第475話 努力は報われる

 ☆亜美視点☆


「行ってきまーす」

「ついて行かなくて良い?」

「子供じゃないんだから、病院ぐらい1人で行けるよ」

「そぅだけど……やっぱり松葉杖は大変だし、転けたりしたら危ないよ?」


 今日は私の通院日。 いつも私が1人で行こうとすると、心配してついて行くと言い出す希望ちゃん。 心配性である。


「大丈夫だから家事お願いね」

「はぅ。 気を付けるんだよ?」

「わかってるよー」


 とりあえずいつものやり取りを終えて、私は1人で病院へ向かった。

 病院は隣町にある総合病院へ通っている。

 電車に乗り、いざいざ。


「……そろそろ治ってくれないと練習出来ないんだけどねぇ」


 痛みはもう無いし、多分腫れも引いてるし、大丈夫だと思うんだけどねぇ。

 スマホのカレンダーを見て残り日数を確認する。


「あと3週間無いぐらいかぁ……」


 リハビリを考えると、やっぱり今日にはギプスを取ってリハビリを始めたいところだ。

 全治1ヶ月半から2ヶ月なんて言ってたけど、あんなのは長く見積もってるだけだよね。



 ◆◇◆◇◆◇



「清水さーん、どうぞー」

「はーい」


 病院で受付を終えた私は、レントゲンなどを撮り、今診察に呼ばれたのでいざいざ。


「……先生これは?!」

「ぬぅ……まさかこんな……」

「あ、あぅ?」


 レントゲンを見た看護師と先生が大袈裟な反応を見せるので、まさか悪化しているんだろうかと、不安になってしまう。


「あ、あの……」

「清水さん! 何をしたんですか?!」


 なんだか凄い勢いで問い詰めてくる先生。

 な、何をしたって言われても、安静にしていたとしか……。


「あの、まさか……」

「そのまさかだよ! こんな……」


 や、やっぱり悪化してるんだ……。 何もしてないのにどうして。


「おめでとう清水さん!」

「……はい?」


 おめでとう? 何が?


「剥離骨折は完治しているよ! いやー、良かったね!」

「おめでとう!」

「悪化してるんじゃなく?」

「治ってます」

「先程の大袈裟なやり取りは?」

「思った以上に治りが早かった為驚きのあまり」

「紛らわしい!?」


 あんなやり取り見せられたら、患者さん凄く不安になるよ。

 そういえば、宏ちゃんが言ってたっけ?


「あー、あの先生なぁ。 なんか患者さんにジョークかますの好きみたいだぜ? 気を付けろよー」


 とかなんとか……。 こういう事かぁ。


「いやしかし、想像以上に早かったので驚いたよ。 君の体は一体どうなってるのかね?」

「さ、さあ……普通だと思いますけど」


 もしかして私普通じゃない? そういえば以前、スキー場で遭難した時に病院でも同じような事を言われたっけ?

 これはいよいよ私自身が認めざるを得ない?!


「ギプス取りましょうか。 呼びますので処置室前でお待ちください」

「はい」


 やった。 とりあえずギプスが取れるよ。 これで練習に参加できる。

 頑張るよ。


「清水さんどうぞ」

「はーい」


 と、呼ばれたので処置室へ入る。

 中に入ると看護師さんが物騒な物を片手にニコニコしている。

 ま、丸鋸かな? あんなので切るの?


 ブィィィン!


 と、甲高い音を出しながらそれが動き始める。

 

「動かないでねー。 動くと折角治った足が半分に裂けちゃうからねー」

「うわわわわわわ!?」



 ◆◇◆◇◆◇



「ははははは! 冗談冗談! これはね、人の皮膚は切れない様に出来てるんだよ」

「……」


 さすがの私もかなりビビッてしまった。

 この先生、かなり良い性格をしているようだ。

 私は足が無事なのを確認してホッと一息ついた。


「はい、これで終わり。 リハビリテーション科に寄って帰る事」

「はい、ありがとうございました」


 ふぅ、念の為に靴を持ってきておいて良かった。 裸足で帰らなくちゃいけないとこだったよ。


 私は言われた通りにリハビリ科に寄り、軽くリハビリの説明を受けてから家路についた。


「自分の足で歩くのはやっぱり良いねぇ」


 等と、大袈裟な事を言いながら歩いていると、珍しい人からスマホにメッセージが来た。


「宏ちゃん? 何々?」


 メッセージには「内定もろた」とだけ書かれていた。


「おお! 内定! やった! さっすが宏ちゃんだよ!」


 努力してたもんね。 努力はやはり報われるものである。

 私も足が治った事を皆に報告。

 盛り上がる皆は「明日は宴会だー!」と、勉強も練習もそっちのけになるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


 お休みになる今日は、受験勉強も程々にして夕方から宴会を始める事に。


「じゃあ、今日は私が音頭を……」


 紗希ちゃんが今日の宴会を執り仕切るらしく、ジュースの入ったコップを手に立ち上がる。


「こほん。 えー、それでは! 亜美ちゃんの快気祝いと佐々木君の就職内定を祝ってー! 乾杯!」

「かんぱーい!」


 というわけで宴会がスタートした。

 主役は私と宏ちゃんという事で、2人並んで真ん中の席に座っている。


「いやーめでたい! めでたい!」


 遥ちゃんはテンションも高く、宏ちゃんの背中をバンバン叩いている。


「亜美、治るの早かったわね?」

「言っても1ヶ月半近くは掛かってるよ?」


 先生は大袈裟に驚いていたが、当初の予定通りだ。

 と、思ったが先生は2ヶ月は間違いなく掛かると踏んでいたらしい。


「これで皆と練習出来るね」

「そうね。 頼むわよ」

「うん」


 奈々ちゃんとお話をしていると、宏ちゃんが話しかけてきた。


「亜美ちゃんサンキューな! 色々と協力してくれたおかげで、内定貰えたんだ」

「いやいや、宏ちゃんが頑張ったからだよ」

「そうですよ。 宏太の頑張りは皆が見てましたし」

「ま、まあな! ふははは!」


 と、調子にすぐ乗る宏ちゃんなのであった。

 そういえば……。


「ねね、宏ちゃん」

「ん?」

「私の足も治ったし、今度デートしよ」


 周りが急に静かになり、次の瞬間。


「亜美ちゃんが佐々木君と浮気よー!」

「亜美ちゃん、良いの?! 佐々木君よ?!」

「はぅー! はぅー!」


 周りが変な盛り上がりを見せ始めた。

 この件については話してある夕ちゃんと奈々ちゃんは、逆に冷静である。

 このデートのいきさつについて、皆に詳しく説明してようやく落ち着くのだった。


「入れ替えデートねぇ」

「面白そう! ね! 今度私のとことも入れ替えデートしよ!」


 と、紗希ちゃんが前のめりになり聞いてくる。

 紗希ちゃんは危険因子だよ。


「ダメ! 紗希ちゃんはダメ!」

「なんでー!」

「紗希ちゃんは夕ちゃん襲うでしょ?」

「そりゃデートしたらえっちもしちゃうわよ?」

「だからダメ」


 紗希ちゃんは「ちぇーっ」と言いながら引き下がる。 夕ちゃんを守る事に成功。

 宏ちゃんとのデートは来週のお休みにする事に決定。

 新鮮な感じで楽しみだよ。


「でも佐々木がいち早く進路を決めちまうなんてなー。 私も頑張らんとな」


 と、遥ちゃんもやる気になったようである。

 私達も月ノ木祭に受験と、頑張らないとね。

 宏ちゃんが示した通り、努力は報われるのだから。

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