第507話 時は来た

 ☆渚視点☆


 誕生日パーティーもツイスターゲームを終えて、少しゆっくりとする時間が出来た。

 神崎先輩からは相変わらず下着について色々質問されている。

 いらんもん見られてもうたな。


「ねーねー、あのエロエロ下着は何よー?」

「な、何でもあらへんですって」

「いやいや、あんな黒レースのスケスケ、何でもないわけないじゃん? 私の見立てでは勝負下着ね」

「うぐ……」


 あかん。 この人に見られてもうたんが運の尽きやな。

 これは今日の昼に買ってきた新しい下着で、神崎先輩の言う通り勝負下着や。

 今日告白すると決めた時に、覚悟の証として買った物。


「きゃはは。 頑張りなよ渚ー」


 そして耳元に顔を近付ける神崎先輩。


「今井君ね、胸で挟まれるの好きよー」


 と、とんでもない事を私に告げて離れて行った。

 む、胸で……私でもやれるやろか?

 いやいや、てか神崎先輩はなんでそんな事知ってんねん。


「よーし、次は王様ゲームやるわよー!」


 休憩が終わったところで、神崎先輩がまた新たなゲームを始めてしまうのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 皆が用意してくれた料理もあらかた片付いたタイミングで、西條先輩が持って来てくれたケーキがテーブルの上に出された。

 凄い美味そうや。


「まだ食えるのか皆は」

「女子すげーな」

「夕也ちゃんも宏ちゃんも、まだわかってないんだねぇ。 甘いものは別腹なんだよ」

「そゆこと」


 それに対して佐々木先輩が「太るぞ」と言ってしまった為に、女子全員から非難の嵐を受けてしまった。


「女の子にそれは禁句だって言ってんでしょ!」

「佐々木ー! その口かー!」

「なはははー! 宏太兄ぃ、くらえー! 四の字固めー!」

「こっちは腕ひしぎ十字固めよー! きゃははー!」


 麻美と神崎先輩から関節技を極められて苦しんでいる。 他の皆はそれを眺めながらケーキを食べて笑っているという異様な光景が繰り広げられている。

 この人らホンマめちゃくちゃやで。


「ギブギブー!」

「宏太兄ぃー女子を怒らせるとこうなるんだよー」

「覚えとけー」


 あ、佐々木先輩は解放されたようやな。 麻美と神崎先輩もケーキに口を付け始める。

 それにしても美味いケーキやな。 多分、西條先輩のことやからめっちゃええケーキなんやろう。


「これ食べたらプレゼントタイムにしましょ」

「そだねぇ。 良い時間だもんねぇ。 んむんむ。 ん? 夕ちゃん食べないならちょーだい」

「やらねぇよ」

「あぅ」


 清水先輩も甘いものに関しては食い意地が張るようで、次は佐々木先輩にも同じことを聞いて半分のケーキをゲットしていた。


 皆がケーキを食べ終えたところで、プレゼントタイムが始まった。

 麻美と今井先輩からはすでに貰っているので、その他の皆からやな。

 まずは清水先輩と雪村先輩から。


「はいこれ。 スポーツタオルだよ」

「おお、おおきにです。 ちょうどもう一枚欲しかったとこなんですよ」

「そうなの? 良かった」

「さすが亜美ちゃん、良いチョイスだよぅ」


 これは大事に使わせてもらおう。

 次は藍沢先輩と佐々木先輩から。


「はいこれ」


 と、紙袋を手渡してきた。

 袋の中を開けてみるとバッグが入っている。


「これはバッグですか?」

「そうよ。 ちょっと良いやつよそれ」

「使いやすそうですね。 ありがたく使わせてもらいます」


 藍沢先輩と佐々木先輩にお礼を言うと、その後ろから西條先輩が近付いてくる。

 最後は西條先輩、神崎先輩、蒼井先輩、あと北上先輩からのプレゼント。

 西條先輩が持っている紙袋には見覚えがある。


「はい」

「こ、ここ、これてSAIJYOブランドの……」

「ええ、うちのブランドの新作の財布よ」

「奈央の家のブランドなのにお金払わされたのよー」

「当たり前でしょ! 私だって一お客さんなんだからお金は払います」

「高かったんだぞー」


 す、凄い高級な物をもらってしもたでこれ。

 

「こ、こんなええ物いただいてええんですか?」

「良いわよ」


 と、あっさり言われてしまう。

 だ、大事に使わしてもらお。


「プレゼントはこれで終わりー?」


 一通りプレゼントをもろたところで麻美が一度確認する。

 皆が頷き、プレゼントタイムは終了となった。


「皆さん、ほんまおおきにです。 全部大事に使わしてもらいます」


 嬉しすぎて泣いてまいそうや。

 

「さて、そろそろお開きにしましょうか?」


 と、藍沢先輩が訊くと、神崎先輩と麻美はまだ騒ぎ足りないと文句を言う。

 ほんまに騒ぐのが好きな人達や。

 結局、テーブルの上にお菓子を並べて1時間半程ぐだぐだと駄弁り続ける事になった。



 ◆◇◆◇◆◇



 パーティーが終了した後、皆で部屋や食器の後片付けをしたんやけど、主役の私はやらんでええと言われて先に部屋に帰ることに。

 部屋までは、いつも通り今井先輩が送ってくれはる。

 予定通りや。


「今日は楽しかったです。 一日付き合って下さって、ホンマ感謝です」

「何。 可愛い後輩の為だ」


 可愛い後輩か……。 どうやらその先にはまだまだ到達でけへんみたいやな。

 せやけど、今日は前に進むで。


「しかし、色々もらったな? 俺が買った猫のぬいぐるみとかチンケに見えるぞ」

「そんな事はあらへんと思いますよ? どれも同じくらい嬉しいですから」

「良い子だなぁ、渚ちゃんは」

「そ、そやろか……」


 照れる。

 そんな感じで会話をしながら、気付けば部屋の前に着いていた。


「そや、先輩。 部屋入っていかれへん? コーヒー出しますよ?」

「お、じゃあちょっと上がって行くかな」


 よし、今井先輩を部屋に誘う事に成功したで。

 いよいよや。 時は来た。


 ガチャ……


 部屋に入ってまずはコーヒーを用意する事に。

 焦るな。 焦ったらあかんで。


「俺、最近はよく部屋に入ってるなー」

「そうですか?」

「うむ。 好きな男子とかに見つかって誤解されたりしないか?」


 貴方がその好きな男子なんやけども。

 ホンマに鈍感というか何というか。 私に対してだけやろか?

  

「ははは、大丈夫です」


 まあええわ。 今日気持ちを伝えたら嫌でもわかってくれはるやろ。

 

 ゴト……


「どぞ」

「サンキュー」


 コーヒーをテーブルの上に出し、私は向かいに座る。

 先輩は、美味しそうにコーヒーを飲む。

 何かこうしてると恋人みたいやな。

 なんて考えとる場合やない。 そろそろ切り出さな。


「あ、あの先輩」

「んあ?」

「そ、その大事なお話があってですね」

「大事な話? ずずーっ」


 き、緊張感あらへんなぁ。 大事な話や言うてるのに。

 ま、まあええわ。 ちょっと落ち着いて……。

 よっしゃ。


「わ、私ですね。 実はですね!」

「お、おう?」


 心臓がバクバクする。 し、死んでまいそうや。


「あ、あの……」


 勇気を出すんや。 今日って決めたやんないか。 今日告白でけんで、いつ出来るって言うんや。


「す、すす……」

「すす?」

「すす、好き……です」

「んん? コーヒーか?」


 この人はー!


「ちゃいます! 先輩の事が好きなんです!」


 私はついに、先輩にこの想いを打ち明けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る