第560話 最強の盾
☆麻美視点☆
決勝戦の最序盤。 まずはエース渚が一発決めて1点。 更に私のブロックポイントで2点目を追加し、絶好のスタートダッシュを切れた。
しかししかし! 相手はあの新田千沙擁する都姫女子。
亜美姉や神崎先輩、お姉ちゃんならまだしも、渚、マリア、まみまみ……あ、真宮ちゃんは先輩に比べるとやっぱり少し落ちる為、そう易々とスパイクを決められないかもしれない。
だからこそ、ブロッカーの私も相手のスパイクを止めていかないといけない。
この試合。 両守備力の勝負になりそうだよー。
「さー、マリアもう一本や!」
「はい」
マリアがサーブ位置に戻り、ボールを2、3度地面に突く。
マリアが次に選んだサーブはドライブサーブ。
落差だけ見れば西條先輩のドライブサーブには敵わないけど、スピードはマリアのサーブの方がある。
ハイスピードなボールが急に落ちるのは結構反応し辛いものだ。
しかししかし! それをあっさりと見切って拾ってくるのが都姫の新田というプレーヤーだ。
去年のインターハイでマリアとも対戦経験があるのが大きいんだろうねー。
続く都姫女子の攻撃は止められず2ー1となってしまう。
「ごめん、拾えなかった」
「あははは! 私もブロック素通しだったし気にするなー」
「そやそや、麻美が悪いんや」
「ぶー! 私も悪くないー!」
「はいはい! 集中集中!」
私と渚のいつものやり取りに、冷静に割って入るキャプテンゆきゆき。
もう慣れたものだ。
さて、お相手さんのサーブは
彼女は今大会からレギュラー入りしたプレーヤーだねー。 フローターサーブの使い手である。
フローターサーブは軌道がわかりにくいので、拾うのが難しいサーブだ。
希望姉は上手かったけどー。
もりもりは、そんな希望姉や亜美姉からフローターを拾う特訓を受けていた。
フローターを拾うのは結構自信があると言っているもりもり、その言葉通りにしっかりと拾う。
「上手い!」
そうなれば私も攻撃に参加するぞー。
今度はゆきゆきの背中側、離れた位置でのクイック、通称Dクイックだ。
「ほいっ!」
「来た来たー!」
ブロック1枚、きっちり付けてきたけど。
「ちょいさー!」
私に合わされたトスをスパイクする。
勿論、闇雲に打つわけじゃなく、ブロックを交わしつつ新田さんの守備範囲外に落とすように打つよー。
この辺の視野の広さや打ち分けの上手さを、亜美姉は評価してくれていた。
「たぁっ!」
「およ?」
新田さんがダイビングレシーブを試みるも、少し間に合わずに、指でボールを弾くような形になってしまいコート外へ。
触れないだろう位置に打ったつもりだったんだけどなー。
「ナイス麻美!」
「やるやん」
「うん。 ねー、新田さんの守備範囲、夏より広くなってるから注意ねー」
「今の触ってたものね」
「レベルアップしてるのはあっちも同じいう事やな」
「誰が相手でも関係ありません。 全て決めるつもりでスパイクするまでです」
「なははー! 心強いねー」
軽く情報交換を終えてローテーションする。
次は私がサーバーだー。
私が後衛になるタイミングで、もりもりがくろくろこと黒木ちゃんと交替。 もう1人のブロッカーだよー。
くろくろは私みたいな嗅覚でプレーするタイプじゃなくて、ちゃんと状況に応じて最適な指示を飛ばす理論派ブロッカーだ。
「裕美、頼むわね」
「任せて」
以前は宮下さんにボコボコにやられていたけど、あれから成長したし、相手に宮下さんはいないしでかなり余裕があるみたい。
「麻美ー入れてこー」
「おー!」
というわけで私のサーブだ。 私は普通のジャンプサーブを選択。 それをしっかり決めていくよ。
私から始まったこのラリーは、くろくろがブロックで止めるも、フォローに入っていた新田さんがそれを拾い、続く攻撃を決められてしまう。
しかし、これでしばらくは新田さんがコートから離れるローテーションだ。
点取りまくるぞー。
◆◇◆◇◆◇
あれから点のやり取りを続け、16ー14でリードして2回目のテクニカルタイムアウトに入る。
やはりというか、都姫女子は美智香姉を始め3年生が居なくなって火力がかなり落ちたみたいだ。
私やくろくろのブロックが上手く機能している。
ここに来て経験値の差が如実に現れ始めたみたいだよー。
私達月ノ木学園の現レギュラーは、前キャプテンの亜美姉の方針によって早い時期から大舞台で場数を踏ませてもらっている。
その効果が今まさに出ているのだ。
さすが亜美姉。 思惑通りだよー。
「良い感じ良い感じ! このままセット取って勢いに乗るよ!」
「おう! バンバントス上げてや!」
「私もまだ暴れ足りないですから」
「おーおー、うちのアタッカー陣は血気盛んね」
「でも、さすがに新田さん凄いねー」
リードはしているものの、この点は新田さんがコートに居ない間に稼いだものだ。
むしろ、6点差あったものが新田さんがコートに戻ってきただけでここまで縮んだ。
新田さんがコートに入るだけで、こっちの得点力も半減というわけだー。
間違いなく最強の盾だよー。
「ほんま、よう拾いよるで。 私達アタッカーからしたら嫌な選手やで」
「雪村先輩を相手にスパイク打ってるみたいですね」
やっぱり評価が高いみたいだ。
たしかに、希望姉並の守備力だ。
「ま、うちには最強の壁がいるけどね」
と、ゆきゆきがこちらを向いて「頼むよー」と話しかける。
私は後ろを振り返るも、誰もいない。 誰に言ってるんだろー?
「こらこら麻美。 あなたあなた」
「ほぇ? 私、最強の壁なのー?」
「新聞読まへんのか? あんさん、今大会No.1MBの扱いなんやで? 今日の朝刊かて私達OHそっちのけで最強の壁VS最強の盾!! とかでかでかと書かれてたんやけど」
「ありゃー、そうなんだー? 私番組表と宝くじの当選番号しかみないからなー」
私がそんなに高く評価されてるとは知らなかったよー。
「さ、まずは第1セット取りに行くわよ」
「うぇーい!」
私達は立ち上がりコートへ戻る。
現在都姫女子のコートには新田さんがいる。
ただ、あと1ローテすれば新田さんはコートを一旦出るのでそこが勝負……。
「あんさん、今失礼な事考えてへんか?」
「ぬへ? 別にー? 新田さんが次のローテでいなくなるからそこが勝負だなーって考えてただけー」
「それが失礼やっちゅうねん。 マリアも薫もそう思うやろ?」
「うむ」
「ですね」
OH達がご立腹のご様子だ。 どうやら、OHを信用していないと思われたようだ。
勿論、そんな風に思ってるわけじゃないけど、新田さんがコートにいる間はこちらの得点力が落ちるのは事実だし。
でもまあー、渚達が決めてくれれば言う事は無いけど。
「ごめんー。 そんなつもりじゃなかったんだよー。 期待してるよ」
「当たり前や! 決めたるわ!」
渚はやる気のようだ。 さて、サーブはゆきゆき。
第1セット終盤戦開始だ。
まずはここを取って勢いに乗るよー。
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