第553話 今年もよろしく
☆亜美視点☆
さてさて、お風呂から上がって来た私達は、再びリビングに集合してテレビを皆で視ています。
大晦日のこの時間は大体どこもカウントダウンの番組ばかりである。
「紅白は誰も見ないのね」
「あまり興味が無いな」
「私はSunriseだけスマホで見るー」
麻美ちゃんはSunriseさんの大ファンだもんね。
私はあまり芸能人には興味が無いからねぇ。
「宏太もゆりりんだけは見るって言ってたわ」
「あいつ、クリスマスパーティーの時に浮かれてたからな」
「連絡先聞きたがってたけど、凄く我慢してたよぅ」
さすがに芸能人さん……特にゆりりんさんクラスのトップアイドルともなると、それは許されなさそうだからね。 宏ちゃんも良く我慢したよ。
「あー、それなんだけど。 あのパーティーの後で姫百合さんから直接連絡をもらったんだけど、佐々木君の連絡先教えてほしいって向こうから言ってきたわよ」
「はいぃっ?!」
「何だってー?!」
これは驚きだよ。 あのトップアイドルゆりりんの方から連絡先を聞いてくるなんて。
「これはまだ佐々木君には伝えてないけど、どうしましょうね?」
「いや、先方が知りたいって言うなら良いんじゃないの?」
「え、奈々ちゃんは良いの?! 恋のライバルになるかもだよ?!」
私が驚いてそう言うと、奈々ちゃんは「さすがにならないでしょ」と笑いながら返して来た。
余裕があるのか、そもそもトップアイドルが宏ちゃんに惚れるわけないと思っているのか知らないけど……。
「大丈夫かなぁ」
「平気平気」
「じゃあ、明日初詣の時に佐々木君に話してみますわよ」
「ふむ。 あの野郎上手くやりやがったな」
「割と印象が良かったんでしょうね」
「大人しく黙ってたらイケメンだもんねー。 口開くとアレだけど。 あははは!」
「すぐ化けの皮剥がれて幻滅されるのがオチよ」
皆、宏ちゃんの事をバカにし過ぎだと思うけどねぇ。
「そろそろ良い時間ね。 お蕎麦の準備しましょう」
奈央ちゃんがポンッと手を叩いて立ち上がる。
ちょっと意外なんだけど、奈央ちゃんも年越し蕎麦とか食べるんだね。
「人数分一気に茹でるから大変ね。 二手に分かれる?」
「私はつゆを作るよ」
つゆ係に立候補した私は、勢いよく立ち上がる。
スーパーで売ってるつゆより美味しいの作るよ。
「私はネギでも刻んでようかしら」
「私やることなーい!」
「はぅ。 お椀でも出しておく?」
「出すー!」
一応仕事を貰えて満足した麻美ちゃんは、元気よくキッチンへと歩いて行った。
私達も後に続きキッチンへ到着した時には、麻美ちゃんはお仕事を終えて不満そうな顔をしていた。
は、早い。
「仕方ないねぇ。 私のつゆ作り手伝って」
「手伝うー!」
私が声を掛けると、即座に満足げな顔を見せてバタバタと近付いてきた。
「じゃん! 鰹ー!」
「おー!」
「これ削ってくれる? その間に昆布出汁作っちゃうから」
「了解! うおー! シェーバー!」
無駄にカッコよく横文字にしながら鰹を削っていく麻美ちゃん。 なんか動きが早い。 何をさせても騒がしくなる面白い子だよ。
「つゆが出来るまで蕎麦茹では待った方が良いわね」
「そぅだね」
「うおー! 鰹だけに魚ー!」
「バカ言ってないで普通にやんなさいよ……」
「ネギも削ってあげよーかー?」
「普通に刻むわよバカ」
麻美ちゃんはノリノリである。 やらせて正解だったよ。 あれ疲れるんだよねぇ。
鰹節の方は麻美ちゃんに任せて、私は昆布出汁を作るよ。 しばらく水に昆布を浸して、ゆっくり旨みを滲み出させる。
頃合いになったら火を点けて、しばし放置だ。
「ちゃんとつゆから作るの偉いわね。 私の家なんて、市販のつゆよ」
「安定の美味しさだけど、やっぱり更に美味しいものを求めていかないと」
「亜美ちゃんはそういうとこ妥協しませんわよね? さすが私のライバル」
「あはは……普通だと思うよ」
「紗希も料理には妥協がないのよね。 良い奥さんになるわよアレ」
たしかに紗希ちゃんの料理は美味しい。
神崎家独特の隠し味があったりするらしく、レシピを教えてくれない徹底ぶりだよ。
「亜美姉! 鰹削れたよー!」
「おお。 おお? け、削ったねぇ」
麻美ちゃんの手元を見ると、この短時間であり得ないぐらい削っていた。
「さすがにそんなには使わないかなぁ?」
「あるぇ?」
仕方ないのでジッパー付きの真空パックに入れて保管しておきつつ、必要分だけお鍋に放り込む。
後は鰹出汁を作りながら、つゆの下地も作っちゃうよ。
「麻美ちゃん。 お砂糖、醤油、みりん、料理酒、白だしとお味噌を用意してくれる?」
「らじゃー!」
「お味噌なんか使うの?」
「試しに入れてみようかなって。 味に深みとコクが出れば良いなーと」
初挑戦だけど、料理は常にチャレンジだ。
まあハズレにはならないだろう。
それらの調味料達を亜美ちゃん的目分量で混ぜ合わせてつゆの下地を作る。
「うん、出来た。 お蕎麦茹でて良いよー」
「はいはーい、茹でますわよ」
「おー」
7人分のお蕎麦を茹でるという事で、かなり大きめの鍋を使う。
奈央ちゃんがお蕎麦を出してきて沸騰したお湯の中にぽーいっと入れる。
さすがにお蕎麦は市販のものを使用。 蕎麦打ちなんて出来ないからね。
茹で上がる頃合いを見計らい、先程作ったつゆの下地に取った出汁を入れて蕎麦つゆを完成させる。
ちょっと味見。
「ん。 美味しい。 ちょっとだけ入れたお味噌が良いアクセントになってるよ」
「じゃ蕎麦投入ー」
「刻みネギファサー」
「完成ー!」
年越し蕎麦完成!
お盆に乗っけてゆっくりとリビングへ向かうと、夕ちゃんは退屈凌ぎに筋トレして待っていた。
何で筋トレ?
「お、出来たか」
「うん」
「お待ちー」
テーブルに年越し蕎麦を並べてクッションに座る。
「今年も後20分だな。 来年は受験、大学に受かったらそれぞれのキャンパスライフと、新しいことが待ってるぜ」
「そうですね」
「私と亜美ちゃんは大学受験なんて余裕ですわ」
「いやいや、油断はダメだよ」
と言いはしたけど、奈央ちゃんはそんな油断をして受験失敗しちゃうようなマヌケじゃないことはよく知っている。
油断なんてしないからこそ余裕なんだよね。
「私は1人で大学生活……不安だよぅ」
「大丈夫大丈夫。 あんたも人見知りやらアガリ症がだいぶマシになったし、もう少し頑張りましょ」
「うん」
希望ちゃんも強くなったし、きっと大丈夫だ。
将来は立派な幼稚園の先生になってるよ。
「皆頑張れー! いただきますー! ズルズル……うまー!」
騒がしくお蕎麦を啜る麻美ちゃんだけど──。
「来年はあんたも受験勉強頑張んのよ」
「なはは。 わかってるよー。 七星行くよー」
夕ちゃんや奈々ちゃんも受ける大学。 この辺の人が無難に選ぶ大学だ。
麻美ちゃんの他に渚ちゃんも千葉に残って受験するらしい。
「ズルズル……」
お蕎麦を啜りながら、カウントダウン番組を視る。
芸能人達がカウントダウンのタイミングを今か今かと待っている。
芸能人さんも大変だねぇ。
「ズルズル……」
無言で蕎麦啜る私達。 すると、テレビの中の芸能人が後5分だと告げる。
お蕎麦を食べ終えて箸を置き、一つ咳払いをする。
「こほん。 皆様、今年は色々お世話になりました」
「ふふ、こちらこそですわ」
「僕は夏からでしたがお世話になりました」
皆順番に頭を下げていく。
そして、少し談笑なんかをしていると、テレビからカウントダウンの声が聞こえてきた。
「5! 4!」
それに合わせて麻美ちゃんもカウントダウンを始める。
「3! 2! 1!」
再度皆で頭を下げて──。
「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」
新しい1年が幕を開けた。
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