんとか打開せな、月ノ木学園に勝ち目ないやろ。

 清水先輩やったら世界一の高さでブロックの上を上手く抜いていくんやろうな。

 藍沢先輩やったらあのパワーでブロックなんかブチ抜くんやろうな。

 神崎先輩やったら必殺スパイクで新田さんに拾わせずに決めはるんやろうな。

 私には世界一の高さも、ブロックをブチ抜くパワーも、必殺スパイクもあらへん。

 こんなエースじゃ、頼りないよな。


「渚いけー!」


 私にトスが上がる。


「渚はどちらかっていうと私に似たタイプよね」


 スパイクに跳んだ瞬間、藍沢先輩のそんな言葉を思い出した。

 藍沢先輩に似たタイプ……。


「でもパワーも大事だけど、コースに打ち分ける練習をしっかりなさいな。 それでどうしてもダメな相手がいるなら……その時は」

「コースを無視して振り抜け! うおおおー!」


 コースの打ち分けを考えずに、パワーに全振りしてスパイクを打ち抜く。


 スパァン!


 すると、ブロックの手をブチ抜き、ストレートに決まってくれた。


 ピッ!


「おー! ナイス渚ー! まるでうちのお姉ちゃんみたいなスパイクじゃーん!」

「何よー、そんなパワースパイクあるんなら最初からやりなさいよー」

「あーいや、色々あってなぁ」


 入部してすぐの頃は、今みたいにコースの打ち分けを考えずにただただパワーに任せて打ち抜くスタイルでやってた。

 せやけどそんな私のプレーを見た清水先輩や藍沢先輩が、コースの打ち分けを練習する様にアドバイスしてくれた。

 その頃から、コースの打ち分けを意識するようなったんやけど、その代わりにパワーを抑えてまう癖がついてもうてたんやな。

 そして今の私なら、パワーを最大限まで解放した上でコースの打ち分けが出来るんやないか?


「渚! もう1本!」


 もう一度私にトスが上がる。

 それに向かって跳び上がり、相手コートをしっかり見据える。 コースはクロスで新田さんの守備範囲。

 ええで、やったる!

 清水先輩と藍沢先輩がコースの打ち分けを教えてくれたんは、何もパワーに頼るなって事やなかったんや。

 打ち分けを身に付けた上で、パワーも全開で打てるようになれってこと。


「つまり、こうや!」


 スパァン!


 新田さんの守備範囲やけど、思いっきり打った1発。

 新田さんがダイビングからのワンハンドレシーブを試みる。


 パァンッ!


 ボールは新田さんの腕に当たるが、大きく後ろに飛んでいった。

 

 ピッ!


「っしゃ!」

「よ! エース!」

「イイじゃん! この調子で頼むわよ!」

「任せーや!」


 チームメンバーとハイタッチを交わす。

 おおきにです、清水先輩、藍沢先輩。 今、ようやく先輩方の教えが実ったみたいです。


「おし! ここからどんどんいくで!」

「おー!」


 第2セット終盤、この先は今までの試合展開とはガラリと変わって乱打戦になった。

 私が新田さんを躱して決めれば、相手も麻美のブロックを抜いてくる。

 しかし、最終盤でマリアが三度両打ちを解禁。

 際どい勝負を制して2セット連取する事に成功した。


「よーし! よし!」

「いけるよー!」

「やっぱりエースが決めると勢い乗るわね」

「このまま一気に勝つよー! 偉大な先輩達に負けないよーにー!」

「そやな。 やったろうやないか!」


 2セット連取した事で、完全に勢いに乗っている。

 このままストレートで決めて優勝するで。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆亜美視点☆


「いいね!」

「渚、ようやく私達の教えを理解したみたいね」


 私達テレビ観戦組も、後輩達の2セット連取に盛り上がっていた。

 苦戦していた渚ちゃんだけど、パワーを抑えずにコースの打ち分けるスパイクを完成させて得点を上げ始めた。

 新田さんも少しずつ対応し始めてはいるけど、そこにマリアちゃんの両打ちのスパイクでの揺さぶり。


「これが新しい月ノ木学園バレーボールのスタイルってとこですわね」

「きゃははは。 私達程の高火力ってわけじゃないけど、いいチームに仕上げたわねー」

「くぅー! 熱い試合だぜー!」

「うんうん。 あの新田さんを手玉に取れるなんて凄いよぅ」


 あと1セット取れば優勝である。

 皆なら大丈夫そうだ。

 私達の後輩はやっぱり凄い子達だよ。


「皆が頑張ってると、俺達も受験頑張ろうって気になるよな」

「そだねぇ」


 夕ちゃんの言うように、皆が頑張っている姿は私達にも力を与えてくれている。

 私達もこんな風に、誰かの力になれていたんだろうか。


「もうすぐ3セット目始まるね」

「頑張んなさいよ皆」



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆麻美視点☆


「次のセットも取って優勝決めるわよー! 月ノ木ー!」

「ファイッ! オー!」


 私達はこのセットで勝負を決める為に気合いを入れる。

 先輩達見ててね。 私達新しいバレーボール部の姿を。

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