第554話 合格祈願

 ☆亜美視点☆


 明けて新年となり、お泊まり会に来ているメンバーには挨拶も済ませた。

 テレビはカウントダウンから新年あけましておめでとう番組に切り替わっている。

 希望ちゃんは、座りながら器用に寝ている。

 早いねぇ。


「希望、布団敷いて寝なさい」

「すー……」

「ダメだよ奈々ちゃん。 希望ちゃんはそうなったら自分が起きようと思うまで起きないから」

「どんな神経してんのよ……」


 希望ちゃんも何だかんだ言って変人の部類に属しているのである。


「しゃあない。 布団敷いてやるか」


 夕ちゃんが立ち上がり、布団を取りに和室へと向かった。

 数秒程で、布団を抱えた夕ちゃんが戻ってきて、ササッと布団を敷き終える。


「夕也、布団敷けたんですね?」


 一部始終を黙って見ていた春くんが、意外そうな顔をしてそう言った。


「あのな、これぐらい誰でも出来るわ。 春人は俺を何だと思ってるんだ」

「家事ダメ男だと思ってますが」

「あはははは! 夕也兄ぃ、バカにされてる! あははは! 初笑いだー! あははは!」


 それを聞いた麻美ちゃんは大爆笑。

 まさか布団も敷けないほど家事ダメ男だと思われていたとはね。


「さすがの今井君もそこまで酷いわけありませんわよね」

「当たり前だ」

「最近は洗濯物を畳めるようになったのよね?」

「そうだぞ。 どうだ、参ったか? ん?」


 何故か威張る夕ちゃん。 そんなことより早く希望ちゃんを布団で寝かせてあげたらどうかと思う。


「それこそ誰でも出来るような気がしますが」

「あははは! 夕也兄ぃ、まだそこ? もっと精進したまへよー!」


 夕ちゃんはひたすらにバカにされていた。

 いつもなら宏ちゃんの役割なんだけど、今はこの場にいないもんねぇ。


「そう言う春人はどうなんだよ? お前は家事なんか出来るのかよ?」

「僕は屋敷の方が全部やってくれますから」

「ずりぃぞ春人……なぁ、亜美、希望! これから全部頼むわ」


 夕ちゃんは私達を使用人か何かだと思ってるみたいだ。

 もちろんそんな無茶苦茶な話は無視である。


「何バカ言ってるのよ。 ちゃんと家事覚えてよ? 将来は家事を分担するんだから」

「お? 何よ、もう結婚生活の事考えてんのね」

「ん? 別にそういうつもりじゃないけど。 まだ結婚するかとか決めてないし」

「結婚しないのー? じゃあ私が夕也兄ぃと結婚するー!」


 私が夕ちゃんとの結婚を考えていないと言うと、すかさず麻美ちゃんが夕ちゃんに結婚すると騒ぎ出す。


「べ、別に結婚しないとも言ってないけど……まだ考えてないだけだよ。 するかもしれないししないかもしれないって感じ」

「何だかわかんないー。 好きなら結婚したいでしょー?」

「ま、亜美ちゃんには亜美ちゃんの考えがあるんでしょ」

「まあそんなとこかな」


 たしかに愛する人との結婚っていうのは幸せの形の1つかもしれない。

 でもそれだけが幸せになる方法じゃないとも思っている。

 今だって、一緒にいられて幸せだしね。

 

「ま、それはそれとして、そろそろ私達も寝ましょうよ。 明日初詣行くんだし」

「そうですわねぇ。 布団敷いて寝ちゃいますか」

「んじゃ俺らはリビング行くか」

「ですね」


 男子と女子に分かれ寝泊まり。

 新年初お泊まり会である。 朝には初詣へ行くので、早めに起きないといけないね。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌朝───


 新年1日目は少し寒いけど天気は良く、気持ちの良い1年の始まりだ。

 朝は皆でお雑煮を食べるよ。


「なんですのこれ?」

「何って雑煮だぞ?」

「お餅しか入ってませんわよ?」

「奈央ちゃん……今井家のお雑煮はね、白味噌とお餅だけなんだよ」

「嘘でしょ……これじゃ雑煮じゃなくて単煮じゃない? 色々な具を混ぜて煮るから雑煮なんじゃないの?」

「わかってないな? シンプルイズベスト。 餅と白味噌の味を楽しむのが通な食べ方なんだ」

「夕也の家って何でも手を抜くわよね」

「なははー。 餅食うー! んむんむ。 伸びるー」


 私や希望ちゃんはもう慣れたけど、やっぱりこのお雑煮はおかしいよねぇ。

 

「まあ、食べられるなら良いけども。 んむ、あら美味しい」


 まあ、白味噌にお餅浮かべるだけだから不味くなりようがないけども。

 

 のんびりとお雑煮を食した後は、皆で初詣へと出かけるよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 毎年恒例の神社へとやって来た私達は、お泊まり組ではなかった紗希ちゃん達と合流。

 鳥居の前で新年の挨拶を交わす。


「あけおめー」

「ことよろ」

「あけましておめでとうございます」


 紗希ちゃんと遥ちゃんは軽いノリの挨拶だね。

 らしいと言えばらしい。

 渚ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃんの柏原君の4人は駅前で待ち合わせて来たらしい。

 私達は途中で宏ちゃんと合流して神社まで来た。

 皆集合したので、4人ずつに分かれて列に並ぶ。


「宏太は何祈願するんだよ?」

「そりゃ健康だろ」


 宏ちゃんは結構普通だった。

 って言っても私だって大学合格を願うんだけど。

 多分、皆同じだと思われる。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 皆で願掛けを終わらせて広い場所に移動する。

 12人いるとさすがに邪魔だからね。

 

「今年もおみくじ引くぞー!」

「おー!」


 紗希ちゃん、麻美ちゃんがスタタッと走って行く。

 私は今年も引かない。

 見たって何も変わらないだろうし。


「渚ちゃんはこの後実家に帰るの?」

「はい。 今年の春高は京都なんでちょうどええですわ」


 うちのバレー部は私達が引退した後も頑張っているらしく、渚ちゃんをエースに大活躍し、今年も春高への出場を決めている。

 私達が引退してチーム力が大幅にダウンしているだろうという評価をされてはいるが、それを覆してほしいものだ。


「頑張ってね」

「はい。 先輩方も共通テスト頑張ってください」

「うん」


 皆それぞれ頑張る事を頑張るだけである。

 受験生もそうでない人も。


「よし、合格祈願の為に学業成就のお守り買ってこよ」

「あら、良いわね。 絵馬も書きましょう」

「良いねぇ」

「じゃあ、紗希と麻美が戻って来たら皆で行きましょう」

「うんうん」


 普段はお守りなんて特に買ったりしないけど、今年は特別だね。

 何せ難関大学受けるんだから、これぐらいはやっておいても良いはず。


「あはははー! 中吉だったー! 勝負運良好、恋愛運は分からず? なははー、分からないかー」


 元気に戻ってきた麻美ちゃんは中吉。

 紗希ちゃんは大吉を引いたらしい。 どっちも中々良好な運勢なようだよ。


「2人とも、これからお守り買いに行くわよ」

「お守りー! 商売繁盛ー」

「必勝祈願じゃないんだ……」

「麻美ちゃん何考えてるかわかんねぇな」


 それは多分皆そうだと思う。

 麻美ちゃんの思考は誰にも読めないのである。


 皆とお守りを買い、絵馬に合格祈願を書く。


「よし! 合格間違い無しだねぇ!」

「こんなんで合格出来るなら楽なんだけど」


 と、苦笑いの奈々ちゃん。

 もちろん、願掛けをするぐらいで受かるなら苦労は無い。 でもここにいる皆は、日々勉強会をしたりして努力をしている。

 その上での願掛けだもん、絶対成就するよ。


「ささー! 追い込みの時期だし頑張るよ!」

「おー!」

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