第555話 受け継いだもの
☆麻美視点☆
お正月三ヶ日も過ぎ、明日からは春高バレーが開幕する。
開催地は京都。 去年、修学旅行に来て以来の京都だ。 遊んでる余裕は無いけどねー。
私達は京都のホテルでミーティング中。
初戦の対戦相手は鹿児島だったかな? 初出場校らしいけど、世代が変わってから初出場って事は、新入生に強いのがいるって事かもしれないし油断は出来ない。
「明日の鹿児島商業だけど、センターに長身の1年生が入ってるわよ。 攻撃もどんどん参加してくるタイプの
キャプテンおがおがの下調べでは、その選手さえ上手く抑えられれば勝てる相手だと言う。
「スタメンは冴木めぐみ、藍沢麻美、月島渚、廣瀬マリア、真宮薫、森島智恵、
「はい」
「あるぇ? おがおがは?」
「麻美、その呼び方何とかならないかな? 小川ちゃんでも有希でもキャプテンでも良いから……」
「おがおが」
「友希、これに何言うても無駄やよ」
「はあ、そうね。 私は初戦は出ないかな。 先輩からの教えはしっかり守っていく」
「後輩育成に注力する、やね」
「なるほどー! 合点!」
それは亜美姉が築いた月ノ木バレー部の形。
後輩の育成に力を注ぎ、次世代に繋ぐ。
そのおかげで今の私達がある。 私や渚は1年の時から全国を戦わせてもらったから、凄く自信がついたしレベルアップも出来た。
「じゃあ、まずはこのメンバーで予選突破するよー!」
「おー!」
おがおがキャプテン体制による新生月ノ木バレーボール部初の全国大会。 頑張るぞー!
「渚ー! 風呂イクゾー!」
「ち、ちょっと待ちぃや?! おいー?!」
渚の静止の言葉を無視してその手を掴み、一度部屋に戻る。
入浴セットと着替えのパジャマを手に持って、渚を引っ張りながら浴場へ向かうー。
「ちょっと落ち着きやー!」
「あはははー」
◆◇◆◇◆◇
かぽーん……
「あんさんはもうちょい落ち着いて行動でけんのか?」
「失礼なー! 私はいつでも落ち着いてるよー!」
「嘘つくなや……落ち着いてる言うんはあーいうやつや」
と、渚が少し奥の方に座って浸かっているおがおがとマリアの姿があった。
「ふぅ……」
「極楽です……」
「あれはもう年寄り臭いって言うんだよー?」
「誰が年寄り臭いか……」
ザバーン!
私の言葉に怒ったおがおがが、お湯ぶっかけてきた。
やっぱり落ち着きなんかないじゃないかー。
「麻美ー、年寄り臭いはないでしょ年寄り臭いはー」
「渚、あれのどこに落ち着きがあるのさー?」
「あんたの所為やないか……」
「ぽけー……」
マリアだけは特に気にした様子もなく、私達のやり取りを眺めていた。
1年生が1番落ち着いていたというオチかー。
「にしても、先輩無しで全国かぁ。 どこまで行けるか」
「何を言うてるんや友希。 んなもん決まってるやん」
「そだそだー」
「優勝です……」
お姉ちゃん達はたしかに凄かったし、私達じゃとてもじゃないけどあの6人には届かないけど、そんな先輩達から信頼されてバレー部を託されたんだから、みっともないとこは見せられないよー。
「そうね。 そうよね。 弱気はダメよね。 偉大な先輩から受け継いだ月ノ木魂見せてやろうじゃない!」
キャプテンおがおがも弱気を払拭してやる気になったようだよー。
「それに、こんなところで負けていたら、世界に羽ばたこうとしている清水先輩に追いつけません」
「私もお姉ちゃんに追い付かなな」
「渚と私はワールドカップの選手選考に選ばれてるよー? ここでアピってこー」
「せやな!」
「私こそ最強だと認めさせます」
「野心家多いなぁ、うちのバレー部」
私は野心とかないけどねー。
◆◇◆◇◆◇
お風呂から出て来て、後は寝るだけであるが、部屋では渚とおがおがが翌日の作戦会議をしていた。
「やっぱり長身の1年生MBってのがどんなもんかやな」
「うーん。 高1で190以上の上背はちょっとやばいね。 映像見たけど県大会レベルじゃ手が付けられないって感じだったかな」
「渚頼むよー? ちゃんとブロック抜いてねー」
「他人事みたいに良いよってからに。 あんさんもしっかりブロック決めや」
「当たり前だよー」
私は守り寄りのMBである。 中にはバリバリ攻撃に参加するMBも結構いる。
別に攻撃が苦手って事はないんだよー?
亜美姉にも
私もMBがベスポジだと思ってるから攻撃の方は他のメンバーに任せる。
もちろん、MBの仕事としてクイックには参加するけどさー。
「実際やってみないと何とも言えないけど、攻撃力だけなら去年の宮下先輩や渚のお姉さんには及ばないでしょ」
「あの2人は本物の化け物だからねー。 比較しちゃ可哀想だよー」
とはいえ、あの2人よりも攻撃力が低いなら止められない事は無い。
私とくろちゃん──黒木ちゃんね?
くろちゃんとのダブルブロックで何とか止めまくるぞー。
「攻撃は私とマリア、薫で抜いたる。 それに長身MB1人って事は、後ろに下がってる時は打ち放題やろ? 余裕やで」
「まあ、初戦で負けるわけにはって感じよね」
「んだー! 都姫や立華と当たるまでは負けてらんないよー」
やっぱりその2校は今年も強いらしい。
ただ、やっぱりというか夏以前よりは評価を落としている。
化け物だった先輩達が抜けた穴っていうのは大きいと見られているみたいだ。
その中でも、一気に6人の化け物が抜けた私達の評価はBランクまで落ちている。
「まあ頑張ろー。 ささ、寝よう寝よう。 明日は開会式からの速攻で試合だよー」
「せやね。 しっかりと睡眠を取って最高の状態臨もうやないか」
「そうね。 おやすみ」
◆◇◆◇◆◇
翌日──
総合体育館に集められた私達選手。 開会式が行われている。 キャプテンであるおがおがが優勝旗を返上する。 もう一度私達が持って帰るよー。
選手宣誓も行われて、簡単なスケジュールを聞いた後で解散。
私達はこのままこの体育館で予選があるので控え室へ移動して試合の準備を進める。
「よし、まず初戦! 勝つよ!」
「しゃーいっ!」
「へぇ、気合い入っとるやん」
「うぇっ?!」
扉の方に目を向けると、何故か渚のお姉さんが腕を組んで壁にもたれて立っていた。
な、何しに来たんだろー?
「ちょっと様子見に来ただけや」
「お姉ちゃんやないの?! 何でや?」
「妹がおるんやから別に普通やろ。 まあ、このあとは立華の方にも顔出すんやけどな。 ま、頑張りや」
と、言うだけ言って手を振って去っていった。
「な、何だかよく分からないけど、行こうかー」
「そうね……」
私達はちょっと困惑したものの落ち着きを取り戻して、コートへと移動した。
ベンチに座り対戦相手の方を見てみると、凄く大きいのがいるよー。
蒼井先輩よりでかーい。
「でかいなあ、奴さん」
「そうね」
「大きいだけじゃないですか」
マリアは辛辣だなー。 でも、見た目に押されちゃダメだよねー。
「よしー! 先輩達から受け継いだもの見せてやろー!」
「おー!」
先輩抜きの全国大会がついに始まった。
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