第506話 誕生日

 ☆渚視点☆


「誕生日おめでとうー!」


 パチパチパチパチ


 18時過ぎ頃に今井家のお隣さんである、西條先輩の別宅へ到着した私は、皆から盛大に祝ってもらった。


「ど、どうも。 わざわざ私の誕生日の為にここまでしてもろて感謝です」

「まあまあ座りたまへ」


 と、麻美が私の手を引き主役席に座らせる。

 なんや落ち着かへんな。


「さて! 主役が着いたとこで、乾杯しよー! 渚の誕生日を祝してー! 乾杯ー!」


 どうやら今日の幹事らしい麻美が乾杯の音頭を取りパーティーが始まる。


「やー! やっぱ勉強のストレスを発散するには騒ぐのが一番!」


 神崎先輩の口から真っ先に出たセリフはこれだ。

 やっぱり毎日受験勉強漬けやと相当ストレスが溜まるみたいやな。


「渚ちゃん。 どうして誕生日教えてくれなかったの?」


 清水先輩が首を傾げながら訊いてくる。


「あー……麻美以外からは特に訊かれへんかったし、自分から言うのもなんや催促してるみたいで」

「なははは! 気にするなー!」

「そうよ。 まあ訊かなかった私達も悪いけどね。 去年はパーティー一回損したわね」

「そ、損て……」

「まあまあ、良いじゃねぇか。 今回2年分やっちまえばよ」


 佐々木先輩がそう言うが、2年分てどうやるんやろ?


「ね、今日は夕也くんとは何してたのぅ?」


 雪村先輩はちょっと低いトーンで私に訊いてくる。 け、牽制されとる?

 当たり障りの無い様に適当に……。


「し、市内に出てプレゼントを買ってもらいました」

「おー。 夕也くんやるね! で、それだけ?」


 な、なんや怖いで雪村先輩。


「映画観に行ったぜ? 時間余ってたからな」

「へぇ。 なるほどなるほど」


 と、雪村先輩はそれで納得したらしく、大人しく引き下がる。

 ひ、ひとまず何も言われんで済んだか。

 今井先輩を取り巻く女子の中でも、雪村先輩は特に今井先輩への愛が深い人や。

 警戒心もかなり強いみたいやな。

 それとは裏腹に、今井先輩の彼女である清水先輩はそこまで周りを警戒している節はあらへん。

 ただ、神崎先輩に関してはかなり警戒心を持ってはるらしい。

 何しでかすかわからないという事みたいや。


「渚ちゃん。 今日ぐらいかな?」


 清水先輩に訊かれ、そちらを向く。

 はて、何の事かと思い首を傾げると、先輩はチラチラっと今井先輩の方へ視線を送る。

 あぁ、なるほど。 今日あたり告白するのかと訊いてはるんやな。

 私も今日一日かけて、ようやく覚悟も決まった。

 私は肯定を意味するように頷く。

 すると、清水先輩は「うんうん。 そかそか」と満足そうに頷く。

 自分の恋人が他の女子に告白されるのは嫌やないんやろうか?

 変わった人や。


「渚ー。 頑張んなよー?」

「麻美……。 頑張るで」


 友人である麻美からもエールを送ってもらう。

 ライバルであるはずの私が今井先輩に告白することを誰一人止めようとはせず、むしろ後押しする。

 ほんま謎やな。


「渚ー! この唐揚げ食えー!」

「ふごっ?!」


 油断していたら麻美から不意打ちを喰らい、唐揚げを口に突っ込まれた。

 顎外れるて。


「美味しいかー?」

「美味いけど食わせ方に問題ありやわ!」

「麻美、喉詰まるかもしれないから気を付けなさいよ?」

「うー。 はい。 ごめんよ渚ー」


 藍沢先輩に叱られて珍しく素直に謝る麻美。 調子が狂う。


「別ええよ。 この唐揚げ、麻美が揚げたん?」

「そうなのだ! 昨日の晩からタレにじっくりと漬け込んだ鳥をサクッと揚げたよー」

「美味い美味い。 麻美も料理の腕上げたね。 私も負けてられん」

「遥ちゃんも彼氏に手料理振る舞わないとだもんねぇ」

「きゃははは。 遥の料理はヤバいわよー」


 と、話題は料理の方へシフトしていく。

 ひとまず料理をいただきますか。


「遥ちゃんも、料理の先生亜美ちゃんが必要だねぇ」

「亜美ちゃん、何でも教えられるのね。 さすがは我がライバル」


「もぐもぐ……このサラダ美味いですね。 ドレッシングやろか?」

「ふふふー。 良く気付いたわね。 神崎家秘伝のレシピで作ったドレッシングよ」

「はぇー。 秘伝のレシピ……」

「紗希ちゃんの家のレシピは謎だよぅ」

「でも美味しいのよね、紗希の味付け」


 先輩達は皆、料理も上手くて凄い人達や。

 私はようやくまともに料理出来るようになったばかりや。


「そういえばさ、渚は夕也兄ぃに何を買ってもらったのー?」

「お、気になるね」

「夕也くん、そういうセンスあんまりないからね」

「失礼な」

「あ、選んだんは私やから先輩のセンス云々はありませんでしたよ」

「そうなの? 夕也もまだまだねー。 女の子が喜ぶ物を察するのがイケてる男でしょ」

「夕也くん減点20だよぅ」

「何でだよ!」


 さっきのは言わん方が良かったんやろか?

 失敗してもうたな。


「夕也は昔から女心がわからん奴だからな」

「私も苦労したよぅ」

「きゃははは! そういうダメなとこある方が可愛いじゃん。 私はそんな今井君が好きよん」

「紗希ちゃんには柏原君がいるでしょ!」

「あいつはダメなとこありすぎてねー。 またそれが可愛いくて好きなのよ」


 好きにも色々あるんやな……。

 私の今井先輩に対する好きってなんなんやろ?

 憧れとかそんなんかな?


「皆も渚ちゃんにプレゼント持って来てるの?」

「当たり前でしょ」

「私達は3人で一個にしたわよ」

「奈央のお財布からお金出てるんだけどねー。 私と遥は気持ち払っただけ」

「いえいえ! 気にしてないです! おおきにです」

「私は先に渡したよー。 セーター」

「冬になったら着るで」

「どうぞー!」

「私と宏太からは後のお楽しみって事で」

「は、はい」


 何や、めっちゃ嬉しいんやけど。 泣いてまいそうや。 

 今まで、友人達からこんな風に祝ってもろた事なんかなかったからな。

 友人自体はいたけども、こんなに深い仲にまでなった人達はおらんかった。


「ほんま、おおきにです!」

「さっきからそればかりじゃーん。 ささ、楽しもう。 ツイスターゲームでもやろー」


 と、神崎先輩はどこからともなく取り出したシートを引いて勝手に準備を始めてしまう。

 清水先輩、藍沢先輩、雪村先輩が挑戦するも、雪村先輩が早々にダウン。

 清水先輩と藍沢先輩はとんでもないポーズになりながら、最後に藍沢先輩がリタイアして清水先輩が勝っていた。


「挑戦者求むだよ! さあさあ!」


 勝ち残った清水先輩は調子に乗って、次の挑戦者を募る。


「私やります!」

「じゃ私もー」

「お、今日の主役の登場ね」

「いけいけー!」


 挙手してツイスターゲームへ参加する私と麻美。

 ここは清水先輩に勝たせてもらうで。



 ◆◇◆◇◆◇



「亜美ちゃん、左足を赤へ」

「はーい」


 ゲームが進行していき、3人とも中々にきついポーズになっている。

 それでも清水先輩は比較的余裕を見せている。 何ちゅう体しとるんや。

 麻美はもう限界っぽいけど踏ん張っている。


「次ー、渚の左手を青にー」

「左手を青ー?」


 青は清水先輩の右足と麻美の右手によって良さげなポジションが埋まってしまっている。

 ちょっと離れた場所に持っていく必要がある。 


「うううううー」


 必死に右手を伸ばす。 もうちょいやもうちょい。


「渚ーブラ見えてるわよーん」

「うわ、えっろイブラしてるわね」

「ええ?! う、うわーっ?!」


 一瞬そっちに気を取られた瞬間にバランスを崩し倒れ込んでしまう。 更に私に押しつぶされるように麻美もぺちゃんこになった。


「WINー!」


 と、清水先輩は器用なポーズなままVサインをして見せる。

 その後、私の着けている下着について色々質問が飛び交っていたが黙秘で切り抜けるのであった。



 

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