第552話 相性

 ☆亜美視点☆


 今日は大晦日。

 午前中は勉強も忘れてお家の大掃除をしていました。

 お隣の奈央ちゃんの別宅でも、奈央ちゃんと春くんが自分達でお掃除に来ていて、更に後からは奈々ちゃんと麻美ちゃんまで手伝いに来ていた。

 私達も午後から参戦したけど、その頃にはもう終わっていて、特に何も出来なかった。

 ゆっくりしていると、今日はこの別宅で年を越すと言う奈央ちゃん達に乗っかり、私達も別宅にお泊まりする事にした。

 こうしてここに年越しお泊まり会が急遽始まったのである。


 現在、晩ご飯を皆で食べているところである。 今日の晩御飯は麻美ちゃんが食べたいと言ったハンバーグに自作のフライドポテトと奈央ちゃん作のサラダを盛り付けてある。

 それだけではちょっと物足りないという事で、即席のスープも付けたよ。


「あははは、私のは一番大きいやつー」

「やたらでかいの丸めてると思ったら自分の分なのね」

「私は小さいのでいいからって言ったら『自分のでかくするー!』って言って喜んで丸めてたよぅ」

「すごいねぇ。 お店のやつ見たい」

「麻美さんはいつも元気ですね」

「元気が取り柄みたいなものですわね」

「その通り!」


 元気なだけが取り柄じゃないところが麻美ちゃんの良い所。 女の子らしく可愛いところもあり、割と何でもできる器用さもある。

 かなり魅力的な女の子だよ。


「宏太はどうしてるんだ?」

「実家で過ごすってさ。 まぁ、ご両親も年末年始ばかりは家にいるみたいだし、一家団欒でいいんじゃない?」

「そうか。 おじさんもおばさんも忙しい人だからなぁ」


 宏ちゃんのご両親は共働きで毎日忙しく飛び回っているので、あんまり家にいない。

 いる時ぐらいは一緒に過ごすのが良いだろう。

 東京のお父さんとお母さんはどうしてるかな? 後で電話してみよう。


「んぐんぐ。 美味しい! 焼き加減最高だよお姉ちゃん!」

「当たり前でしょ」

「んむ。 亜美ちゃんがじゃがいもから作ったフライドポテトも美味しいよぅ」

「ですわね。 上手くカリカリに揚げてあるしさすが我がライバル」

「何でもライバルにするんだね」

「ははは、奈央さんはいつも打倒亜美さんを考えてますからね」

「えぇ……」


 もうちょっと有意義な時間の使い方をした方が良いと思うんだけど。


「この後はお風呂だけど、順番どうしますの?」

「俺は家に戻って入ってくるわ。 さっさと疲れ取りたい」

「夕ちゃん、言うほど今日は動いてないよ?」

「何をぅ? ちゃんと風呂掃除したろ。 自分で綺麗にした風呂に浸かって疲れを取る。 最高だな」


 今日はそれと洗濯物畳むぐらいしかやってないと思うんだけど、何故かめちゃくちゃ働いた気でいるみたい。


「じゃあ、僕もそっちで入りますかね」

「一緒には嫌だぞ」

「僕もお断りします」


 夕ちゃんと春くんは、一緒に暮らしてる時も別々に入ってたみたいだ。

 私達女の子組はしょっちゅう一緒に入ってるのに、何でだろうね?


「私は奈々ちゃんと入りたいかなぁ」

「はぅ。 私じゃないんだ」


 私が奈々ちゃんと入ると言うと、希望ちゃんが落ち込んでしまった。

 それこそ希望ちゃんとはしょっちゅう一緒に入ってるんだし、今日ぐらいは我慢して欲しい。


「私は1人でのんびりしたいですわねー」

「私もなのだー」

「じゃあ私も1人だよぅ」


 という事らしい。

 奈々ちゃんは別にどっちでも良いらしいので、2人で入る事に決定。

 色々と聞きたい事もあるし、ちょうど良い。


「んむんむ。 北上先輩、ハンバーグいらないのー?」

「え? 半分いります?」

「ちょーだいー!」


 自分の特大ハンバーグでは足りなかったのか、春くんからも半分貰っている麻美ちゃん。

 凄い食欲だよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 ちゃぽーん……


「ふぅ、疲れが取れるわねー」

「奈々ちゃんってお風呂入るといつもそれ言うね?」

「そうかしら?」


 私はそれに似たセリフを何度か聞いた覚えがある。


「今年も1年、お世話になったわね」


 お風呂の天井を見上げながら、奈々ちゃんがそう言った。


「こちらこそ、色々お世話になりました」


 と、返す。

 何だかんだ言って、お互い助け合いながら今まで生きてきた私達。

 これからもきっと……。


「それで?」

「ん?」


 奈々ちゃんがこちらに目をやって「何か話があるんでしょ?」と言わんばかりにそう言ってきた。

 やっぱり何でもお見通しなんだね。


「あんたが希望をほったらかして私と一緒にって、何か話があるからでしょ?」

「うん。 その通り」


 私が聞きたい事はズバリ1つ。


「最近は夕ちゃんに結構じゃれついてるのを見かけるけど、何か心境の変化でも?」

「ふうむ。 そんな風に見えちゃう?」

「うん。 私が東京行ってる間とかも結構夕ちゃんにべたべたしてたって希望ちゃん言ってたし。 もしかして夕ちゃんに乗り換えようとか考えてるんじゃ?」

「前にも言ったけど宏太と別れてどうのって事は考えちゃいないわよ」


 と、割とあっさりとそう応えてきた。 どうやら乗り換える気は無いらしい。

 奈々ちゃんはこういう事は嘘をついたりしない子なので、そこは信用しても良いだろう。


「でもー」

「ん? でも?」


 奈々ちゃんの言葉にはまだ続きがあるらしい。


「夕也とはどうも相性が良いみたいでね」

「相性?」

「ええ。 身体のね」

「うわわ?!」


 つまりエッチの相性が良いってことらしい。

 またまたとんでもない事をサラッと言うねぇ。


「言っても、私が知る限りじゃ2回しかしてないはずだよ? わかるもんなの?」

「わかるわよ? 宏太とするより良かったもの」

「そ、そなんだ?」


 と、そこでふと考えた。

 そういえば私も宏ちゃんと1回しただけだけど、あれはとても……そのなんていうか凄く良かったような。 つまり私も宏ちゃんと相性が?


「あらあら? あんたも何か思い当たる事でもあんの?」

「……うんと、私ももしかしたら宏ちゃんと身体の相性が良いかもしんない」

「ぷっ……あはははは」

「わ、笑わなくても良くないー?」


 私の言葉を聞いた奈々ちゃんは、何故か大爆笑をしてしまった。


「いやいや、ごめんなさい。 つまり、お互いがお互いのパートナーと相性が良いってわけね。 私達、付き合う相手間違えちゃったかしら?」

「そんな事はないよ。 奈々ちゃんだってさっき言ったじゃん。 乗り換える気が無いってことは、宏ちゃんとお付き合いしてて良かったって事でしょ?」

「まあ、そうね。 私さ、あの子達みたいに夕也の事を取ったりしようとは思ってないけど、何というか肉体関係をっていうのはそのちょくちょく持ちたいなぁとか考えてるのよね」


 と、奈々ちゃんの考えはそういうことらしい。

 なるほどね。 所謂、身体だけの関係を続けたいってことか。

 私は宏ちゃんとそこまでの事は考えていないけど、奈々ちゃんはそうではないらしい。


「別に良いは良いけど、子供は作っちゃダメだよ?」

「え、良いの? 私と夕也がヤリまくっても?」

「ヤリまくるって……大体、私がダメって言っても隠れてしそうだし。 許してあげるから控えめにしてよね?」

「……はぁ、あんた何でそうあっさり許しちゃうのよ? もうちょっと夕也を独占してもいいのよ?」


 私があっさりと許可すると、今度は呆れたような感じでそう言った。


「ちょっと気になってるのよね、あんたのその何でも許しちゃう性格。 まあ、さっき言った事は全部本気だし、許可してくれるなら遠慮しないけどさ、その甘さはいずれ幸せの崩壊を招くわよ?」


 奈々美ちゃんは、心配そうに私に忠告してくれた。

 自分が他人に甘い事なんて、自分が1番わかっているし、これはもう中々治らないだろう事も薄々わかっている。

 ちょっとは厳しくしていこうと思うんだけど、必死に夕ちゃんにアタックしている皆を見てるとどうしてもねぇ。 少しぐらいはって思っちゃうんだよね。


「わからないでもないけど、自分の幸せを大事にね」

「うん」

「ま、私は遠慮なく夕也を襲っちゃうけど」

「あ、あはは……」


 襲うんだ……。


 その後はお風呂から出るまで、今年1年を振り返りながら談笑していたのだった。

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