第516話 亜美東京へ

 ☆亜美視点☆


 12月頭の事だ。

 私のスマホに一本の着信があった。


 学校から帰ってきた私達は、相も変わらず勉強会をしていたのだけど。


「うわわ、着信だ」


 画面を見るとお父さんからの着信だった。

 たまにかかっては来るけど、今日は何だろ?


「もしもーし。 お父さんどしたの?」


 私は勉強に集中している皆から離れる為、リビングから出て通話を開始。


「亜美。 急なんだがすぐにこっちへ来られるか? 希望か亜美、どちらかで良いんだがな」


 と、少し慌てたような感じのお父さん。

 それにしてもすぐに来れるかだなんて、一体何があったんだろう?


「えと、何で?」

「母さんが倒れた」

「えっ……た、倒れたって、大丈夫なの?!」

「ああ、過労だそうたから、命がどうこうってことじゃない」


 それを聞けてひとまず安心する。


「亜美も知ってるように、父さんは家事が苦手だ」


 そうなんだよねぇ。 夕ちゃん程に酷いわけじゃないけど、お父さんも相当ダメな部類だ。

 だから、しばらく家事を頼むために私か希望ちゃんに来てもらうつもりのようだ。


「はぁ。 わかったよ。 私が行くから待ってて。 今から出れば夜には着くから」

「悪いな。 学校もあるし受験勉強で忙しいのに」

「まあ、ちょっとぐらいなら平気だよ。 それに家族が困ってるんだし」

「ありがとうな。 来る前に母さんが入院している病院に寄って行くと良い」

「らじゃだよ」


 私は通話を切り、リビングへ戻り状況説明を始める。

 

「お母さんが?」

「うん。 過労だって。 私はこれから東京に行くよ」

「わ、私も行くよぅ」


 希望ちゃんが立ち上がりそう言うも、私が制止する。

 心配なのはわかるけど、2人で行く必要は無い。

 それに2人とも行っちゃったら夕ちゃんのお世話をする人がいなくなる。


「はぅ……わかったよ」

「大丈夫だよ。 あっちは私に任せて」

「気を付けて行ってくるのよ?」

「そうそうー。 亜美ちゃんまで倒れちゃ世話ないよ?」「あはは。 わかってるよ。 じゃあ用意して行ってくるよ」


 私は急いで出かける準備をして、急いで東京へ向かい出発した。



 ◆◇◆◇◆◇



 ガタンゴトン……


 電車に乗り込み。 一息つく。

 急に忙しなくなったねぇ。 今までは家事を分担したりしてたから、お母さんの負担もだいぶ減ってたはず。

 東京に行って、1人で家事するようになったから、少し疲労が溜まったのかもしれないね。

 一応お母さんにはメールで連絡を入れてある。

 これから東京へ行き、しばらくお父さんの世話を請け負う事を伝えると「ごめんなさいね」と、返事があった。


「少しは休ませて上げないとね」



◆◇◆◇◆◇



 東京に到着した私は、タクシーを捕まえて病院を目指す。

 時刻は18時。 まだ面会出来るかなぁ?


 タクシーが病院に到着。

 すぐさま窓口で案内してもらう。


「すいません。 面会なんですが」

「どなた様でしょうか?」

「清水美那です」


 母親の名前を告げると、すぐに照会してくれる。

 病室は3階の305号室。 大部屋のようだ。

 エレベーターを利用して病室へと向かう。


 大部屋という事で、他の入院患者さんの迷惑にならないように注意を払い入室。


「お母さん、大丈夫?」


 お母さんを見つけてゆっくりと腰をかける。


「亜美。 悪いわね、わざわざ」

「ううん。 お母さんちょっと痩せたんじゃない?」


 前に会った時より少し痩せたように見える。

 色々負担が掛かっているみたいだ。


「お父さんもしっかりしてもらわなきゃダメだよ?」

「お父さんはお仕事もあるから無理言わないの」


 と、お母さんはあくまでお父さんの肩を持つようだ。

 むぅ。 でも、事実こうして倒れちゃったわけだし、対策しないわけにはいかない。

 今日はお父さんに説教しないとね。


「学校は大丈夫なの? 受験勉強は?」

「学校の方にはしばらく欠席するって連絡しといたから大丈夫だよ。 受験勉強はこっちでも出来るし心配しないで」


 親ってのはいつまでも子供が心配なものなようだ。


「そう……迷惑かけるわねぇ」

「気にせずゆっくり休みなよ。 それじゃまた来るよ。 お父さんに夕ご飯作らないと」

「亜美も無理して倒れないでね」

「平気平気。 まだまだ若いよ」

「ふふ、お父さんの事頼むわね」

「うん」


 お母さんの面会を終えて、再びタクシーを捕まえる。

 今度は家に向かうよ。


 タクシーで揺られる事15分。

 私は東京にある清水家へと到着した。

 お父さんはお腹を空かせているだろうから、急いで夕飯の準備をしないと。

 私はインターホンを鳴らしてから家に入っていった。


「おお亜美! 助かるよ」

「まったくもう。 少しは自分でも家事出来るようにならないとダメだよ?」

「め、面目無い……」

「はぁ。 夕飯まだでしょ? 簡単な物で良かったらすぐに作れるよ」

「頼むよ」


 しょうがないお父さんだねぇ。 ま、困った時はお互い様。 私と希望ちゃんの我儘を聞いてくれたんだもん、これぐらいはしてあげないとね。



 ◆◇◆◇◆◇



 冷蔵庫の余りで簡単な夕飯を作った私は、お母さんがやりかけで置いてあった洗濯物を畳んで片付けていく。

 家の掃除は明日、お父さんが仕事でいない間にやっちゃおう。

 あー、明日はゴミの日か。 これも準備しておかないとねぇ。


「お母さん、大変だったんだねぇ」


 私が東京についてきていれば、こんな事にはならなかったのかな?

 ちょっと罪悪感だよ。


「お母さん、退院はいつかな?」


 過労だって話だし2、3日だとは思うけど、退院してすぐにまた家事をやらせるわけにはいかない。

 1週間ぐらいはこっちにいて上げたいと思っている。

 学校にもそれぐらい欠席すると伝えてあるので、心配無しだ。

 

「よいしょ。 洗濯物畳み終わり! 2人分だと少ないねぇ」


 時計を見ると、すでに20時を過ぎていた。

 ちょっと遅くなったけど、私も夕飯にしようかな。

 という事でお茶の間へ移動。


「あれれ? お父さんがいない」


 てっきりお茶の間で寛いでいると思っていたのに、お茶の間はもぬけの殻になっていた。

 はて? と、首を傾げつつも自分の夕飯をいただく事にした。


「んむんむ……夕ちゃんと希望ちゃんはもう夕飯食べたかな?」


 と、考えたところで「はっ!」と気付く。


「夕ちゃんと希望ちゃん、1週間2人きりじゃんっ!」


 私の監視の目が無い所で2人きりにしてしまったよ。

 希望ちゃん、ここぞとばかりに色々アレコレしなきゃ良いけど……。


 カチャカチャ……


 そんな事を心配していると、台所から食器の音が聞こえてきた。


「……まさか?」


 私は心配になり台所の方へ向かう。

 ゆっくりと中を覗くと、お父さんが食器を洗っている姿が飛び込んできた。

 お父さん……何だかんだ今回の件でお母さんの負担に気付いたみたいだ。

 出来る事をやろうとする姿勢を見て、私は少し感動していた。

 夕ちゃんにも少しは見習ってほしいものだよ。

 あ、夕ちゃんがやると逆に散らかるんだった。


「はぁ。 お父さん、私も手伝うよ」

「おーすまんな。 慣れなくて上手く出来ないんだ」

「少しずつ出来るようになれば良いんだよ。 お母さんきっと喜ぶよ」

「そうだな……亜美、後で洗濯機の使い方教えてくれるか?」

「あはは、らじゃだよ」


 お父さんもこれからは家事の分担を考えるようになったみたい。 良かった良かった。

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