第545話 ジェットコースター

 ☆亜美視点☆


 千葉のファンタジーランドへとやって来た私達。

 お昼から遊び始めて今はもう日が暮れてくる時間。

 夜になると、園内に用意されたクリスマスツリーのイルミネーションが点灯しライトアップされたり、クリスマス時期限定パレードが模様されたりするらしい。

 その為、少し早めに夕食を食べる事にした。


 夕食は園内の飲食スペースで済ませ、早め早めに場所取りを行っています。

 やっぱりツリーもパレードも良い位置で見たいからね。


「結構早めに来たのに、すでに人が集まってるねぇ。 もうちょっと遅かったら全然良い位置取れなかったかも?」

「そうだな」

「皆考えは同じって事ね」

「あははは! しかし我々は更に上を行く賢者なのだー!」

「計画したんは清水先輩やけどな、アホ者麻美」

「アホじゃないもんー。 アホっていうのは宏太兄ぃみたいな人の事を言うんだよー!」

「あー、俺はアホなのか?」


 宏太が私の方を向いて訊いてくる。

 私は迷わず大きく頷く。


「宏ちゃんはまごう事なきアホだよ」

「そうかー」


 特に怒る事もせずに納得してしまう。 少なくとも自分を賢いとは思っていないらしい。


「あはは、冗談だよ宏ちゃん。 宏ちゃんはそこまでアホじゃないよ」

「そうかー」


 反応は変わらないんだね。 別にどっちでも良いと思っているみたい。


「ツリーの点灯って何時からだよ?」

「19時からだね。 点灯と同時にパレードスタートだよ」

「あと20分あるのか」

「人増えて来たよぅ」


 希望ちゃんの言う通り、続々と人が増えて来た。

 これは予想以上の混雑が予想される。


「皆、押されたりしてはぐれないようにね」

「了解ー!」


 たしかにこれは人に押されたりしてはぐれたり転倒したりする危険がある。

 よし、夕ちゃんの手を握っておこう。


 ぎゅっ


 夕ちゃんの手を握り締めると夕ちゃんも握り返してくれる。

 これで大丈夫だね。


 ぎゅっ


「んん?」

「あははー! 私は亜美姉の右手を握るー!」


 隣に立っている麻美ちゃんが私の空いている方の手を握ってくる。 

 よく見れば奈々ちゃんは宏ちゃんの手を握っているし、希望ちゃんは渚ちゃんと手を握っている。


「これで大丈夫だね」

「そうだな」


 人の波に流されないようにしながら、ツリーの点灯時間を待つ。

 

 しばらくの間ツリーを眺めていると、園内に設置されている時計がライトアップされ、カウントダウンが始まる。


「5!」

「4!」

「3!」

「2!」

「1!!」


 カウントダウンが終わると、ツリーに施されたイルミネーションの明かりが一斉に灯り出す。


「おおー!」

「うわわー!」

「はぅーっ!」


 想像以上に綺麗だ。 私は目をキラキラさせて見入ってしまった。

 

「こりゃ来た甲斐あったわ」

「ですねー」

「ふむ」


 皆、しばらくの間そのツリーに見入っていたが、少しすると賑やかな音と共にゆっくりとパレード車がやって来た。

 そちらも電飾が施されており、その車の上では着ぐるみマスコットが手を振ったり楽器を演奏している。

 こちらも派手で綺麗だねぇ。

 

「うぇーい!」


 麻美ちゃんはテンション爆上げである。

 こういう祭り事では普段よりも更に弾けるねぇ。



 ◆◇◆◇◆◇



 パレードも終わり、少しずつではあるけど人がばらけ始めてきたタイミングで私達は写真撮影を始めた。


「あの、写真撮ってもらって良いですか?」


 近くで同じように写真撮影をしようとしていたグループに、交互に撮影をしようと持ち掛けると快く引き受けてくれた。


「撮りますよー!」

「はーい!」


 まずは私達を撮ってもらう。 7人でツリーの前に並んで笑顔で撮影してもらう。


「ありがとうございます! 次、私が皆さんを撮影しますね」

「お願いしまーす」


 私はデジカメを受け取って、代わりにシャッターを切る。

 写真撮影も得意なんだよね。


「はい、どうぞ!」

「ありがとうございましたー!」


 デジカメを返してお互いにもう一度お礼を言い合い、手を振って別れる。


「さて、どうする?」

「帰るかまだ遊ぶかってこと?」

「そうそう」

「今帰ると電車がとんでもない事になりそうだよな」


 たしかにその通りなのである。

 パレードが終わり、これから帰ろうととするお客さんが一斉に駅へと向かって行った。

 今帰ろうとすれば帰宅ラッシュに巻き込まれるのは目に見えている。

 ならば、もう少し残って遊んで少し時間をずらすのは普通にありである。


「んじゃー! 今から観覧車に乗ろうー!」

「お、麻美中々ええ案出すやん。 私は賛成」

「そうね。 私もそれで良いと思うわ」

「うし、じゃあ最後は観覧車だな」

「らじゃだよ」

「おー」

「じゃあ行くか」


 私達は帰っていく人の波に逆らうように歩き、観覧車を目指した。

 

 観覧車の前までやって来ると、中には私達と同じ事を考えるお客さんもいるようで、並んでいる人達もいた。


「まあこれくらいなら問題無いわね。 ちょっと待てば乗れるわ」

「さて、グループ分けどうしようね?」


 と、ここでグループ分けについての話題を振ってみた。

 すると案の定食いついて来る子が3人。


「私は夕也兄ぃのグループが良い!」

「私もや」

「私もだよぅ」


 やっぱりそうだよね。 わかっててこの話題を振ったんだけど。

 1つのゴンドラに大人5人はやばいよね。


「じゃあジャンケンだね。 私は確定としてあと1人勝った人だけ」

「よーし勝負だー!」

「ジャンケン!」

「ポンだよぅ!」



 ◆◇◆◇◆◇



 ということで、私達は観覧車に乗っています。

 さて、ジャンケンに勝って私と夕ちゃんのグループに入れたのは?


「ふんす。 やっぱり私だよぅ」


 希望ちゃんだ。 夕ちゃんが絡むとやけに勝負強くなるんだよね希望ちゃん。

 何というか気合いの入り方が違うんだよね。


「あはは、おめでとう希望ちゃん」

「当然だよ。 何たって夕也くんの元カノだよ? あの2人とは格が違うよ」

「3人は何ていうか仲間ってより争い相手って感じなのか?」

「んー……一応負け組同盟組んでるけど、夕也くんの事に関しては基本奪い合いだよぅ」

「奪い合いって、私の事無視して3人でやらないで欲しいねぇ」

「はぅ」


 現彼女である私を差し置いて夕ちゃんの奪い合いを展開している3人。

 私としては高見の見物感覚で楽しく見させてもらってるけど、無視されるのもちょっとね。


「と、とりあえずは3人の中で誰か1人、亜美ちゃんへの挑戦者を決めるための争いなんだよぅ、多分」

「多分なのか。 別に話し合いでそう決めたわけじゃなく?」

「はい……」

「行き当たりばったりだねぇ……」


 まあ、私は負け組同盟さんが何をしてきても余裕で迎え撃つけど。


「そんな事より、明日は明日で楽しみだね」

「そうだな。 奈央ちゃんの家のクリスマスパーティー、お前ら去年参加したんだろ?」

「うん、凄かったよぅ! 有名人も一杯いたりして」

「そうかそうか。 楽しみだな」


 そう、明日は奈央ちゃんの家のクリスマスパーティーだ。

 今年最後にして最大のイベントだ。 凄く楽しみである!

 

 

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