第559話 頂上決戦
☆麻美視点☆
春高も今日が最終日。
要注意だと思われた1年生だらけの横浜女子も、思った程の化け物だらけではなくストレートで勝ち、その後も危なげなく勝ち進んできている。
何だかんだ言って、これから決勝戦である。 明日からは学校も始まるが、私達バレー部は公休となっているため、帰るのは明日になる。
優勝して帰りたいねー。
「決勝まで来たねー」
「言っても、私達は対戦相手に強豪がいなかったし運が良かったわよ」
「友希、そないな事あらへんで」
「そうです、実力です」
たしかに対戦相手には恵まれていたけど、それでも全試合ストレートで勝ち上がってきている。
実力だって間違いなくあるよー。
「でも今日の相手はあの立華を倒した都姫よ?」
「弱気になってどうすんねん。 あの化け物みたいな宮下先輩はもうおらんのや、去年の夏より相手も戦力ダウンしとるわ」
「そーそー。 たしかに新田さんは怖いけど、攻撃力にはならないからねー」
「相手が大会No1リベロだろうと、私はスパイクを決めるだけですから」
「そ、そうね。 キャプテンの私が弱気になってちゃダメよね。 よし! 勝つわよ!」
「おー!」
夏から今日までこのチームを引っ張ってきたのは、間違いなくキャプテンのゆきゆきだ。
亜美姉や私のお姉ちゃんが選んだキャプテン。
プレッシャーは大きいだろうけど、キャプテンとしてもプレーヤーとしても優秀な人だ。 自信を持ってほしい。
◆◇◆◇◆◇
両校アップを済ませてベンチで最後の作戦会議。
相手は何度も対戦してきた都姫女子。
去年より火力は落ちたものの、
総合力も高い、今大会屈指の強豪だ。
火力で言えばこっちもかなり落ちてはいる。
まず西條先輩の正確無比なトスが無い為、同時高速が使えない。 更に亜美姉、希望姉、神崎先輩、お姉ちゃん、蒼井先輩と言った化け物は皆引退している。
大変な試合になりそうだー。
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
「始まるねぇ、決勝戦」
「何か見る側だとドキドキするわね」
「コートに立ちたいー!」
私達受験生組は、勉強タイムを一旦中断して春高の決勝を観戦する事にした。
月ノ木と都姫女子は去年の夏大会等で幾度となく頂上決戦を繰り広げたチーム同士。
私達が居なくなって、新世代での初対決だ。
「しかし、都姫は立華倒して上がってきたのね。 これは強いわよ」
「今年の立華も強かったんだけどな」
と、遥ちゃん。 情報通の遥ちゃんは引退しても色々なチームの情報を調べているらしい。
「立華はバランスが良くて高水準なチームに仕上がってたけど、月島、キャミィが抜けた結果、尖った部分が無くなったのが響いたみたいだよ。 やっぱりあの火力が無くなったのはかなり痛かったんだろう」
「あれは凄かったもんね。 私もレシーブ大変だったし」
「でも、火力が下がったってんなら宮下さんが抜けた都姫女子にも言えるわよ?」
「都姫には新田さんが残ってるからね。 やっぱりああいう尖った選手がいると強いよ」
話によると、今大会No1リベロにも挙がっているようだ。 希望ちゃんも一目置くスーパーリベロである。
「新田さん、最近は守備範囲広げる為に瞬発力鍛えてるって言ってたよぅ」
新田さんと連絡を取り合っているらしい希望ちゃん。
そんなやり取りしてるんだねぇ。
「尖った選手って言えば月ノ木には麻美がいるわね」
「あれは尖ってるのか何なのかわからないですわよ……」
「自由奔放だもんね、あの子。 ブロックは上手いし駆け引きも上手いけど、なんか独特なのよね」
「正統派で上手いのはどっちかと言うと黒木ちゃんだよね」
あの子もかなり伸びた選手である。
宮下さんにボコボコにされたりしたけど、その悔しさをバネに強くなったブロッカーだよ。
「何だかんだマリアも渚も火力高いし、私達程じゃないにしてもかなり尖った選手が集まってるわね、新世代」
「そだね」
「始まりますわよ」
◆◇◆◇◆◇
☆麻美視点☆
ピッ!
試合開始の笛が鳴った。
サーブは都姫女子の
彼女は身長が高く、強烈なジャンプサーブが打てる選手だ。
もりもり頼むよー。
あ、もりもりはうちのLの森島さんだよー。
パァン!
「森島さん!」
「はいよっ!」
かなりの威力のサーブだったけど、もりもりは上手くレシーブを上げた。
これも、化け物みたいな先輩達のサーブで鍛えられたからだねー。
「ナイス智恵!」
キャプテンゆきゆきがセットアップする。
私はゆきゆきの正面に入り、誰よりも先に助走に入る。
「よし、まずはエース!」
と、残念ながらトスは私じゃなくて渚の方へ。
渚がボールに向かって跳び上がり、腕を振る。
「うらぁっ!」
スパァンッ!
渚のスパイクはブロックを突き抜ける。
しかし、それに即座に反応してコースへ入っていく影が1つ。
新田さんだ。
「てぇい!」
何とかボールに追いついてワンハンドレシーブを試みる。
が、渚のパワースパイクをワンハンドで上げるのは相当難しいはずだ。
案の定、威力を殺しきれずにボールを後逸する。
ピッ!
「っしゃ! まずは先制や!」
「つぅー! 凄いスパイク……。 さすがは月ノ木の新エースですね」
「今のはコースが良かっただけや。 真正面やったら拾われてたわ。 てか、今の私のスパイクがどんなもんか計ったやろ?」
「あ、バレてました? ここからは簡単には行きませんよ」
渚と新田さんがネット越しに短い会話を交わす。
何だかんだ言っても渚が新田さん相手に得点出来たのは大きい。
コースさえ上手く打ち分ければ新田さん相手にも決められるようだ。
って言っても、大会No1リベロと呼ばれる程の選手。 簡単ではないはずだ。
こっちはこっちでブロックで出来るだけ失点を減らさないとねー。
「よーし、マリアー! ナイスサーブ!」
ローテーションしてマリアのサーブ。
1年生ながらも堂々としたプレーで、チームの得点を量産しているライトプレーヤー。
まさにセンスの塊といった感じで、かなり注目されている。
サーブは何種類か持っており、状況に応じて打ち分ける。
今回はジャンプサーブを選択。 威力も十分なサーブだけど、これはあっさりと新田さんが拾ってみせる。
さすがの安定感だー。
希望姉と比べても遜色無いレベルだ。
「来るよ渚ー! ライトに2枚!」
渚にブロックの指示を出してネット際へ詰める。
美智香姉でさえなければ、十分に止められる可能性はある。
「せーの!」
ブロックのポジションはドンピシャ。
ジャンプのタイミングもバッチリ。 落とすよー!
パァンッ!
相手スパイカーのスパイクに合わせて掌を下に向けてボールの軌道を下向きに変える。
ピッ!
「よしー! 1ブロックー!」
完璧なブロックを決めて早くも1ブレイクを取る。
出だし好調! やっぱり今まで化け物ばかり相手してきたから、人間レベルの相手との試合は幾分楽だ。
相手チームにいる化け物はあの新田さんのみ。
防御は硬いけど、火力がそこまで高くないからラリー勝負になっていきそうだ。
まだまだ序盤も序盤。 あまり調子に乗らないようにしよう。
相手は強豪を倒して決勝まで上がってくるだけの力を持っているんだから、心してかからないとねー。
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