第505話 時間潰し
☆夕也視点☆
今日は渚ちゃんの誕生日らしい。
ということなのだが、何故か麻美ちゃんに連れられて渚ちゃんの部屋へ訪れた俺は、麻美ちゃんから渚ちゃんの相手を頼まれた。
パーティーが始まるまでの間、渚ちゃんの誕生日プレゼント選びについて来ているが、まだ時間には早いという事で、少し時間を潰すことにした。
今は、亜美とのデートでよく来る喫茶店に入ってコーヒータイムだ。
何故かフロアスタッフさんにチラチラと見られている。
あれか? いつもと違う子連れてるから浮気だと思われてんのか?
「ずずー……はぁ」
「渚ちゃんはコーヒーいけるんだな」
「はい」
「亜美はダメなんだよなぁ。 あいつ『こんなのは飲み物じゃない』とか言うんだぜ?」
「ははは、甘い物専門って感じですからね」
「そうだなぁ」
「それにしても不思議な人や……あんだけパフェやら食べてんのに、プロポーション崩れへんやなんて」
「あいつは常識じゃ測れないんだよ」
マジで地球人なのか疑いたくなる。
「渚ちゃんはコーヒーだけで良いのか? 誕生日だし奢りだぞ」
「大丈夫です。 この後はパーティーあるし、腹は減らしておかんと」
なるほど、最もな考え方だな。
にしても、皆やたらと張り切って準備してたな。
相当受験勉強のストレスが来ているらしい。
「向こう着いたら一旦部屋に戻ってええですか?」
「ん? いいけど何でだ?」
「この子置いて行きたいんで」
と、先程プレゼントとして買った猫のぬいぐるみを指して言う。
まあ、荷物になるしなぁ。
「了解了解」
「ところでパーティーって何時からなんですか?」
「18時」
「18時て、まだ4時間もあるやないですか?」
「そうなんだよなぁ。 どうやって時間潰してやろうか?」
まとまった時間潰すなら、映画を見に行くのが楽で良い。
2時間は潰せるからな。
ここから家まで帰る時間を45分くらいだとして、あと1時間15分潰せば良いわけだ。
「まずは映画でも行くか?」
「せ、先輩と映画……い、行きます!」
何故か凄く気合いが入っているようだがどうしたのだろう?
とにかく映画を見に行く事にして、喫茶店を後にした。
「何の映画やってるんやろ?」
「ホラーでも観るかー?」
「先輩……私が怖いのあかん事知ってて言うてないですか?」
「バレたか」
ちょっと意地悪のつもりで言ってみたのだが、あっさり見破られる。
冷静なようだ。
「渚ちゃんはどんなジャンルが好きなんだ?」
「やっぱりラブロマンスです」
即答だった。 やはり渚ちゃんはどこか乙女なところがあるらしい。
お姉さんは絶対ラブロマンスとか観ないだろうなぁ。
「やってりゃいいが」
「ですねぇ」
と、2人で仲良くそんな話をしながら映画館へとやって来た俺達は、上映中の映画のラインナップを確認する。
アニメ映画に特撮怪獣映画、ホラー映画にSFと。
「あ、あった! これ観ましょうや?」
「おん?」
どうやら渚ちゃんの観たいものがあったらしいので、それをチョイスする。
教師と生徒の禁断の愛だと? 中々ハードそうだな。
「さあ、観に行きましょう!」
「こういうのが好きなのか」
渚ちゃんは「大好物」と答えて、ズンズン中に入って行くのだった。
◆◇◆◇◆◇
「おお……これは中々」
隣に座る渚ちゃんは、大好物というだけありかなり楽しんでいる様子。
現在スクリーンには中々際どいシーンが映し出されているが、渚ちゃんは食い入るように観ている。
希望と似たようなタイプだなこれ。
物語は最後、女子生徒側の両親の反対を押し切り、駆け落ちするように家を出て行く。
見知らぬ小さな島へ渡った2人は、その島で幸せに暮らすという物であった。
「ずずっ……」
渚ちゃんは泣いておられるようだ。
やはり希望と似たようなタイプなようだ。
「でもさ、両親に祝福されないってのはちょっと寂しいんじゃないか?」
「そうですね。 やっぱり、両親にはちゃんと認めてもらいたいものです。 でも主人公達は自分達の幸せを選んだ。 中々難しいとこやと思います」
「ふうむ。 渚ちゃんはいるのか? 両親を振り切ってでも一緒にいたい相手」
「うぇっ?!」
急な質問に対して、驚いたような声を出しながらこちらを向いた。
「いや、だってな? 元々こっちには高校3年間だけって約束で来てたんだろ?」
「は、はい」
「でも、今はその約束を破ってこっちで大学受験するんだよな? それってつまり、こっちに一緒にいたい人がいるからなんじゃないのか?」
「ちゃ、ちゃいますよっ?!」
顔を真っ赤に染め上げながら、全力で否定してくる渚ちゃん。
ふむ、鈍感と言われるこの俺でもわかる。
これは図星だ。
こうなってくると少し意地悪をしたくなってくる。
「ほーん。 同級生か?」
「や、やから、ちゃう言うてますやん!?」
「そんなわかりやすい反応されちゃあなぁ」
「うぐ……ほ、ほんまちゃうんですって」
「ふむ」
これ以上は嫌われかねないからやめとくか。
あまり詮索するような事でもないしな。
「悪い悪い。 ちょっとした意地悪さ」
「先輩ひどいですわぁ」
可愛く膨れっ面になりながらそう言う渚ちゃん。 普段はこんな表情あまり見せないが、出来るんだな。
「すまんすまん。 さ、次は何する? あと1時間半ぐらいだが」
「まだ結構あるんですね? せやったらちょっと見たい店あるんですけど?」
「おう。 だいぶ積極的になってきたな。 いいぞ、ついて行くぜ」
渚ちゃんについて行きたどり着いたのは。
「渚ちゃんよ。 さすがに中に入いるのは無理だぜ」
ランジェリーショップだった。
男子が入るのはかなりやばい。
「あはは。 外で待っててもろてええですよ。 すぐ出てきますさかい」
「お、おう」
とはいえ、店の前で待っているのもそれはそれで怪しい。
ちょっと離れて別の店の前で立って待つ事に。
「準備は進んでんのかね?」
気になったので亜美にメールしてみると「バッチリだよ!」と元気に返信があった。
ふむ。 ちょっと早いがそろそろ帰って、渚ちゃんの部屋でちょっとゆっくりするのも悪くはなさそうか?
渚ちゃんに相談してみるとするか。
10分程待つと、新たに紙袋を手に持った渚ちゃんが店から出てきて、キョロキョロと俺を探す仕草を見せる。
可愛らしいなぁ。
俺を見つけると、小走りに近づいてきた。
「店の前だと変態に間違われるかもしれなかったからちょっと移動したんだよ」
「ははは、そうですね。 それは嫌ですわ。 次どないします?」
「ん。 考えたんだが、そろそろ戻って渚ちゃんの部屋でゆっくりするってのはどうだ?」
「ええですよ。 でも先輩、女の子部屋でゆっくりするて……」
「べ、別に何もやましい事は考えてないぞ!」
そうか、女子の部屋におじゃまするのが何か普通の感覚になっちまってるが、特に深い関係というわけでもない後輩の部屋に上がり込むって、普通に考えたら何かやましい事を考えてると思われても仕方ないことじゃないか。
「冗談やないですか。 さっきの仕返しです」
「な、何だそうか。 焦ったぜ」
「ははは。 ほな、行きましょか」
笑顔の渚ちゃんと共に、駅を目指して歩き出すのだった。
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