第504話 覚悟を決めて
☆渚視点☆
11月13日土曜日。
実は今日は私の誕生日。
あまり人から訊かれへんから、人に教えた事もあまりない。
ただ、麻美は仲良うなってすぐに訊いてきよったさかい、教えてある。
そやから、あの子は毎年祝ってくれとるんやけど。
「なははは。 誕生日おめっとー!」
「お、おおきに」
「なははは。 はい、プレゼント」
麻美は笑いながら大きな袋を手渡してきた。
プレゼントとかはいらん言うてんのにこの子は……。
「ってこれ、セーター?」
「そだよー? 手編み手編みー」
「手編みてあんた……」
セーターの時期にはまだ早いけど、なんやめっちゃ嬉しいやんか。
「大事にするわ」
「なははは! 夕也兄ぃに編む前の練習品だけどねー!」
なんや、そういうカラクリかいな。
ま、それでも私のために編んでくれたんやってわかるサイズと柄。
やっぱ嬉しいで。
「んでさー、今年は皆にも渚の誕生日を教えたんだよー」
「皆て?」
「お姉ちゃん達にー。 そしたら盛り上がってさー。 パーティーやるぞーって話になったよ」
「せ、先輩らは相変わらずやな。 勉強はええんやろか?」
「ストレスを定期的に発散しないとやってられるかー! って言ってたよー」
先輩達はなんというかほんまブレへんなぁ。 そやけどありがたいことや。
せっかく私の為にパーティーをしてくれる言うんやからありがたく甘えさせてもらう事にしよ。
「ほいでー。 もう一つ! 超サプライズがありまーす!」
「超サプライズ? 何やの?」
「もういいよー!」
と、誰かを呼ぶようにそう言うと……。
「おっす」
「い、い、いいい、今井先輩?!」
「なはははー!」
「なんか急に麻美ちゃんに連れ出されたんだが」
「夕也兄ぃ! 今からパーティーの時間まで渚のお相手をお願いするよー!」
「お? おお」
「え、ちょちょ、聞いてへんで?!」
「サプライズだもんー。 んじゃ! またあとでー」
麻美は「なはははー」と笑い飛ばしながら部屋を去っていた。 一体何なんや……。
「ふむ……俺も急に連れて来られてな。 どうすればいいんだろうか? ふうむ」
「先輩も大変ですね」
意味も分からず麻美に連れて来られたらしく、今井先輩もどうしたものか悩んではるみたいや。
しばらくの間考え込んでいた今井先輩は何か思い付いたらしく「そうだ」と発すると。
「何かプレゼントするから買いに出掛けようぜ」
「へ?」
そ、それってデートやないのん?!
ど、どないしよ……。
「ん?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってもらえますか?」
「おう。 出掛けるにも着替えたり化粧したりで女子は忙しいもんな。 待ってるからゆっくり準備しな」
「え、あ、はい」
なんだかわからないけども出掛ける事は決まってしまったみたいや。
思わぬ展開で今井先輩とデートすることになってもうた。
こうなったらお言葉に甘えさせてもろてぇ、プレゼント選びデートに行かせてもらおう。
そうなれば着替えと化粧や。
◆◇◆◇◆◇
出掛ける準備を済ませた私は、今井先輩と2人で駅へ来ている。
「どこまで行く? 色々見るなら市内まで行くか?」
「そ、そうですね」
「じゃあ市内までな」
「お願いします」
今井先輩と2人でデートなんて初めてやし、めっちゃドキドキする。
「にしても今日が誕生日なんて、もっと早く言えばよかったのによ?」
「まあ、そうなんですが。 あんまり人に訊かれたりせんかったんで。 自分から言うのもなんか催促してるみたいでなんか嫌やないですか」
「たしかにそれはそうだが」
「私はそこまでお祝いとかしてもろたりせんでも気にせぇへんですし」
「そうか?」
「はい。 まあでも今日は楽しみですよ」
「あいつら今日は気合入ってたぞ。 楽しみにしてていいぜ」
「ははは。 あ、電車来ましたよ」
というわけで電車に乗り込み市内を目指す。
月ノ木学園へ来てからもう何度買い物に出かけたかわからへんけど、それも今井先輩と2人きりとなるとまた別物に感じる。
こ、これがデートっちゅうやつか。
「何か欲しいものでもあるか? あんまりお高い物は買ってやれないが」
「そんな! 安物でええですよ!」
そんな高い物をお願いするつもりは最初からない。
それに、このデートそのものが私にとって最高クラスの誕生日プレゼントと言っても過言やないし。
「……」
誕生日か。 今日なんやないか?
「どうした?」
「あ、いえ。 何買ってもらおうかなと……」
「ははは、そっか。 じっくり考えろよー」
「はい」
勇気を出すんやったら、今日しかあらへんのとちゃうか?
清水先輩や麻美から散々訊かれてきた、いつ告白するのかという言葉。
最初の頃はそもそも告白さえする気はあらへんかったけど、最近は気持ちにも変化があって気持ちだけは伝えておこうと思うようになった。
覚悟がなかなか決まらんかったんやけど、今日がそのタイミングなんやないか?
「よし……」
「お? 決まったか?」
「あ、いえ」
「んん?」
不思議そうに首を傾げる先輩を他所に、私は覚悟を固めていくのだった。
市内に着いたので、私と今井先輩は電車を降りてショッピングモールへと向かう事にした。
あそこなら大体の物は買えるから便利。
「さあ、何買う?」
「そうですねぇ……」
あまり高くないもので欲しい物。 ふうむ。
そういえば、部屋に置いてある猫のぬいぐるみ、実は2つでペアの物やった気がする。
相方を買って揃えてやりたい。
たしかあのぬいぐるみを買った店は。
「こっちです」
「お?」
先輩を連れてぬいぐるみ専門のお店を目指していく。
店の前まで来ると、今井先輩は「なるほど、ぬいぐるみか」と、納得したように頷く。
私がぬいぐるみ好きだというのは、何度か部屋に来ている先輩はよく知っている。
「これぐらいなら買ってやれるぜ。 好きに選びな」
「はい」
とはいえ、もう決まっている。
「えーと、たしか。 お、おったおった! 先輩、この子です!」
「ん? 猫か。 あれ? これ、渚ちゃんの部屋になかったか?」
どうやら、私の部屋に置いてあるぬいぐるみに似ている物があることを覚えていたようだ。
ちょっと嬉しい。
「実はあれ、2匹で1ペアなんですよ。 揃えてやりとうて」
「ほほう、なるほどな、 よし、いいぞ」
「お、おおきにです!」
私はその猫のぬいぐるみを手に取り、今井先輩と会計へ向かう。
「ありがとうございましたー」
購入完了!
「これで家の子も寂しくあらへんで」
「良かったな。 さて、今戻ってもパーティーの準備まだ終わってねぇだろうし。ちょっと遊んでいくか?」
「え? そ、そうですね」
デ、デート続行?
「さあ、どこへ行くかー?」
「そ、そうですねぇ。 喫茶店とかでゆっくりしませんか?」
「ん、そうだな。 じゃあ、俺と亜美が良く行く店に行くか」
「はい」
どうやら2人がデートの時によく利用する店があるらしいので、そこへ案内してもらう事に。
相変わらずい緊張してドキドキするけど、楽しまなもったいないやんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます