第486話 体育館を脱出せよ?

 ☆夕也視点☆


 体育館でのライブを終えた俺達は、控室の中で休憩中だ。

 情報によると出口は女生徒達でごった返しているらしく、体育館から出るのは一苦労しそうである。

 

「しかし盛況だったな」

「だなぁ。 方針変えて正解だったよなー」


 当初は3人で舞台に上がり、BGMはCDでという予定だったが、楽器が出来る奴が多かったのでBGMはそいつらに任せた。

 そうなってくると他の奴らも舞台に上がりたいという話になり、バックダンサーを付けることになったのだ。

 結果は大成功で、かなりクオリティの高いものに仕上がったと思う。


「だがよー、お前らやっぱモテるよなー。 なんだよあの黄色い声援」

「きゃー佐々木君ー」

「歌声だけで妊娠するとかってのも聞こえたぞ」


 たしかに聞こえたな。 まさかあんなに声援がもらえるとは思ってなかったんだが。

 調子に乗って手の甲にキスとかして回っちまったが、後で亜美に何か言われないだろうか。


「さて、この女性との山をどう脱出するよ」

「もう揉みくちゃにされながら出るしかねぇんじゃないか?」

「揉みくちゃにされながらどさくさ紛れに揉みくちゃにってか?」

「三山お前捕まんぞ」

「事故だろぉ……」


 まあ多少の接触ぐらいは事故で済むかもしれんが、なるべく穏便に行きたいものだ。


「やっぱり強行突破以外ねぇか……」

「んじゃまあ、一丁行きますか……」

「先陣は俺が切る。 遅れるなよお前ら」


 無駄に男前な事を言うのは谷崎。

 こいつ女子に揉みくちゃにされたいだけなんじゃないのか?


「よし行くぜ! 続け!」


 引き戸に手を掛けて扉を開け、谷崎が先陣を切り女子達がひしめく体育館へ。


「誰よ!」

「今井君出してよ!」

「佐々木くんー!」

「三山君どこ?!」

「どきなさいよ!」


 ドカッバキッ!


「あ、扱いの差が……お前ら……俺の分まで……生き……ろ……」

「谷崎ー!!」


 大して惜しくもない奴を亡くした……。

 さて、このまま一気に突っ切るか。


「あ、佐々木君よ! 好きです! 付き合って下さい!」

「悪い! 彼女いるから!」

「構わないわ!」

「怖ぇ!」

「今井君抱いてー!」

「いやいや、そういうのは恋人とか作ってやった方が良いぜ!」

「大丈夫! 私の脳内ではもう今井君と結婚してるから!」

「脳内の俺とお幸せに!」


 思っていたよりかなり厳しい状況のようだ。

 この女子達の山を抜け出すのは至難の業か。


「夕也兄ぃ! こっちだよー!」

「先輩達! 早く!」

「早く早くー!」

「あまり抑えてられませんわよ!」

「ぬおー!」

 そんな中で聞き知った声で呼ばれてそっちを見る。

 そこには他の女子に揉みくちゃにされながらも

 何とか道を作ってくれている友人達がいた。


「ありがてぇ! お前らこっちだ!」

「おう!」


 俺達は友人達が開けてくれた僅かな隙間を通り抜けて、何とか体育館を抜け出す事に成功した。



 ◆◇◆◇◆◇



「はぁはぁ……」

「凄いな、女子力ってのは」

「なんか違うくないか?」


 女子力ってああいうのじゃないだろ。

 体育館を抜け出した俺達は、熱りが冷めるまで身を隠す事に。

 体育館からは、未だ熱冷めやらぬ女子達が血眼になりながら俺達を探している。

 麻美ちゃん達は無事だろうか?

 と心配になり、身を隠しながら目だけで体育館の方の様子を伺う。

 すると、疲れ果てた様子で体育館から姿を現す友人達。


「おーい!」


 その友人達を呼び寄せる為に声を掛けると、皆はのそのそとこちらへ歩いて来た。


「だ、大丈夫か?」

「なんとかー……」

「皆、興奮して我を失ってたわね……死ぬかと思いましたわ」

「凄い盛り上がりだったものねー。 私も興奮しちゃった」

「しかし、凄い人気ですね」


 と、他人事のように言う春人。 お前もモテるんだろうが。

 渚ちゃん、柏原君は疲れ果てて声も出ないといった感じのようだ。

 遥ちゃんとその彼氏さんは逆に余裕があるらしい。


「何はともあれ助かった」

「まあ、仲間だからね。 ご褒美に今井君がキスしてくれていいわよ」

「彼氏の前で何言ってるんだよ紗希……」


 相変わらずな紗希ちゃんに苦笑いを返しながら、周りを見てみる。

 亜美達のグループはいないようだ。


「亜美姉達なら先に回ってるよ。 お客さん連れてるから時間が惜しいって」

「まあたしかにそうか」


 月島さんや宮下さんまで巻き込むわけにはいかないしな。

 スマホを確認してみると「落ち着いたら連絡してね」とメッセージが届いていた。


「しかし、今度は私達が男子に追い回されるのかー……」


 と、紗希ちゃんは腕を組んで「大変だこりゃ」と唸っていた。

 今日舞台に上がる5人は皆、可愛かったり美人だったりで男子人気も高い。

 俺達の時のような大混乱が予想される。


「その時は俺達3-A男子が道を作ってやるよ」

「頼りにしてますわよ」


 困った時はお互い様ってやつだ。 皆はこれからお昼に何か食べに行くということでその場で別れて、俺達は亜美達に連絡を入れる。

 亜美達は食べ物屋台の並ぶ一角にいるという事で、宏太と2人でそこへ向かった。



 ◆◇◆◇◆◇



 俺と宏太は身を隠しながらなんとか食べ物屋台エリアへやって来た。

 キョロキョロと亜美達を探していると……。


「こっちやー」


 と、大きな声で呼ぶ声が聞こえてきた。

 ふむ、わかりやすいなぁ。

 声の方へ向かって歩いていくと、亜美を始め5人の女子が立っていた。


「お疲れ様だよ。 よく抜け出せたねぇ」

「あぁ、皆が体張って道を作ってくれたんだよ」

「皆? 奈央達?」

「おう。 女子の時は俺達が体張って道を作るぜ」

「頼むよ、宏ちゃん」

「まあ、私にかかれば男子の群れなんて敵じゃないけど」


 と、指をポキポキ鳴らしながら物騒な事を言い出す奈々美。

 体育館に男子が大量に倒れているというような地獄絵図になりかねないので、俺達がなんとかしなくてはならない。


「さ、揃った事だし何か食べましょー!」


 お腹を空かせていたのか、宮下さんがそう言った。

 どうやら俺達が合流するまで食べ物は我慢していたらしい。

 早速周りの屋台で何か買う事にした。


「ウチたこ焼き買うてくるわ」

「あ、私も」


 月島さんと奈々美はたこ焼き屋台へ向かう。

 俺は焼きそばでも食うかな。


「私はこの後ダンスだから終わった後にするよ」

「私はたい焼き食べるよぅ」


 希望ちゃんたい焼きを買いに行ってしまった。

 皆、思い思いのものを買って食べ始めた。


「美味いやんこのたこ焼き」

「ね? 難しいらしいけど外はカリッと中はトロリ。 プロの仕業ね」

「んぐんぐ。 焼きそばもイケるわよー」

「んな。 うめぇ」

「両方買った俺最強」


 と、たこ焼きと焼きそば両方を食べている、欲張りな奴もいるようだ。


「女子は何時からだ?」

「んー、ライブ開始が13時半だから13時には体育館入りかな」

「そうか。 じゃあまだちょいと回れるな」

「だねぇ」


 時間までどこを回るか相談しながら焼きそばを啜る。

 女子のライブも楽しみだな。

 早く見たいと思う俺たのだった。

 

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