第485話 男子のライブ

 ☆亜美視点☆


 ライブの準備で裏へ移動した夕ちゃんと宏ちゃん。

 私達は客席の方へ向かい並んで座る。


「楽しみやな」

「うん。 私達も練習見てないから完成形を初めて見るんだよ」

「踊るのは夕ちゃん君と宏ちゃん君?」

「もう1人三山って奴もいるわよ。 うちのクラスのイケメン三銃士ってとこね」

「うん」


 イケメン度だけで言えば宏ちゃんが一番だ。 でも私が好きなのは夕ちゃんだよ。

 体育館に用意された座席は埋まっており、立ち見も出来ている。

 夕ちゃんと宏ちゃんは学園の中でもモテモテだ。 それどころか他校の女生徒からも人気があるのだ。


「凄い人気ねー」

「まあ、あの見た目やからな。 人気もあるやろ」


 弥生ちゃんから見てもイケメンだと思うらしい。


「佐々木君ー!」

「今井君ー!」


 まだ姿を表す前から、他の女子達はすでに興奮状態になっている。

 どこで売っていたのか、夕ちゃんや宏ちゃんの顔写真が入った団扇を持っている人が沢山いる。


「ねーねー! その団扇どこで売ってたの?」


 コミュ力抜群の宮下さんが、隣の知らない女生徒から売っている場所を聞き出し「ちょっと行ってくるから席取っといて!」と、言って消えてしまった。

 夕ちゃん、宏ちゃんファンなのかな?

 それにしても思い立ったらすぐ行動。 行動力の塊だ。


「来年からあんなんと同じチームかいな」

「都姫女子バレーボール部も、宮下さんには手を焼いてたみたいだよ。 苦労しそうだね」

「ま、頑張んなさいよ」


 来年以降の苦労を想像して溜息をつく弥生ちゃんであった。


 10分程で帰ってきた宮下さんの両手には、夕ちゃんと宏ちゃん両方の団扇が。

 中々欲張りさんである。


「こうやって見てもイケメンよねー? どっちかちょうだいよー」

「あげないよ?」

「自分で良い人探しなさいな……」


 宮下さんは「出会いが無い」と愚痴るのだった。


「ええやん、彼氏なんかおらんでも」

「嫌だー……やっぱり将来は好きになった人と幸せに暮らしたいー」


 中々切実なようである。

 

 そんな話をしていると、体育館の照明が落ちて、舞台の上だけが照らされる。


「お、始まるみたいやで」

「楽しみだよぅ」

「どんな仕上がりになったのかしらね」

「うおー! 夕ちゃん君ー! 宏ちゃん君ー!」


 実に楽しみである。


「それではこれより、3-A組男子によるライブを始めます」


 アナウンスが流れるとBGMと共に男子達が舞台に姿を現した。


「うわわ」

「あら……」

「はぅ」


 私達は驚きの声をあげた。 当初の予定では舞台に立つのは3人になっていたはずだけど、バックダンサー5人にベースやドラム等の楽器を持った生徒5名。

 計13名が舞台に上がっていた。


「どないしたんや?」

「何かあった?」


 よく知らない弥生ちゃんと宮下さんが首を傾げながら訊いてきたので、最初に聞いていた構成と大幅に変わっている事を説明した。

 いつの間にこんな変更を……。


「これはやられたわね。 男子に良いとこ持ってかれたわ」

「だねぇ」


 これは男子グループはかなり力を入れてるみたいだね。

 夕ちゃんも毎日疲れて帰ってきたわけだ。


「今日は3-A男子グループ『TRY A』のライブに来てくれてサンキュー!」

「きゃーっ! 佐々木くーん!」


 物凄い人気である。

 宏ちゃんってこんなにモテてたんだね。 私達のグループだとぞんざいに扱われてるから気付きにくいけど。

 それに何気にグループ名まで付けている。


「メンバー紹介するぜ。 まずは俺! 佐々木宏太だ! 次ぃっ!」

「おう! 今井夕也だ! 今日は楽しんでってくれな!」

「きゃーっ今井君! こっち向いてー!」

「こっちか?」

「きゃーっ!!」


 な、何やってるんだか……。


「ぎゃははは! おもろいやん!」

「夕ちゃん君ー! こっちもー!」

「おう!」


 はぁ……恥ずかしいよ。


「次!」

「三山大輔だ! 皆テン上げでいくぜー!」

「イェーイ!」


 と、何だかんだで体育館内のムードはどんどん盛り上がっていく。

 掴みは完璧なようである。


「じゃあ早速一曲目いくぜ!」


 センターの宏ちゃんが振り向いて、後ろに座るドラマーに合図を送る。

 うちのクラスの男子に楽器できる人があんなにいたんだねぇ。


 次の瞬間、舞台から大迫力のBGMが流れ出した。


「凄い……」

「いやいや……うちの男子達ナメてたわ……」

「ええでー!」

「イエー!」


 弥生ちゃん、宮下さんもテンションが上がって盛り上がっている。

 曲自体は有名アーティストの曲だが、宏ちゃんも夕ちゃんも、それに三山君も歌が凄く上手い。


「その瞳にー♪」

「きゃーっ! きゃーっ!」

「今井君好きーっ! 歌声で妊娠しちゃうー!」


 するわけないよ……。 何年何組の女子なのよまったく。

 ワンコーラスが終わり間奏に入ると、バックダンサーと楽器メンバーを舞台に残して、3人が舞台から飛び降りてくる。

 どうやら、間奏中に客席を回るパフォーマンスのようだ。


「粋な事するやん!」

「何よあいつら。 ノリノリじゃないの」

「女子からボディタッチされまくりじゃん!」


 何という女子人気。 順番に観客席を回りながら、たまに女子と握手したり手の甲にキスしたりやりたい放題パフォーマンスをする3人。

 そしてその3人が、私達の列までやってきた。


「楽しんでるかー?」

「うん。 凄いねぇ! まさかこんな風になってるなんて」

「本当、上手く隠してたわね」

「まあな」

「夕ちゃん君! 私の手の甲にもキスしてー!」


 テンションが振り切っている宮下さんからお願いされて、夕ちゃんは宮下さんの手を取る。

 まあ、パフォーマンスだから大目に見てあげよ。

 観客席を回り終えた3人は、歌を再会しながら舞台へと戻っていく。

 うーん、カッコいい。

 これは惚れ直しちゃうよ。

 3人は舞台の上でダンスを踊りながら熱唱。

 更にはバック宙などのパフォーマンスも見せて、体育館内の女子達を魅了していく。

 男子もノリノリで盛り上がっている。

 夕ちゃん達のライブは大成功と言えるねぇ。

 そのまま休み無しで3曲歌い切る3人。


「皆、聞いてくれてサンキュー!」

「短い時間だったけど、楽しんでくれたかー!?」

「おおぉ!」

「午後からは3-A女子のライブもあるからそっちも見てくれ!」


 と、ちゃっかり私達のライブの宣伝もして、舞台からはけていった。

 さて、観客の女子達は何人か放心している子までいる。

 ちょっとしたアイドルである。


「いやー、凄いもん見せてもろたわ」

「ねー。 これには私も大満足!」

「惚れ直しちゃうよぅ……」


 一緒に見ていた皆も大満足だと口を揃えて言う。

 しかし、中々ハードル上げてくれたねぇ男子達。


「私達も午後は頑張んないとね」

「うん」


 負けてられないね。 練習した事を精一杯やって、みなに見てもらおう。


「んじゃ行こうか」

「何や、夕ちゃん達待たへんのか?」


 体育館を去ろうとする私に、渚ちゃんが聞いてくる。

 私は頷いた。


「多分、すぐには出てこれないよ」


 私は舞台控室の扉前を指差した。

 そこにら夕ちゃん達を近くで見ようとする女子達が集まっていた。


「ありゃ。 確かに無理そうだわ」

「時間勿体ないし、私達だけでどこか回りましょ」


 一旦、夕ちゃん宏ちゃんを置いて、私達は体育館を去るのであった。

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