第476話 亜美と宏太のデート
☆亜美視点☆
さて、今日は10月2日の土曜日。
本日は宏ちゃんとデートをする予定の日である。
「本当に宏太くんとデート行くの?」
「うん。 奈々ちゃんと夕ちゃんがデートするのを許可する代わりに、私も宏ちゃんとデートするって約束だからね」
「亜美ちゃんの方は罰ゲームみたいだよぅ?」
「そ、それは宏ちゃんに失礼な気がするよ……」
「夕也くんはいいのぅ?」
「まあ、俺も奈々美とデートに行っちまったからなぁ……止められんよ」
「あれれ、止めたいんだぁ? うふふ、ありがとう」
まあ、ちょっとは止めたいと思ってくれていることには嬉しく思う。
恋人としては多少は嫌なものだよねぇ。 たとえ相手が気心知れた親友でも。
「まあ、程々なデートにしろよ」
「わかってるよ。 じゃ、行ってきます」
「おう」
「いってらっしゃい」
夕ちゃんと希望ちゃんに手を振って別れ、駅前へと向かうのだった。
さてさて、今日もデートプランを練ってあるので楽しんでいこう。
◆◇◆◇◆◇
駅前に着いて周りをきょろきょろと見回してみても宏ちゃんの姿は見当たらない。
「ふうむ。 3分前ではあるけどまだ来てないか」
まあ宏ちゃんなのでこれぐらいは想定の範囲内だ。
宏ちゃんが来るまでベンチに座って読書をすることにした。
読書に集中していて気付かなかったが、ちょっと目を休めようと時計を見ると15分が経過していた。
「……まったく宏ちゃんってば」
仕方なくスマホで連絡をしてみる事にした。
もしかしたら何かあったのかもしれないもんね。
「あ、もしもし宏ちゃん?」
「はぁ、はぁ……亜美ちゃんわりぃ! 今向かってる!」
電話の向こうからは息を切らしながら話す宏ちゃんの声が聞こえてきた。
これは寝坊したね……。 仕方ないなぁ宏ちゃんは。
「ゆっくりでいいよぉ。 気を付けて来てね」
「おーう……」
ということで、もう一度ベンチに座って読書を始めるのであった。
さらに数分後──
「はぁ……はぁ……」
ようやく宏ちゃんが待ち合わせ場所に到着したようである。
時計を見ると9時50分。
私が提示した待ち合わせ時間からは20分遅刻だ。
「すまない亜美ちゃん! 遅くなってしまった!」
「10分早いよ」
「……へ?」
「私が宏ちゃんに言った待ち合わせ時間はね、私のスケジュールから30分早い時間に設定してあったんだよ。 こうなるのを見越してね」
「えーっと……つまり?」
「私が本当に待ち合わせたかった時間は10時。 つまり、宏ちゃんは時間より10分早い到着だってこと」
ここまで計算通りというわけである。
宏ちゃんは息を整えながら「俺の寝坊まで計算に入れるなよな」と、何故か文句を言われた。
「しっかり寝坊したくせに……」
「い、良いだろ別に」
「良いわけあるかー!」
ぽかぽかぽかぽか
と、宏ちゃんの頭をぽかぽかと叩く。
宏ちゃんは特に痛がる様子もなく「なんかしたか?」と、真顔で言うのだった。
ち、力が欲しい。
「はぁ。 じゃあ、行こ? 電車来ちゃうよ」
「了解。 行きますか」
私達は並んで歩き、改札を抜けて駅のホームへと向かう。
ちょいちょい宏ちゃんと2人で出かけたりした事はあったけど、デートと呼べる様なものは過去に1回ぐらいだ。
1年生の時のゴールデンウィーク、皆で旅行に行った時に1回。
あれはデートに数えても良いだろう。
「電車来たぞ」
「来たねぇ」
ホームに滑り込んできた電車に乗り込み、空いている座席に座る。
「空いてるな」
「空いてるねぇ」
何か微妙な会話の繰り返しである。
「足はもう良いのか?」
「んー。 リハビリにはまだ週一で通ってるけど、もう生活に支障は無いよ」
「そうか。 良かったな、早く治って」
「だねぇ。 月ノ木祭に間に合うか心配だったから、本当に良かったよ。 男子の方は練習捗ってる?」
「おう。 かなり良い感じだぞ」
男子と女子、お互い楽しみを取っておこうという事で、別々の場所で練習する事になったため、
男子がどんな仕上がりになっているのかを知らない。 本番が楽しみである。
「皆かっこいいんだろうねぇ」
「特に俺な」
「あはは、わかってるよ。 宏ちゃんイケメンさんだもんねぇ」
と、傍から見たらバカップル丸出しの会話な気もするけど、あんまり気にしないようにしよう。
幸い、周りはそんなに人がいないし。
「ね、普段奈々ちゃんとデートする時はどんな感じなの?」
「どんなって言われてもなぁ……いつものあのノリだぞ?」
「いつものあのノリ……」
私の頭の中には、宏ちゃんが奈々ちゃんを無意味に怒らせてぶん殴られたりしてるシーンが鮮明に浮かんできた。
「デートでもあんななの?」
「おう」
2人らしいといえばそうだけど、それをデートだと言い張るのはどうなんだろうか?
もうちょっと甘い雰囲気になったりしないのかな?
「痣の出来ないデートは新鮮だぜ」
「えぇ……」
何だか私の知らない世界があるようだ。
よし、こうなったら今日は、デートとは何たるかを宏ちゃんに叩き込むよ。
「宏ちゃん! デートのイロハを教えてあげるよ! 今日はデートの先生亜美ちゃんだよ!」
「な、何言ってるかわからんが気合いだけは伝わってきたぞ」
何だか空回りしてる気もしないでもないけど、私は今、使命感に燃えているのであった。
◆◇◆◇◆◇
電車を降りた私達が最初に目指すのは、宏ちゃんの為にチョイスしたと言っても過言ではない場所。
「じゃーん! 昆虫博物館!」
「おお! 来てみたかったんだよなぁ! 奈々美はこんなとこつまらないとか言って、絶対行ってくれねぇんだよ」
「あー、まあ女の子はねぇ」
虫の標本とか、虫が大きな飼育ケースで飼われてるのを見て喜ぶ女子は、そう多くはいないだろう。
私もあんまり好きな方ではない。
これは、就職試験を頑張って内定を貰った宏ちゃんへのご褒美のつもりである。
「んじゃじゃ、入りますか」
「おう!」
幾分テンションが上がっている宏ちゃんなのであった。
入ると早速、大きな飼育ケースが壁にいくつも嵌め込まれていて、中には何やら色々昆虫が入っているようだ。
「おー、テイオウヒラタクワガタだな! こっちのはパラワンオオヒラタクワガタだ」
「へ、へぇ……詳しいねぇ」
私には両方とも同じクワガタムシに見えるよ。
何ちゃらヒラタクワガタ、何ちゃらオオヒラタクワガタ。 どっちもヒラタさんじゃないの? 親戚?
「これはオオクワガタかな」
「あ、それは聞いたことあるよ。 黒いダイヤだよね?」
「そうだな。 ただ、そう呼ばれてたのも昔の話みたいだぜ。 今じゃ養殖でデカいのが作れるらしくて、並のサイズじゃ価値が無くなったんだと」
「そうなんだ」
昔は一攫千金を求めて、黒いダイヤを探しに雑木林に分け入っていく人達がたくさんいたらしい。
宏ちゃん、こういう事はよく知ってるね。
「お、タマムシだな」
「うわわ、綺麗な虫さんだね」
「だな。 鳥から身を守る為らしいぜ」
「おー、なるほど。 CDをベランダにぶら下げる的な」
「ま、まあ、そんな感じだな」
何だか、最初はあまり興味無かったけど、宏ちゃんが色々と教えてくれるからちょっとずつ楽しくなってきたよ。
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